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エンドレス∞ワールド  作者: 黒猫歌留太
第一章:オープニングアウェイクニング
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第十一話:ボランティアの犯罪者集団

 ミコトとジャックはピエロマスクが忽然と姿を消して言葉を呑んだが、ジャックがある事に気が付きそれを口にした。


 「っておい!俺の出番こんだけか⁉」


 滅多にない機会にも関わらず一度しか風薙を駆使できなかった事にジャックは嘆いた。新品の道具やあまり使った事が無い物を使いたい心情は同感だが、被害者が生まれずに済んだのは何よりである。


 ピエロマスクが逃走してから数分遅れでバスティール長官を乗せた車がブレーキ音を豪快に鳴らしてから停車した。


 「失敗だなこりゃあ・・・もう行こうぜ――――――おい、聞いてんのか?」


 風薙の回転を緩めながら真ん中の穴に指を通したジャックは、バスティール長官にピエロマスク逃走による作戦失敗の報告をする為に眼前に立つミコトに呼びかけたがビクとも反応しない。


 特に関心があるわけではないのだがミコトの脳内でピエロマスクの最後の言葉が繰り返して反響していた。意味が存在するかも曖昧な言葉、ミコトも知りえない昔のミコト。


 「おい、人の話しぐらいは聞け、ボーッとしてないで行くぞ。」


 体を揺らされた触覚によってジャックの声が耳に届いたミコトは、不満そうな顔で振り向き未だ反響するそれを追い出しながら合意した。


 ミコトが焔を鞘へと収める。


 その後は規制線の外で情報と状況の説明会が執り行われた。


 ジャックとミコトが規制線を潜ると、後から到着した車の助手席から表情を石のように固くしたバスティール長官が歩み寄り、それを機に先程まで女の子の誘導に両手を塞がれていたセブンと二人のエリアパトロールもジャックとミコトを説明会の中心とした輪に参加した。


 「どうやら私は手遅れだったようだな。」


 「そうっすけど、間に合ったからといってピエロが捕まるわけじゃないっすよ。」


 ジャックの上司もバスティール長官だが決して媚を売っているわけではなく、あるがままの事実を述べた。現実的な拘束方法が無い今、逮捕するのは難しいというのがジャックの考えなのだろう。


 「あの女の子は?」


 辺りを一通り見回し始めたミコトが口を開いた。ミコトにはそれが最も重要なことである。


 「無事よ、近くの病院で診てもらってる筈だわ。目立った外傷はなかったけど精神的にはキツイはずだから。―――それから、ありがとうってあの女の子が。確かに伝えたわよ。」


 セブンを介した女の子のメッセージを受け取ったミコトは小さく微笑んだ。


 「我々の話しは置いておくとして・・・ピエロについて何か知り得たか?」


 バスティール長官を含めた六人の顔が張り詰める。


 「俺からはすり抜けるっつう事と手を翳しただけで吹き飛ばせるって事ぐらいっすね。それと・・・・・・」


 「なんだ?謙遜せずに話せ。」


 「いえ、それはミコトの口からお聞ききになられた方が良いかと。」


 ピエロマスクの私情についてはミコトの口から説明するのが正解だとジャックは判断した。


 五人の視線がミコトへと集まる。


 「アイツ、俺を知ってた。」


 その短い文章でバスティール長官は顔を顰め、二人のエリアパトロールは顔を見合わせた。セブンは平常どおり無表情のままである。


 「つまりそれは君の知り合いという意味か?」


 「俺はアイツなんか知らない、でもアイツは俺のこと知ってて昔がどうとかとも言ってた。」


 混乱している頭の中の記憶をミコトは必死に言葉として綴る。


 「やっと尻尾を見せたな。」


 「長官はヤツを知ってたんすか?」


 ピエロマスクを既に知っていた様な口ぶりで話すバスティール長官にジャックは尋ねた。


 「通称ピエロ。犯罪を進んで行うボランティア犯罪者と呼ばれる者たちのリーダーだ。」


 「ボランティア犯罪者?」


 生きてきたの中で耳にしたことが無いその異様なワードについて、ミコトがバスティール長官に訊く。


 「現段階で認知されている構成員の数は四人。盗みに誘拐、殺しなど犯罪に属する行為であるならば無償で依頼を引き受ける犯罪組織だ。大規模な事件は起こしていないから一般的には然程知られていないがな。その犯罪組織の名は顔隠しの人々、創設から始まるNIAの歴史の中で間違いなく至上最悪の敵だ。」


 悪戯に悪意を振り撒く犯罪者への憤りからかバスティール長官の声は語気が強められていた。顔隠しの人々がNIAの史上最悪の敵であるならば現長官であるバスティールの最重要責務だ。


