第6話 冒険者ギルドのお約束
「では出しますよ」
ダイチはショルダーバッグから机に中身を出していく。
――――――ジャラジャラジャラジャラ
机の上にショルダーバッグの中身が広げられていき、魔物の角や牙等で小さな山になった。
「え? え?? ええー???」
ロングヘアーの受付嬢が仕事モードが解除されるくらいに驚いている。
「確認お願いします」
ダイチが淡々と告げる。
「これって、以前に討伐してたモノとかも含まれてるんですか?」
受付嬢はなんとか理由の付けられる状況を考えているようだ。
「いえ、さっきここを出てから討伐してきた分だけです」
ダイチが事実を告げてるだけとばかりに言う。
そこまで話しをしていると、机に広げた魔物の討伐証明部位から血の臭いが漂い始める。
受付嬢は、血の臭いがまだ強いことから、ダイチの言っている事が事実で、討伐してきたばかりだという事を理解したようだ。
「え、えっと……ダイチ様! 確認したいことがあります!! 少しお待ちいただいてもよろしいですか」
受付嬢は少し興奮しているように見える。
「あ、ああ、別に構わないけど……」
受付嬢の勢いに若干押され気味のダイチ。少し不機嫌そうにダイチの服の袖を掴むミレーニア。
「私の名前はセレナと言います。え、えーと、ちょっと確認して参りますので、少々お待ちください」
受付嬢はダイチに名前を告げると、返事も聞かずにスタスタと奥の部屋へと行ってしまった。
遅い時間だからか、ギルドの職員は誰も見える所にはいない。
「ちょっと数が多かったみたいだな……」
ダイチがミレーニアに話しかける。
「セレナさんだっけ? なんかダイチのこと見つめてたよ」
頬を膨らませて袖を掴みながらダイチに抗議の目を向ける。
「いや、あれは珍しいものを見る目というか、冒険者として興味深いとかそんなとこだろ……それに魔物を狩りまくったのはメリーだし……」
やましいことは無いはずなのに、なぜか言い訳してる気分になるダイチ。背中にツーっと汗が流れた。
「そうかなぁー……」
なんとなく納得のいかない様子のミレーニア。
その時、背後がガヤガヤと騒がしくなったので、何事かと思い後ろを振り返るダイチ達。
見ると厳ついスキンヘッドの男が、周囲を威圧しながらダイチ達の方へ歩いてくる。すぐ後ろから背の低い痩せた男がついてくる。
酒場で飲んでる人達は、これから起こることを楽しむかのように、その様子を伺っている。
「おい! お前ら!!」
スキンヘッドの男が大声でダイチ達に呼びかける。
背は190センチメートルくらいあるだろうか。筋肉を見せびらかすように薄着をしている。
中々の威圧感だが、ダイチ達は特に気にした風も無く。
「メリー、昼間話した物語のお約束というのが来てしまったかもしれない」
そんなことをミレーニアに告げるダイチ。
「なんか昼間見た竜の人と似てる感じね」
「ああ、完全に雰囲気は被ってるな……」
余裕はあるが、なんとなく疲れた表情のダイチとミレーニア。
「ちっ! お前、今日登録したばかりの冒険者らしいなあ。女とイチャイチャして、いいご身分だな」
スキンヘッドの男がダイチを睨んでくる。後ろを付いてきた男もダイチ達の近くまでやってくる。
「お前たち、頭を下げるなら今だぞ、この人を誰だと思ってる。C級冒険者のグレアさんだぞ! 新米冒険者なら仲良くしてもらった方が身のためだぞ」
付いてきた男がスキンヘッドの男の事を紹介する。
「なんだろうな……この既視感は……」
ダイチは疲れた顔で呟いた。
グレアがミレーニアをマジマジと見たところで。
「やっぱりな……遠くから見たときも思ってたが、こっちの女はかなりいい女じゃねえか。C級冒険者として俺がイロイロ教えてやるから、あっちの酒場に来いよ、なあ」
グレアがニタニタしながらミレーニアの肩に手をかけようとする。
「勘弁してくれ、こっちは一日イロイロあって疲れてるんだ」
ダイチは、グレアとミレーニアの間に体を入れて遮る。
「ああ? てめえは新米なら先輩冒険者の言うことを聞いとけや!」
そう言ってダイチの胸ぐらを掴もうとしてくる。
