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リィザは頭の中で再度決意を固めると周りを見渡し、状況を確認する。
「さて。あの竜のことは取り敢えず置いておいて、君たちの手当てをしなきゃな」
「そうですな…幸いにも死者はいないようですし、我々が手当てをするのが妥当でしょう」
「薬でもあるのですか?恥ずかしながら村人中にははあまりお金がなく、薬代を払うことができないものもおります。申し出ていただいたのはありがたいのですが…私には何人も建て替えられるほどの財力もないのです」
そう言って申し訳なさそうな顔をする村長。
その言葉の裏にはできれば慈悲がほしいというのがある事にリィザは気がついた。
そりゃそうだ、農村で働き手である男達が潰れればどうなるかは目に見えている。
もちろん。リィザはこんな惨状を前にしてじゃあねと帝都に行けるほど冷淡でもない。烏丸も同意見のようだ。
「まぁまぁ、今からやることはちょっとした手品だよ。見ててね」
「は、はぁ…」
「リィザ殿、何が始まるんです?」
「……創造・『再生』」
リィザがそう叫び、拳を天に向かって突きだし、勢いよく、手を広げる。
すると手のひらから光の粒子が広がり、村人達を包んで行く。そしてその粒子が負傷した部分に触れた途端弾け、傷口を包む。
「あったけぇなぁ…」
「ああ、とても心地いい。こんな思いしたのは帝都の風呂に入った時以来だぜ」
「それにこの感覚…力が湧き上がるというか、体の怠さが消えて行く感覚…最高じゃな!」
怪我をした村人だけではなく、その場にいた全ての村人が安らぎを覚えていた。
アナは心底困惑したような顔をしてリィザを見る
「…どういうことなんです?」
「なに、全てものをあるべき姿に戻しただけ。この『創造』に備わってる機能だよ」
と言いながらリィザは何処かからか小さな箱のようなものを取り出して見せた
それを見た村長が気がついたように質問する
「あの、乗っていた乗り物と同じ要領なのですかな?あちらは空間魔法というものらしいですが…」
「あーそうですね、作り出したのが創造、外に出したのが空間魔法です」
「ほぉ…なるほど。いやぁ、とても助かりました。これで皆また元気に働けます」
「いえいえ、ものを売るのは商人としての勤めですから。まぁ、今回の商品は恩ですがね」
「はっはっはっ、流石ですな!」
わかったような、わからないような顔をして頷き、お礼を言う村長。それにさらりと冗談で返すリィザ
きっと村人からは「謎だけどいい人」と思われているだろう、心なしか視線が集まっている。
しかし、そんな中で烏丸だけは腹を抱えて笑いそうになりながら耐えていた。
なぜなら…
(うわああああああやっちまったぁああああ)
(リィザ殿…自分で殆どバラしてどうするんですか。アナ殿絶対疑ってますよ)
(いやマジでミスったね。どうにか取り繕ったけどどうしようもないよこれ…調子乗ったわ)
(あの箱作ったところ見られたんじゃないでござるか?)
(いやさすがにそこは見られてないはず….)
(リィザ殿はいつもそう、見切り発車でいつも物事を甘く見ている。そんなんだから簡単に創造を使えるのですぞ)
(なっ!?煽ってきたのはそっちの方だろう!?なにが『何が始まるんです?』だ、ふざけるなよ)
(楽しそうにしていたのはそっちも同じでござろうに!)
(どこが!?!?普通に唱えただけですけど!?!?)
(んんん!?!?!????!??)
バチバチと両者の間で火花が散らしている間、アナは1人考え込んでいた
(さっき、全く動けなかったな…)
フレッドほどではないが、アナもヴェルディには憧れを抱いている。自分は女だし、父親は特に何も言って来ないだろう。だからフレッドには悪いがきっとアナ自身は冒険者になれると思っていた。
しかし現実はどうだろう。
命の危険があるというのに恐怖で体が硬直して動くことができなかった。そんなことでは危険な冒険者など夢のまた夢である。
それに対しフレッドはあの状況下で拙いながらも指示を出し、且つ邪竜に立ち向かう勇気を見せた。
はっきりと意識の違いを見せつけられてしまった。こんなことではフレッドを差し置いて冒険者になるなんて出来るわけがない。
ならば。
(烏丸さん、強そうに見えなかったけど凄く強かった。)
(それに、リィザさんだって不思議な道具でみんなを治してた…でもアレは本当に道具なのかしら?)
