幸運とリスクの割合?
五
「いやーっ、危なかったもう少しでアパート追い出
されるとこだったよ」
浩一が、取り敢えずしたのは住居費、光熱費、通
信費の支払いだった。先ず、これを押さえとかない
とネットビジネスどころかインターネットも使えな
いんじゃ笑えない笑い話になってしまう所だった。
パソコンはちょっと型は古いがアマゾンで安い中古
品を注文して買った。これで、何とか仮想通貨で一
儲けするという足掛かりは出来た格好だった。パソ
コンが、届いたので早速机の上に置いた。今度は、
ノートパソコンではなくデスクトップ型を用意した。
次に、しなければならないのが仮想通貨を手に入れ
る為に取引所に承認してもらう事だが承認は難なく
出来た。だが、問題は資金だった支払いを済ませて
みれば手元に残ったのは十五万程でそこからさらに
食費を差し引くと十万位しか残らない計算になる。
「軍資金は、十万円か少し足りないけどこれ以上お
袋から借りられないしな先ずはこれを増やす所から
だな」
残暑とはいえ、暑さがまだ躰に答える季節だ。気
温は、30度は軽く超えてるみたいだ日頃運動もあま
りせず部屋の中ばかりいる浩一には町中に出るだけ
で重労働だったが出ないわけにはいかなかった。取
引所の、承認その他はインターネットで済むが、さ
すがに入金は実際に銀行に行かないと出来なかった。
浩一が仮想通貨関係で忙殺されていたこの一週間の
間にビットコインは3万円から4万円台に値上がりし
ていた。浩一の心の中で少し焦りの心が芽生え始め
ていたがとにかく無我夢中で準備をしていた浩一に
はそれに気づく心の余裕は無かった。手始めに、浩
一はビットコインでは無い仮想通貨をそれも出来る
だけ安い物を買ったのだがそれには訳があった。確
かに、ビットコインはこれからも驚異的に価格を上
げるかも知れないが、いかんせん浩一には資金力が
無い今のあるだけの金を注ぎこんでも買えるのはせ
いぜい2ビットか3ビット位のものだ。それではいく
ら爆上げしてもたかが知れていた。そこで、浩一が
目をつけたのがビットコインが市場に出てからその
後を追って雨後の筍のごとく出て来た。アルトコイ
ンと、呼ばれる仮想通貨で元々凝り性のこの男は仮
想通貨やトレーダーについて調べに調べまくったの
である。ビットコイン以外で、今から値上がりしそ
うな物とか将来性のある物それに何といっても価格
が安い物でないとだめだ。それで、幾つかめぼしい
物をピックアップしておいた中からこれはと言う仮
想通貨を買った。
「よし、これで仕込みは出来た後はひたすら待つだ
けだな」
浩一の、頭の中ではこういう計算が出来上がって
いた。先ずは、手持ちの金の十万円を選びに選び抜
いた仮想通貨で倍にする。その倍に、したものをま
た別の有望な仮想通貨に撃ち込む後はそれをただひ
たすら繰り返す倍が4倍になり4倍が8倍になりそして
最終的に何百万となる計算だ。そこで、その金でビ
ットコインを買う後はビットコインが上がるのを見
てるだけで良いと言う寸法だ。だが、世の中そんな
に甘くはない浩一が考えているようにそう簡単に事
が進めば誰も苦労などはしないと普通はそう思うの
だが、この時どうやら浩一には運命の女神がちょっ
とだけ微笑みかけたらしく正に浩一が現金を仮想通
貨に換えたその時から異常なまでのバブルが仮想通
貨の世界で始まりかけていたのである。正に、浩一
が買ったアルトコインは最初日本円にすれば0.1円位
だったものが短期間で瞬く間に1円になり10円にまで
駆け上り最終的には百円台まで値段をつけてしまった
のだ。こんな事が、たったの一カ月間に起こった出来
事だとは当の浩一ですら信じられない事だった。
「笑いが止まらないというのはこういう事を言うんだ
な」
と、浩一は思っていた。何の事はない最初考えてい
た倍々ゲームなどする必要もなく浩一は十万の原資を
何と2千数百万円までに押し上げていたのである。後
は、最初の計画通りこのアルトコインからビットコイ
ンに乗り換えるだけであった。だが、その前にする事
がもう一つあるビットコインを取り扱う取引所の選定
だ。と言っても今日本でビットコインを取り扱ってい
る取引所は全部で7カ所だった。外国の、取引所とい
う手もあるが英語圏でもあるし何かあったときにやは
り日本の方が便利が良いだろうという事で浩一はその
7カ所の中でも世界的に一番取引高の多い取引所に決
めていたが、どんな感じの取引所か調べてみようとい
う単なる好奇心で浩一は連絡を取ってみる事にした。
「トゥルルートゥルル―」
携帯の、呼び出し音が聞こえ直ぐ相手が出た。若
い、女の声がした。
「はい、こちらは仮想通貨取引所のマゥント・ゴッ
クス社でございます」