 「マジっすか⁉聞いたことありますけど俺ぁそんなの都市伝説かと。」


 見てはいけない物を見てしまったような目でジャックは驚きの声を上げた。


 「NIAで働く者ならば一度は聞いたことがあるはずだ。」


 ミコトを除外して、その場に居たエリアパトロールの二人だけはその事を存じなかったが、さも知っていたかのように振舞う。


 「入って日が浅いエリアパトロールなら話しは別だ。安心しろ、無知なだけでクビにはしない。」


 バスティール長官には心の内が見透かされていた。エリアパトロールの二人がついつい頬を緩ませた。


 「行方は?アナタたち闘ってたんでしょ?どうすればこの包囲網で取り逃がせるの?」


 バスティール長官の説明を顔色一つ変えずに聞いていたセブンが顔隠しの人々の話題からピエロの話題へと戻す。


 「裂け目の中に消えてった。」


 後味の悪い原因をミコトはジメジメとした声にした。


 「「「「は?」」」」


 思い掛けない不慮の言葉にジャック以外の一同全員が一驚する。


 「君の言葉を疑うわけではないが、確かに見たのか?」


 訝し気な目つきでミコトは首肯した。自分で体験しても、その光景が今でも信じられないのだろう。


「なるほど・・・すり抜ける能力のことは知っていたが、人体を吹き飛ばし空間をも移動するとは。一番の収穫はミコトとの関わり。」


 口元の髭に右手で撫でながら頭の中で自分が持っていた情報と今手に入れた情報を照らし合わせたバスティール長官は、長官らしく凛とした声で指示を飛ばす。


 「よし、二人は現場に残って来着した鉄骨の撤収作業員の指揮を執ってくれ。」


 まずはエリアパトロールの二人に役目を与える。


 「了解しました。」

 「それからジャックはセブンと車に乗れ、ミコトは私とだ。」


 流暢な指示が出され終わる前に、自分の名前を聞いたセブンとジャックは車へとキビキビした速さで向かった。


 「俺も?本部に帰るのか?」


 ミコトは疲れ果てた声でそうバスティール長官に訊いた。朝から休みなくNIAの言う事に付き従い最後には実の犯罪者との戦闘になったのだ。心身共に疲労が溜まっているであろう。


 「それは誤解だ、シャーロット領まで送る。詳しい事は車の中で語ろう・・・傷も負っているみたいだしな。」


 目線を一弾指だけミコトが着用しているYシャツの赤く染まった部分に動かしたバスティール長官は左脇腹の傷を哀れみ、首をクイッと車の方に傾けた。


 「これなら心配すんな、痛いけど血はもう出てないから。」


 心配御無用という感情を態度にして返したミコトは、バスティール長官よりも先に車の後部座席へと乗車する。バスティール長官も過ぎる時間を無駄にすることなく車の助手席に乗り込んだ。


 「それで何を語ってくれるんだ?」


 NIA本部に訪れた時より低いトーンでミコトは声を発する。


 「君が気になっている事。」


 バスティール長官が前を見据えたまま揺るぎない覚悟でそう言うと、ピエロマスクの謎と鉄骨だけが残る現場を後にした。




「話し中に寝てくれるなよ。」


 走行中の車内でバスティール長官は蓄積された呆れを言葉に滲ませながらミコトに勧告する。


 「努力はしてみる。」


 窓越しに通り過ぎ去ってゆく風景をミコトは取り留めも無く眺めていた。何も考えずに思考を停止させる時間にも人間にとって有益な効果をもたらしてくれるが、今般ばかりはそうもいかない。


「最初に語るべきは、なぜ君が今日NIA本部に連れて来られたのか・・・だったな。」


「・・・・・・」


 ミコトは無言でバスティール長官に話しを続行させた。


 「その武器を持つ君の人間性を試す必要があった、創造物を持つに足る資格。」


 試験の中でジャックがミコトに迫った自らの死か、女の子の死という選択をバスティール長官は指している。ベタな内容だがそれだけ意味の在る試験。


 「だからあんな事したのか⁉」


 身を乗り出してミコトは驚くも、シートベルトに座席シートまで戻される。


 「最終的に邪魔が入ったがな。見事に君は合格して見せた。」


 試験の合否は発案者であるバスティール長官の独断で決定された。


 「これについて質問は?」


 「そこまでしてなんで俺に拘るんだ?」


 「・・・君でないと焔は扱えないからな。」


 創造物には決まった法則があり、特定の人物にしか力を引き出せない。つまり創造物に適合していない人間が所持しても宝の持ち腐れということである。


 「えっ、そうなの⁉」


 創造物に適合があるのはアルバートの説明には無かった仕組み。ゴザと対峙したとき以前に、焔が刀身を引き抜かせる事を頑なに拒んだのは、それまでミコトが焔に適合していなかったのだろう。


「だからだよ、君に執着するのは。」


 もし仮に創造物に適合というものが無かった場合、バスティール長官はミコトから強制的に焔を没収し、訓練を重ねに重ねたNIAのエージェントに託しただろう。悪意があるわけではなく、それが効率的な方法であり悪用される可能性が最低だからである。


