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エンドレス∞ワールド  作者: 黒猫歌留太
第一章:オープニングアウェイクニング
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第四話:不躾な来訪者

 玄関前で長々と話すわけにもいかず一階に居た五人全員が舞台を客間へと移す。リリーは望んで二人を迎え入れたわけではないが、ミコトの説得もあり仕方なく客間へと四人を先導した。


 「・・・それで、何が目的で動いてる?契約の件ならまだ先の筈。あれだけのことをしたんだ、それ相応の目的と理由があるのだろう?それに今日は忙しい手早く済ませてくれ。」


 口紅色をした二人分座れるソファーにミコトと隣同士で座るリリーは、テーブルを挟んだ向かいに置かれた同じ口紅色をしたソファーに腰かけるバスティールへ一連の説明を求める。


 「来客の件なら心配するな、明日に先延ばした。」


 他人の予定を勝手に先延ばすなど、どれだけ強引な事をする人物だろうか。その言葉を聞いて鈍感なミコトでもバスティールが勝手に予定を変えられるほど偉い立場にあることを察した。


 「職権の乱用だな、全く偉くなったものだ。」


 リリーは背中をソファーにもたれさせ左足を組むと、先程ベルがトレーに乗せて四階から運んできたばかりの紅茶を一啜りした。


 「さっきから気になってたんだけど二人は知り合いか?」


 ミコトが二人に尋ねる。


 「こんな男、今の今まで知らなかった。」


 知らないことはないだろう。比較的冷静で大人びている性格のリリーが怒っているとはいえ、あれほど暴言を吐く相手だ。それだけ馴染みが深いのであろう。


 「腐れ縁みたいなものだ。そんなことよりも今日は君とそれに用があって来た。」


 リリーとの関係を簡単に伝えたバスティールは、右手でミコトが持っていた焔を指さす。


 「その・・・確かそれは刀と言ったか、それから炎を出せるのか?」


 バスティールには確かな証拠があったわけではない、だが直属の部下であるアルバートに電話や直接聞いた情報で何となく憶測した。


 「俺もよくわかってないけど、あのとき炎が出たな。」


 ミコトは右手で握っていた焔を器用に一回転させ、鞘から刀身を引き抜く。この時、焔は一昨日のような莫大な炎をいきなりは出さなかった。


 「刀から常時的に炎が出ているわけではないか・・・なるほど。では出そうと思えば出せるのか?」


 顎髭を右手で触りながらミコトの持つ焔についてバスティールが訊く。


 「出せるけど何か疲れんだよな、これ。」


 ミコトはソファーから立ち上がると焔から炎を少しだけ出してバスティールに見せた。炎を室内で出すのは危険極まりないが、このとき室内の物に炎が燃え移ることはなかった。


 炎を縮めたミコトは、焔の刀身を物静かに鞘へと収める。


 「自分の意識下での発動が可能。やはりアルバートの言葉通り創造物の可能性が高いか。」


 物思いに耽りながら、バスティールは自分の頭の中で考えた事をボソッと呟く。その言葉はそのままソファーに座っていたミコトやリリー、トレーを胸の前で包むように持って二人の後ろに立っていたベルはもちろん、座る空間があるにも関わらずソファーの後ろでスッと立つ女にも聞こえなかった。


 「そういやアンタの名前も聞いてなかったな。アンタ何て言うんだ?」


 突然の来訪者にミコトがまた名前を尋ねる。つい先程襲われた敵に対して不用心すぎる気もするが、そんなこと彼からしてみれば関係ないことだ。


 「セブン。」


 ミコトに一瞬だけ視線を向け自分に尋ねられていることを確認すると、その女はセブンと名乗った。この屋敷に足を踏み入れてから未だ表情を崩さず真顔でいる様子を見れば、どれだけ仕事に忠実なのかがわかる。


 「兎にも角にも、炎を出せる物を所持している事が分かった。ミコト、君には我々と同行してもらおうか。詳しい説明はそれから執り行う。」


 「なっ!黙って聞いていれば強引すぎるな。キサマ長官になったからと言って自分が誰よりも偉くなったつもりか⁉いきなり屋敷を訪れミコトを倒し、そのうえ我々と同行しろだと?ふざけるな、私の息子をなんだと思っている‼」