ダイチはその腕を斜め後方に引き、前のめりになったグレアに足をかける。
――――ズザッ
つんのめるように床の上を滑るグレア。
やはりそうかと納得する様子のダイチ。
受付嬢セレナからのランクの説明で、魔物のランクはそのランクの冒険者が数人でパーティーを組んで倒すものだと説明を受けていた。
殺人熊はCランクの魔物でダイチ一人では倒せないが、Cランク冒険者一人なら相手によっては何とかなるとダイチは理解した。
先程、バッグから出した討伐部位の中に殺人熊のモノがあることをグレアが知っていたら、絡んで来なかったかもしれない。
ミレーニアはダイチが庇ってくれたのが嬉しいのか、ニコニコしながらダイチを見ている。
「こ、この野郎!」
スキンヘッドの天辺まで真っ赤にしたグレアが膝に手をついて立ち上がる。
「甘い顔してやってれば、つけ上がりやがって……」
グレアの発言に、いつ甘い顔してたっけと首を傾げるダイチ。
「見てろよ……」
そう告げたグレアの右腕が赤く膨張する。そのむき出しの腕からは蒸気が出ている。
「Cランクで魔力を使って肉体を強化できるのは俺くらいだ……くらいやがれ!」
グレアが大振りの右ストレートをダイチめがけて放つ。
ダイチはその様子を見て何度目かの既視感を感じてるうちに、わずかに反応が遅れる。
ダイチがチラリと背後にいるミレーニアの方を見た。ダイチはすぐ視線を前に戻し、左腕でグレアの攻撃をガードしようとする。
――――ゴッ――――バキッ
鈍い音がした後に、木が折れるような音が続く。
ダイチはグレアの攻撃をガードしたが、ガードごと殴り飛ばされ討伐部位を広げてた机に突っ込んだ。
魔物の角や牙やらが辺りに散乱する。
「メリー!! 手加減しろ!!!」
壊れた机の中からダイチが叫んだ。
――――――ドンッ――――――――――バーン
グレアはミレーニアに蹴り飛ばされ、ギルドの入口の扉に激突した。
普通は人を蹴って届くような距離ではない。
酒場から様子を眺めていた人達は無言で、ミレーニアと気絶しているグレアを見比べている。ギルド内を静寂が支配する。
「よく手加減した。……と言っても俺が喰らったせいだな。ゴメンなカッコ悪かったな……」
ダイチが首を擦りつつ起き上がり、ミレーニアの震える背中に声をかける。
「ダイチ……避けると私にあたるから避けなかったでしょ。私はあんな攻撃受けても何ともないのに……」
自分が攻撃される方が余程良かったとばかりに、悲しそうな表情でダイチを見るミレーニア。
「あー、結構痛かったし魔王城に被害出てるかもな……セシリア達が心配してなきゃいいけど」
気まずいのか、なんとなく話をそらすダイチ。
「クスッ……帰ったら二人して怒られるかもね」
ダイチに大きな怪我が無さそうで安心したのか、ミレーニアに笑顔が戻る。
少しすると、奥から受付嬢のセレナが戻ってきた。
「お待たせしまし……た。これはどうしたんですか!?」
机が壊れ周辺が散らかってる様子に、セレナが目をぱちくりさせている。
「あー…………グレアとかいう冒険者に殴り飛ばされぶつかった結果がそれ。グレアは蹴り飛ばされてあそこ。それだけだよ……」
ダイチはどう伝えるか迷ったようだが、面倒くさそうに指を指して結果を伝え、おしまいにすることにしたようだ。
「……はい。まあ……あの人は問題ある人だったので、大丈夫だと思います……」
セレナは何となく事情を把握したようだ。
「それで、確認っていうのはどうなったの」
ダイチがセレナに問いかける。
「はい、今日はギルドマスターがいないので、明日の朝にもう一度ギルドにいらしてもらってもいいですか?」
「明日かあ……」
ダイチが呟きながらミレーニアの方をチラリと見る。ミレーニアはダイチに任せるという風に頷く。
「ギルドマスターなら適正なランクに引き上げる権限がありますので、ダイチさん達にもメリットがあると思います」
セレナがさらに提案する。
「この散らかってしまった討伐証明部位はこちらでしっかりと数えて、報酬もその時にお渡ししますので……」
「確かにその方がいいな。じゃあ明日また来るから、その時によろしく」
そう言ってダイチとミレーニアはギルドを後にした。