 「君はNIAの目的を考えた事はあるか?」


 順序良く今日のあらましを説明し終えたバスティール長官は話題を次の段階へと移行した。


 「考えたことは無いけど、犯罪者を捕まえる為だろ?」


 「その見方で合っている。だがそれは表の目的、裏は違う。」


 無意識の内にミコトはバスティール長官から目が離せなくなっていく。


 「この世界に存在すると言われている四つの大陸、その全容は確認されて何年もの月日が経過した今でも未知数だ。」


  ―――その三つの大陸を最初で最後に確認したのは僅少の渡海者達だったそうだ。船長の名前はベオウィンド・バスティール、彼無しでは戦争時代の北大陸は語れない。


 「もしかすれば明日、他大陸から何万もの軍勢が攻めてくるかもしれない。だからこそ我々は残り三つの大陸を統治下におかなければならないのだ、明瞭な平和をもたらす為に。」


 飛躍しすぎている内容を耳にしたミコトは驚愕を通り越した驚きであっけらかんとする。内容を聞いたのがミコトではなかったとしても、反応は一緒だっただろう。


 ミコトが話しに付いていけていない事は容易に推測できたバスティール長官は、数秒間の()をおいて話しの続きを口にした。


 「四つの大陸を統括する為に、君には我々に協力してもらう。」


 試験を受けたミコトが想像したのは、犯罪者を捕まえる為にNIAに協力することだった。まさか未知の大陸が関わってくるとは思いもよらなかっただろう。


 「統括って・・・犯罪者を捕まえるだけじゃないのかよ⁉」


 「それも間違いではない。」


 否定すると思いきや否定はせずにバスティール長官はミコトの反論を事実へと誘導するように肯定した。


「本来ならば直ぐにでも他大陸に出向いて調査してもらいたかったが、現実はそう甘くない。大陸への足はまだ造船中なのでな、その期間中は犯罪者逮捕に尽力してもらうことにした。主に創造物絡みのな。」


 バスティール長官は造船の期間中と言ったが、ミコトが基礎知識もなければ訓練も積んでいない事も理由の内に含まれている。概ねこれから起こる事件と埋め合わせ程度の訓練を通してミコトを成長させようと考えているのだろう。それが妥当の手段である。


 「他の大陸の調査・・・」


 ミコトがバスティール長官の詳説を復唱したのは不安や憂慮が漏れ出たからではなく、好奇心の表れだった。ミコトの口元が仄かに綻ぶ。


 「どうだ?君にとって悪い話しではなかろう、未知という二文字は何時の世も人を惹きつけて止まない。」


 心の深い層から静かに興奮と冀望を込み上げさせていたのはバスティール長官も同様だった。人生という長い道のりの中で誰しもが遭遇する未だ知らない事柄。それほど生ける者を刺激し、そして胸躍らせる単語は無いだろう。


 「長官、目的地です。」


 運転手であるNIA職員が車を停止させる。ミコトが窓越しに風景を見やると端整(たんせい)な街並みから知らぬ間にまとまりの無い森林へと移り変わっていた。どうやらシャーロット邸へと続く一本道に車体を停車させたようだ。


 焔を掴んだミコト運転手に待機命令を下したバスティール長官は、帯びた熱が冷めやらぬなか車を降りる。


 「今日は色々と済まなかった、必要な事だったとはいえそれはお詫びしよう。」


 「気にすんな、スゲー面白そうなこと聞けたし。」


 一日の疲労に気力を奪い取られていたミコトは充電が満タンになったのか、すっかり元気になっていた。


「ではまた、仕事で会おう。」


 聞かなくともミコトの応えを分かっていたバスティール長官は、ミコトの未来への期待感を煽り車へと乗り込む。安全を考慮して車体から遠ざかろうとしたミコトが助手席を通過しようとした時、車内と車外を隔てる窓がグーッと音を立てながらゆっくり下がった。


 「帰んないのか?」


 音に気が付いたミコトが車体に近づく。別れの挨拶をされた後に自分に用事があると分かれば不思議に思う筈だ。


 「正直、言おうか迷ったのだが・・・ANOTHER(アナザー)FORCE(フォース)、この名を覚えておけ。」


 一度だけ目を逸らしたバスティール長官がミコトと目を合わせて言い放つ。エンジン音と混ざりながら発せられたその名前は理解力に欠けるミコトでも何故かすんなりと心に溶け込んだ。この場所でその名前を口にしたのは戦略的理由があったわけではなく、バスティール長官の匙加減だったのだろう。


 ミコトの反応を一見して片側の口角だけを上げたバスティール長官が内と外を遮断すると、運転手であるNIA職員が車を木々に衝突させないよう慎重にバックさせる。


 フロントを向けたまま去っていく車をそれ相応に見届けたミコトはクルリと半回転して、屋敷までの少しの距離を耽りながら歩いて行った。


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