俺、孤児だけど魔法使えます。
ドアが半壊してドアとしての機能を全く果たしてない家
俺が"無断で"暮らしている家だ。家主がいるわけでもないから追い出される心配はないが、たとえ他のスラム街の住人に奪われても文句が言えない場所でもある。
「ただいま」
「「ファス姉おかえりー!」」
出てきたのは双子の猫獣人であるロロとナナだ、俺と同じ孤児で今にも死にそうだったのを見てられなくて引き取った子供たちだ。どっちも黒猫の獣人でそっくりだがナナは左耳が白くなっていて、ロロは右耳の先端だけ白くなっているのでわかりやすい。
ちなみに名前は俺がつけた。
「俺がいない間に何か困ったことは無かったか?」
「ないよ!」「お留守番できたよ!」
「そうかそりゃよかった!」
俺は2年近く過ごして妹のような存在になりつつあるロロたちの頭を撫でてやる。
ここスラム街は一応都市の中にあるから魔物や魔獣の心配はないが、人が死ぬのは日常茶飯事だし、盗賊がアジトにして住み着くこともある。
まぁ盗賊もこちらを狙ってくることはあまりない。彼らも下手に住人を刺激して報復を受けたくはないだろうし、目立つことでアジトの場所がバレるのは避けたいはずだ。
とはいえ盗賊は盗賊、弱そうな獲物と見て襲ってくることはある。そうなれば普通は戦闘経験なんて皆無のスラムの人達はひとたまりもない、逃げの一択だ。俺は盗賊程度に遅れをとるつもりはないが、うちにいるロロ、ナナはまだ6歳程度の子供、逃げることも難しいだろう。
「さぁ!飯にするぞ!今日は4週間ぶりの肉だ!」
「「わぁーい!」」
ロロとララは持ってきた
うちではスラム街では珍しく毎日のように飯が食える。
なぜか、それは俺が魔術を使えるおかげだ。無論最初から使えた訳ではない、孤児の身でありながら王族の最高教育の元で、俺は王子である俺と同じ人格と記憶を持っているから魔法の知識を得ることが出来た。それにどうやらこの体は王子の体より魔力があるらしく、王子より使える魔術が多いのだ。ちなみにファーストというのは俺の元いた孤児院でつけられた名前だ。
魔術が使えるおかげで俺は都市外に出て冒険者の真似事ができる。なぜ冒険者にならないのかと言えば、冒険者規定により、12歳未満は冒険者になることができない。これに関しては明日が誕生日なのでもう問題ではなくなるが、もう一つ問題がある。
冒険者になるとノルマが発生する。
それも新人冒険者ならば週に4個以上の依頼をこなさないと除名になってしまう。週に4つくらいやろうと思えばやれるが、それをやると少なくとも週に3日は家を空ける必要が出てくる。となるとその分ロロたちに危険が及ぶ可能性が高くなる。
できればこの子たちがある程度逃げれるくらいになるまではそんなことはしたくない。
「飯食ったら魔術訓練の時間だぞ」
「「ええー…」」
「ええーじゃない!お前らのためなんだからな!」
「「はーい…」」
2人は獣人だからなのか魔術訓練が嫌いみたいだ。
獣人なら闘気を纏えるようになった方が本来は効率がいいのだが、いかんせん俺には闘気が使えないし使い方も知らないので教えられない。
早く魔術を使えるようになって貰うに越したことは無い。元々ある程度育ったら自立してもらう予定だし、最悪 王子か商人が引き取れるようになれば助けられるだろう。
商人はともかく貴族はこの子達も抵抗があるかもしれないが背に腹は変えられない。
「もうすぐか…」
俺のつぶやきが聞こえたのか、ナナは首を傾げるがすぐに食事へと戻り意識を集中し始めた。