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歪んだ歯車  作者: 村上蘭
1/12

ダメ男はロックが似合う



 一




  今いる、世界が全てならそれに従うしかない、


 それはそうだろうとは思っている。多分もう決


 まっている運命なのだと、自分がどう逆らって


 も変えようもない事であったとして、それでも


 違う未来があるような気持ちには時々なったり


 する。もう少し運命の女神が微笑んでくれると


 したら・・・


 


 ドスンと尻もちをついた、痛みは無かった目


 の前が真っ暗になり暫く視界が戻らなかった。


 漸く眼が元に戻ったとき状況が解ってきた。ど


 うやら俺は3,4人の男たちにボコられている


 ようだ。記憶があいまいで思い出せないが居酒


 屋で一人酒を呑んでいた事は思い出した。どう


 やら、この男たちと何か揉めて店の外に連れ出


 されたのかも知れないが、一向に思い出せない


 俺はいつもこうだ。結局、その夜は散々殴られ


 蹴られして解放された。




 「いててて、あいつら手加減というものを知ら


 ないのか」




  足を引きずって、アパートまでは何とか辿り


 ついたが部屋に入るとそのまま寝てしまった。


 少し躰に残ってたアルコールが手伝ってくれた


 ようで布団がいつも敷きっぱなしなのはこうい


 うときに便利だと思った。中村浩一32歳結婚は


 していない当然子供もいない彼女もいないが童


 貞ではないさりとて財産があるわけでもない。


 おまけに、今は失業中で仕事も無い要するにな


 いないづくしのダメ男なのだ。




 「うわーっひどい顔だな」




  あちこち痛むのを我慢しながら浩一は顔を洗


 い歯を磨いた。ないないづくしの、ダメ男のく


 せにこういう所は妙に潔癖症なのが、不思議な


 男である。




 「いよいよ、来月で失業保険が切れるか・・・


 うーん、まあどうにか成るだろう」




  テレビの、ワイドショーを見ながら浩一は言っ


 た。どうも、この手の男というのは経済観念とい


 うものが少しいや随分と欠如しているみたいだ。


 どうにも、ならないなら普通は仕事でも探しに行


 くかという発想をするのだがこの男はは金がもう


 すぐ底を突くと解っていながら昨夜も居酒屋に繰


 り出したのだ。




 「さあ、今週のトピックスはこちらの話題です」




  ワイドショーの、司会者が喋っているのを浩一


 は何気なく見ていた。




 「今日は、最近話題の仮想通貨について経済評論


 家の伊藤忠雄さんに詳しく解説して貰おうと思っ


 ています。では、伊藤さんお願いします」




  いつもの様に、取ってつけたような笑顔で司会


 者がコメンテーターを紹介した後テレビカメラが


 司会者から経済評論家の伊藤に向く。




 「はい、それでは最初に仮想通貨って何という人


 もおられると思いますので、その辺りから話して


 いきたいと思います」




  伊藤は、ADが持って来たパネルを出してスタジ


 オにセットした。簡単な、貨幣の流れを書いたパ


 ネルだった。




 「そもそも、貨幣の始まりと言われているのは最


 初貝だとか石のようなものから始まったと言われ


 ていますが、簡単に言えば何でも良かったんです


 ね。それまで、物々交換していた物を誰かがこの


 貝とか石には、その品物と同等かそれ以上の価値


 がありますよって決めたんですね。この場合の、


 誰かと言うのはいわゆる時の権力者と言われる人


 達です」




  それから、伊藤の話は貨幣の歴史に移り、貨幣


 の種類等々こまごまとした説明が続いた。司会者


 が、ときおり絶妙のタイミングで質問をぶつけて


 来る。




 「これで貨幣という物が、どんなものか大雑把で


 すが解っていただけたと思います。さて、ここで


 本題の仮想通貨の説明に行きたいんですが、20


 08年、ナカモト・サトシと言う日本人がある論


 文を発表したんです。その論文と言うのが今日話


 題の仮想通貨の概念を書いたものだったのです」




  一気に、喋り過ぎたのか伊藤は咳払いを一回


 してそれからまた話し出した。




 「その概念と言うのは、それまでの貨幣の在り方


 をひっくり返すような内容でした。いままで貨幣

 

 は国が、これを保証しますからみんなでお金とし


 て認めてくださいよと言う感じで国の保証の元使


 っていた訳ですが、この論文の仮想通貨と言われ


 るものはインターネット上ではありますが、後で


 説明するブロックチェーンと言う技術を使って国


 ではなく、簡単に言うとその仮想通貨を使ってい


 る大勢の個人が、管理するいわゆる中央集権型で


 はなく」




 「プチッ」そこまで聞いて浩一はテレビのスイッ


 チを切った。




 「くだらねえ・・・」




  そう言うと、浩一は畳にうつぶせになった。昨


 夜殴られた痛みと、空腹でテレビのコメンテータ


 の話にだんだんと腹が立って来たのである。




 「腹、減った・・・」




  浩一がポツリと呟いた時、携帯がまるで小鳥が


 さえずる様に鳴り響いた。









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