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-5-

アナが木陰で水を飲みながら休んでいると、ふいに隣に誰かが座る気配がした。


「隣いいかい、アナ」

「断ったってもう座ってるじゃない、フレッド」

「ああ、その通りさ」


そう言いながらフレッドと呼ばれた狼のような獣人は自らの弁当をを広げ食べ始めた。

アナはそんな彼を見やりつつ自らも弁当に手を伸ばす。


「アナ、さっき見てたけど腰の落とし方が良くなって来てたね、ありゃあ男はみんな君の虜になるよ」

「そういうのは雰囲気があるときに言ってちょうだい、こんな泥に塗れてるときに言われてもね」

「酷いなぁ、ちょっとしたジョークだよジョーク。君はそういうところがカタいんだよね。あ!そりゃそうか、女性はみんなおカタイのが大好きだもんな」

「これ以上口を開いたら噛みちぎるからね…この短小野郎」

「おおぅ…短小は否定するけど流石に怖いぜそれは…」


そんなおよそ男女でする会話でもない身もふたもない会話を繰り広げる二人。

それもそのはず、この二人は兄妹の関係である。


アナは捨て子だった。まだ3歳にも満たないアナを拾って来たのが当時7歳のフレッドなのだ。

以来、十五年近くフレッドの両親と共に一緒に暮らしている。

アナはもちろんのこと、フレッドもお互いに全く恋愛感情を持ってはいない。フレッドが言うには


「女の子ってのはさ、女性になるまでは手を出しちゃいけないと思うんだよね。男側の勝手な都合で無理やり大人にさせてはいけないんだよ。勿論、性的な意味だけじゃなく、人間性も含めてさ。女の子と女性はやっぱり違うのさ。だって女の子は可愛くあるべきであって、可愛いものは愛でるべきものだからね。アナは僕が拾って来た頃がずっと女の子のままだよ」


と言うことらしい。アナには全くそれが理解できない。女ならいつだって王子様に憧れるようなものなのだ。王子様には美しき女性に恋をする。子供っぽさに惹かれるわけではないのだ。

自分が暗に子供っぽいと言われるのも腹がたつ。確かに出るとこは出ていないし、どちらかと言えば背も高い方ではないが。


だから先ほどの会話で女性として少し見られた事に内心嬉しさを覚えていた。ぜったい見返してやるんだから…そう心の中で誓った。


「そう言えば…ねぇフレッド」

「なんだい?」

「父さん…納得したの?」

「あーそれがさぁ、やっぱあのカチカチの頭を柔らかくするには色仕掛けくらいしか方法がなさそうだ。女装の練習でもしようかな…」

「何馬鹿なこと言ってるの、このままじゃいつまで経っても夢を叶えられないじゃん」

「ん、まぁそうなんだけどね」


フレッドの夢。それは探検家になることだ。

理由は単純明快。村長の息子であるヴェルディに憧れているからである。

フレッドだけではない。アナもヴェルディには憧れている。


探検家、ヴェルディ=バリウス。サマルカンド帝国で唯一皇帝に認められた世界的探検家であり、帝国最強の戦力だ。

戦場を駆け抜けし者…他国ではそう呼ばれている


ヴェルディはマテリアルの強化をせずとも対等に渡り合えるほどの驚異的な身体能力の持ち主で、此度のマルクト公国との戦争でもヴェルディならばという声が帝国議会で上がるほどだ。

しかし、当の本人は定期的な手紙のやり取りはあるものの所在は全くの不明。皇帝は当てにはできんと最初から諦めている。


実のところ、皇帝ですら縛ることができないのだ。探検家とは自由であるべき、何者にも縛られないを体現しているヴェルディが、素直にこちらのいうことを聞くとは思えなかった。


そんなヴェルディに憧れてフレッドはずっと探検家になりたかった。しかし、父親は当然反対。農民の息子は農民を継いでもらわないと困るからだ。


勿論、フレッドもそんなことはよく理解している。しかし、あのヴェルディの勇ましい背中を見てどうして農民になりたいと思うのか。

隙を見ては父親に話を持ちかけるが真剣に取り合ってもらえない。

母親がそれも人生なのだからとフレッドの肩を持ってくれている分、可能性は捨てきれない。しかし、話は進展しない。いつしか楽観的にしか考えなくなってしまった。


そんなフレッドを見て、アナはなんとも言えない気持ちになっていた。

フレッドの気持ちもよくわかるし、父親が反対する理由もよくわかる。故に、もどかしい。どうすることもできない自分にやりきれない無力感を感じざるを得ないのだ。

今はただ励ますことだけしかできない…そんな己が惨めで仕方がない。


「あーあ!私が男だったらフレッドの代わりが勤まったのになぁ」

「そんなことを言うもんじゃないよ、君は君の生き方がある。僕の代わりになろうなんて考えないでくれ」

「でも…」

「だってアナより僕の方が農作業に向いてるしね、邪魔なものが付いてないもの。…ん?そう言えば君、そんなに邪魔じゃなさそうだね。これなら僕の代わりも務まるかもしれないな」

「〜〜〜〜〜〜!!!」

「むしろ僕の方が付いてる…アイテッ!暴力反対だぞ!」

「ほんっっと最低!!もういいよ、私はあっちで休憩するから!」

「はいはいどうぞご自由に」


全くもう!と怒りながら小走りに他の木陰の所へ行くアナの背中を、まだまだなぁとニヤニヤしながら見つめるフレッドの姿がそこにはあった。

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全体的な口調の見直しを行いました。

一部セリフを改変しました。

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