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なろう小説は現代アートか

 現代アートといえば何を想像しますか? 私も見に行ったことは特にありませんからごく大衆的イメージとなってしまいますが、「なんだかよくわからないモノ」という認識は少なからずあると思います。

 そもそもアートというのはその作品単体で見るというよりは、作品が生まれた背景、どのような思いが込められているかとか、その時代アート界で活発に表現がなされているあるテーマに対しての回答、大喜利のようなものだったりするようです。つまり、アートの世界には何かしらコンテクストがあり、それを読み解くための知識や感覚が必要なのです。


 例えば絵画では、15~6世紀にはカメラの原型が登場しますが当時はより写実的にモノを写し取るため、画家たちに積極的に利用されました。カメラの性能が向上するにつれ、画家たちはカメラが収められないものを書こうと、新たな道へと踏み出していきます。印象派やピカソで有名なキュビズムも、そういった側面があるからこそ芸術として価値があります(アニメキャラクターの絵も写実的絵画と区別された立派な芸術です)。カメラのない時代にそれがあったとしても、ただの下手くそな絵で終わってしまうことでしょう。


 さて、どうしてなろう小説が現代アートだなどと言い出したのかと言いますと、なろう小説たちの位置する場所にあります。なろうと言っても様々な作品が日々投稿されていますし、全部が全部異世界転生モノや、悪役令嬢、追放、スローライフ、チート、ハーレム、VRMMOではありません。しかし、なろう小説といってイメージされるものはおそらく、上記のようなテンプレものでしょう。


 小説を読もうで人気な作品はなんでしょうか。月間ランキングを見たところ、異世界へ行ったり剣と魔法の世界で戦う話だったり、追放されたり、スキルで無双するものなどが人気なようです。

 アートにはコンテクストがあると言いました。ある時代のアートを読み解くにはその時代の知識が必要。現代アートを読み解くには現代の知識、アート界の流れを知っていたほうが良いでしょう。そして、小説家になろうで投稿されている人気作品を読むのにも知識が必要なのです。

 どのような知識が必要なのでしょうか? なろう作品で共有されている教養は、例えば異世界なら、大衆的イメージの町並みです。中世ヨーロッパ風と形容されることもあるでしょうが、テレビゲームで見知ったような町並みが想起されるでしょう、実際は街のあちこちにウンコが落ちていたとか。本当でしょうか。

 魔法に関してはどうでしょうか、技名を叫んで光線や火の玉を飛ばす光景が目に浮かぶのではありませんか? 映画「ハリー・ポッター」シリーズや、様々なアクションゲームの影響は極めて強いでしょう。本当に行われていた魔術というのは小動物を生贄に儀式を行って悪魔を召喚するとか、気味が悪いですね。

 スキルやステータスというのがありますね。何が可能であと体力がどのくらいで、とかを明文化、数値化します。ここまでくるとゲームそのものです。


 なろう小説とは主にこういった共通の認識があり、これらについて理解していないと正確に読み解けないし、楽しむことも出来ません。

 そしてなろう小説の位置づけも特徴的です。なろうから生み出された数々の作品が書籍化、コミック化、アニメ化され大ヒット。知名度も上昇します。そうすると、なろう作品に対して物申す人たちや、何かしら意見を述べる私のような者もワラワラと出てきます。批評家(のような事をする人たち)は、なろう小説のテンプレや奇文怪文を取り上げて論評したりします。そのようなエッセイはこのサイトにもよくあります。この文章もまさにそうですね。

 また物申す人々についてはどうでしょうか。まとめサイトに限らずあちこちで見かけますが、アニメ化作品を「〇〇太郎」とあだ名したり、ここがおかしいとか、いろいろとツッコミを入れたりしている様はよく見かけます。

 なろう小説自体もテンプレに対して何かしらの挑戦を仕掛けることがありますね。意外性を持たせたりして周りと差別化を図るのは勿論のこと、これは既存ジャンルに対しての回答にもなります。ある種大喜利のようなもので、それがヒットすれば後から出てくる作品は影響を受け、新たな一派を形成します。小説家になろうに投稿される作品群も大喜利、つまり文学の文脈の中で交わされる表現の中で新しく開拓され、受け入れられた挑戦が詰め込まれて出来上がっています。つまり、なろう小説を楽しむには、テンプレ、つまり一般的に使用される表現についての理解や、流行を知識として持っておく必要があります。


 アート界は複雑で、理解には幅広い知識・教養が必要ですし、その分野の流行や歴史についての知識が必要とされることも少なくないようですが、同時になろう小説も、我々現代人の感覚、そしてなろう界独特のテンプレ知識を必要とします。このなろうアートの世界では、書き手、読み手、批評家たちが集まって現代独特の世界を形成しています。これは現在の流行であり、恐らくですが未来の人間がこの状況を見たところでちっとも理解できないでしょう(例えば魯迅の「狂人日記」を読んでみてください。これが儒教社会に対する批判だとは理解できないと思います)。

 以上、なろう小説はそれ全体で現代の芸術一分野を形成しているのではと考えました。なにかあればご意見ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メタ的な視点ですね。 私は、なろう系と呼ばれるものはたいして知らないのですが、中学のとき、友人の読んでいたラノベの文章を見てびっくりしたのを覚えています。 当時でこそ、「なんだこれ」でした…
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