 自分の名前をバスティールに教えていなかったミコトは少しの違和感を覚えるも、話しが急展開すぎる事に戸惑いながら反論するリリーに違和感をかき消された。


 「黙って聞いていただと?私の顎を殴ったのは誰だ?君に聞かなくとも右手が知っているはずだ。それに彼を拉致する気などない、ただ同行してくれと頼んでるに過ぎん。」


 二人は激昂して立ち上がり、今にでも取っ組み合いになってもおかしくないくらいにお互い(がん)を飛ばす。後ろに立っていたセブンはそれを沈める為に、腰に付けていた拳銃を取り出そうと素早く手をかける―――が。


 「あ、あの‼二人が言い合ってるだけじゃ何も解決しないと思います・・・その・・・だから・・・えっと・・・」


 セブンが拳銃を取り出す前にベルが二人の激昂を沈めた。そこまでは良かったのだが二人を沈めることに夢中だったベルは言うことを最後まで考えてはいなかった。


 「では、一体どうすれば良い?」


 バスティールはベルの心情も知らず彼女に答えを求める。


 「えっと・・・それは・・・何というか・・・」


 ベルはトレーを包む両手を震わせながら受け答えようとするが一度パニックに陥ったら、もうどうしようもなかった。


 「簡単だ、ミコト自身が行くか行かずか決めればいい。」


 沈められたリリーはいつもの落ち着きを取り戻し、ミコトの肩に触れながらバスティールの問い掛けをベルの代役で答えた。


 ミコト以外の四人全員の視線が一人座ったままの彼に集まる。ミコトの答えに応か否かどちらを望んでいるのかそれは彼女にしかわからないが無意識にトレーを包む両手に力を込めて、その場に居る誰よりもミコトの行方を見守った。


 「別に良いよ、どうせ暇だし。この人たち悪奴らじゃないんだろ?」


 拍子抜けするほど軽く答えたミコトは外出の準備をするためにソファーから立ち上がり、それを聞いてバスティールがセブンに指示を飛ばす。


 「・・・決まりだな。セブン、車を回せ。」


 セブンは一度ベルの顔を見やり、艶やかな笑顔だけを残して客間を出て行った。その笑顔に寒気を感じながらも、ベルは自分からセブン自分の位置から通り過ぎるまでの間、彼女の顔から目が離せなくなった。怖いとか悍ましいといったそんな寒気ではなく手の上で転がされるような、もしくは見ず知らずの人物に愛でられているようなそんな寒気だ。


 「では車で待っている、支度が整ったら来てくれ。」


 ほどなくしてバスティールも、出された紅茶を一口も飲まずに客間を出て行った。


 「ほ、ほんとに行くの?今からでも間に合うから止めた方がいいんじゃ・・・」


 来客の居なくなった部屋でベルは彼らに付いて行く事を決めたミコトを引き留める。


 「ベル、君が心配するのも良く分かる、だがミコトの決めたことだ。行かせてやってくれ。」


 落ち着きを取り戻しソファーに深々と座ったリリーはティーカップに注がれた紅茶をもう一啜りした。表に感情を出さずともリリー自身もミコトの事が心配であるはずだ。


 「で、でも行く場所も知らないんですよ!さっきの事もあるし・・・」


 それでもベルは引き下がらずにミコトを引き留めようとする。


 「そういやどこ行くのか言われてねーな、どこ行くんだろ?」


 「行き先なんてすぐに教えてもらえるさ、支度と言ってもソレを持っていくぐらいだろう?もう行け。」


 ベルの引き留めを他所にミコトは焔をしっかりと握って屋敷の玄関まで移動し、それに続いてティーカップを空にしたリリーとトレーをテーブルに置いたベルも屋敷の玄関へと気の乗らない足を運ばせた。