少し疑問が残るがこの二人組は相当すごい冒険者に違いない。
この二人の旅についていけばきっと自らのためになる。
しかし、本当にフレッドを差し置いて冒険者の卵として旅に出ていいのだろうか。
そうやってアナが自問自答を繰り返していると、烏丸が話しかけて来た
「なぁ、アナ殿もそう思うだろう!?」
「えっあ、あのえっとそう思います?」
その前の会話を全く聞いていなかった為に流されるように同意してしまったが、それがとんでもない間違いだったとアナはすぐに気付かさることとなる
「ハァ!?なんでアナを連れて旅に行かなきゃならないのさ!?僕らの旅はそれなりに危険なんだぞ!」
「えー、だって拙者あの竜がアナ殿狙ってるの知ってるしぃ、それにリィザ殿の作る料理美味しくないんだもん」
「ぐぬぬぬ…言わせておけば……若干正論なのもさらにムカつく」
「アナ殿の安全を守る為にも、拙者たちと一緒にいた方がいいんです!」
「うーん…」
リィザが渋っていると、隣で会話を聞いていたフレッドが口を開いた
「リィザさん、アナを連れて行ってやってくれませんか?」
「フレッド!?…でも私…」
「アナ、僕言ったろ。君には君の生き方がある。僕のことを気にする必要はないさ。なぁに、すぐにこんなとこ抜け出してやるからさ」
ニコニコしながらアナの背中を叩くフレッド。そんな二人に近づいて来た人物がいた。
「おいフレッド、今なんか言ったか?」
「いんやぁ、父さん。アナが旅に出るんだってさ。てなわけで、そろそろ僕を旅に出す気はないかい?」
「またその話か…いつも言ってるだろ?」
「そうかいそうかい、ま、いつか納得させてみせるよ」
父親はやれやれと首を振るとアナに向き直り、真剣な表情で話しかけた
「アナ、わかってると思うが父さんは本当はお前も行かないで欲しかった。村長には悪いが、ヴェルディのように生きてるか死んでるかもわからない状態にさせたくないんだ」
「え、そんなことが理由だったの?」
「…フレッド。今は黙ってなさい」
「あ、はい」
「しかし、お前があの竜に狙われているなら話は別だ。酷な話をするが、お前がいればまたこの村にあの竜がやってくることになる。素直に奴にお前を渡すなんて出来ないからな、きっと大きな犠牲が出る」
「うん…わかってる」
「だからお前はあの竜の脅威がなくなるまではリィザさんと烏丸さんのところにいなさい。そこで世界がどうなっているか、見てくるといい」
「…」
「お前は捨て子だ。だが、父さんと母さんはお前を自分の子だと思ってる。だからこそだ。村のみんなの安全はお前にかかってる。頼んだぞ」
「…ありがとう父さん。私、みんなに心配かけないように頑張るから」
俯きながら話を聞いていたアナだが、ふと目をあげると、父親の目が赤くなっているのが見えた。
(そっか…)
厳しいことをいい、突き放してるようだが父親も内心苦しいのだ。十五年近く育てて来た娘を一時的にも手放す。どれくらい辛い事なのか、アナにはまだ想像できない。
そんなアナを見てリィザはため息をつくと
「…出発は明日の朝だ。今生の別れじゃないんだし、あんまり気負わないでね」
「あ、はい…ありがとうございます。でも…いいんですか?私がついて行っても」
「この村が襲われるたびに助けに来るなんて出来ないからさ、それに….」
「それに?」
「……いや、やっぱりなんでもない。ちょっと考えすぎただけさ」
そう言って足早に烏丸と村長のところへ行くリィザ。
烏丸はというとカラスの姿に戻っており、早く村長殿の家に行きましょう!ご馳走が待ってるらしいですぞ!などとお気楽呑気に村長の肩の上に乗っている。
村長も満更でもないのかニコニコしながらリィザを待っていた。
苦笑しながら二人の元に向かっていくリィザを見ながら、アナはフレッドと父親と共に家路につくのであった。
12/29
全体的な口調の見直しを行いました。
文章の矛盾点を解消しました。