 「そんじゃ、ここまでで良いよ。今日中には帰ってこれると思うし、夜ご飯よろしくなベル。」


 「・・・うん。でも無茶だけは絶っ対しないでね、絶対だよ!」


 完全に納得したわけではないがベルは念には念を入れて二度大事なことを伝え、ベルの隣に立つリリーは気をつけてと一言だけ言ってミコトを送り出した。


 「ミコト・・・あの人達に変なことされないでしょうか?」


 ミコトが黒塗りの車に近づいて行くのを見てベルが不安要素を口にする。


 「相手が相手だからな、一つや二つはされるだろう。」


 リリーはあっさり彼らがミコトに変な事をすると腕を組んでベルに伝えた。であるならば彼らに付いて行く事をなぜ許したのかという話しになってしまう。


 「え?じ、じゃあ何で行かせたんですか!私、連れ戻してきます!」


 「よせ、止めるだけ無駄だろう。ミコトは一度やると決めたら何かあるまで動かない、それはベルが一番知っていることではないか?」


 本気で止めに行こうとするベルを右手で制止させたリリーは、またしても彼女の人に触れては欲しくない感情を意識させるような発言をした。


 「なっ、もうやめてください。そんなんじゃ・・・いやそうなんですけど・・・」


 にやけ顔のリリーにどう返答しようかベルが困っていると、答えを聞く前にベルがたじろぐ姿を見て満足したリリーは右手を下ろして再度ミコトを見つめた。


 「何があろうとミコトなら大丈夫だ。彼が歩むべき道への第一歩・・・その未来は誰だろうと変えることは出来ない。」


 何やら隣でベルには到底理解できそうもない言葉を片眼鏡に触れながら呟くリリーの姿は、自らの子をドンと力強く送り出すように見える反面、その凛々しく引き締まった背中はどこか悲哀を背負っているようでもあった。


 「さ、私たちは戻るぞ。来客が来ないのであれば一日中作業する日になりそうだ。」


 両手をパンッと叩いて気持ちをミコトから自分の仕事へと改めたリリーは、屋敷階段の方へと体を向けて退屈そうな声でそう言うと自室へと歩を進めた。


 「作業なら私がしておきますよ?」


 姿勢よく歩いて遠ざかっていくリリーにベルは振り向きざま素朴な疑問をぶつける。


 「作業と言ってもそれの事ではない。小説の執筆だよ。」


 それを聞いてその場で口をあんぐりさせるベル、最近は驚くような出来事と真実ばかりに遭遇しているなと心の片隅で思いつつ、恐る恐る小説の事についてリリーに訊く。


 「しょ、小説ってあの小説ですか?紙面で作られた・・・」


 「歳には抗えないな。ベルにはてっきり話したと思いこんでいたが・・・ん?そういえばあれはミコトだったか。しかしだとすれば私の稼ぎは一体何処から来ていると思っていたのだ?」


 ベルは今までシャーロット領の金銭について買い出しなどの支出は考えていたが収入については殆ど考えたことはなかった。記憶は朧気だがそう説明するリリーの言葉を聞いて、考えてもみれば確かにそうかもしれないとベルは遅いながらも合点がいった。


 リリーが小説家だということが判明すれば当然気になってくる事も有る。それにベルはリリーから頂戴した給料隣町のポルクルで恋愛小説を買った経験がある、その理由は言わなくても分かるような理由なのだが、それは別として更に生まれた疑問をリリーにぶつける。


 「小説ってどんなの書いてるんですか?」


 「身内に言うのは照れるな、過去にも幾つか書いてきたが今は恋愛ものを書いている。」


 「へ~恋愛もの・・・・・・って、だからしつこく私に聞いてきたんですか⁉」


 「誤解するな、五分五分だ。」


 五分五分というのは小説の参考までにというのが半分、単純に二人の行く末が気になるのがもう半分という意味だろう。だが例え参考にされていようがされていなかろうが、ベルとしてはリリーには大いに自制してほしい筈だ。


 「お、お願いですからミコトの前で言うことだけは止めててくださいね!!」


 「ハハハ、分かっているさ。若者同士頑張りたまえよ。」


 笑い声を屋敷中に響かせながらリリーは自室がある最上階の五階へと歩いて行き、気疲れした様子(自分の恋愛話しをリリーに聞かれた事が大半を占める)のベルはフラフラとしながらトレーとティーカップを下げる為に客間へと入っていった。


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