第13話 魔王城への帰還
二頭の騎竜が三人を背に乗せ、魔王城に向かって草原を駆けている。
ダイチとミレーニアがそれぞれ騎竜を走らせ、リンスはダイチの前に同乗している。
騎竜に乗るのが初めてだからか、主であるダイチの顔が猫耳のすぐ傍にあるからか、緊張してソワソワしてるリンス。
騎竜にまたがると頭一つ分背の低いリンスの耳が、ダイチの顔に触れるのがリンスにとってくすぐったいらしく、たまに「ヒャンッ」と声を上げたりしている。
「いいなぁ~、私もリンスみたいにダイチと一緒がイイ~」
だらしなく騎竜の背中に突っ伏しながら並走するミレーニア。ミレーニアを背に乗せている騎竜がどこか呆れてる気さえする。
「良かったのか? 奴隷じゃなくてミレの使用人になる方法もあったし、今からでも何とかできなくはないぞ」
猫耳少女リンスに話しかけるダイチ。
「わ、わたしは……ご主人様にお仕えし……したいです。ご主人様はわたしにとって猫人族のいいつたえに出てくるような方なのですっ」
目を瞑りながらも必死に言葉にするリンス。これだけは譲りたくないと精一杯伝えようとしているようだ。
「分かったよ、何度も聞いて悪かったな」
リンスの頭を撫でるダイチ。
頭を撫でられ気持ちよさそうに目を細めるリンス。さっきの街でのことを思い出し、左肩を大事そうに右手で抑える。
ダイチが奴隷商人のモーリスから、リンスを買うことを決めた後、商館お抱えの魔術師によってリンスの右肩には奴隷紋が施された。
奴隷紋は特定の人を主人として、自らは奴隷として従うことを契約する魔法である。奴隷は主人に不利益な行動、言動等ができなくなり、自身の命に関わる事以外は主人の命令に強制力が発生する。
ルナテイル王国では奴隷制度が昔からあるため、一般市民にも奴隷が自然に受け入れられている。
一方、魔族を中心とする魔王勢力には奴隷制度が無い為、ダイチは馴染めないものを感じていた。最終的には、主人である自分が「奴隷」としてではない接し方をすればいいだけだという結論に落ち着いた。
魔王城に着くまでの間に、ダイチはミレーニアが魔王であること、自分達は魔王城に住んでいること等、自分達の現状をリンスに簡単に伝えた。
リンスは初めこそ驚いたが、途中からは目をキラキラさせながら真剣に話を聞いていた。まるで英雄の物語をワクワクしながら聞く子供のように、その様子はまだ幼いリンスを歳相応に見せるものだった。
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「あら、おかえりなさい、ミレーニア様に二代目。……と、初めまして?」
魔王城の城門をくぐり少し歩いたところで、ダイチ達はセシリアに声をかけられた。連絡等は全くしていなかったのに、ダイチ達に会っても落ち着いた様子のサキュバスお姉様。
「ただいまー、セシリアと会うのも久しぶりな気がするね。それでこの子は……ダイチの奴隷のリンスだよ」
魔王城に着いてからリラックスモードのミレーニア。
「はじめまして、わたしはリンスです。よろしくお願いします」
挨拶をするリンスに優しい目を向けるセシリア。そして、「どういうこと?」とダイチに視線を送る。
「そういうことだ……」
悪いことはしていないはずなのに、何となくダイチはセシリアから目を反らした。
「はぁ……なんとなくだけど理解したわよ……」
ため息をつきながら、どこか納得した様子のセシリア。
「助かる……あー、助かるついでにセシリアに頼みがある」
「はぁ……二人が帰ってきた途端に私の仕事が増えてく感じ……で、内容は?」
苦労人のセシリアであった。
「リンスにこの城での生活や常識、そして城での仕事について教えてやってほしい。もちろん俺からの依頼として報酬を支払う」
魔王の臣下の中でも幹部でありながら、メイド長でもあるセシリア。ダイチはリンスの教育係にうってつけだと判断した。
「わかったわ、任せてちょうだい」
ダイチの依頼を受けるセシリア。
「リンスには使ってない俺の部屋を使わせてくれ」
この城は全体的に魔王に賃貸しているが、一部例外として数部屋は賃貸せずにダイチが使ったり、予備として置いてある。その内の一部屋がリンスの部屋となる。
「よろしくね、リンス。今日からあなたの担当になるセシリアよ」
「よろしくおねがいしますっ! 頑張ります!」
リンスはやる気十分なのか、尻尾が勢い良く振られていた。
「そう言えば二代目、二人が街に向かった初日の夜にロイスの部屋の窓が粉々になったんだけど、心当たり無い……?」
セシリアはダイチに問いかけるが、何かあったことはセシリアも察しているようだ。
「あー……窓は交換して月末に俺に請求してくれ……」
冒険者ギルドで絡まれ机に叩き付けられた時の事を思い出したダイチだった。
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――――コンコン
「入っていいぞ」
ノック音に向かって入室の許可を出すダイチ。
自室で寛いでるところだった。
「帰ってきたばかりでお疲れのところ悪いわね……」
ドアを開けて入ってきたのはセシリア。
「どうした? 早速リンスが問題でも起こしたか?」
「いえ、あの子は素直でこれから楽しみよ」
セシリアは微笑みながら、ダイチの腰掛けている椅子から少し離れたソファーに腰掛ける。その立ち居振る舞いには色気が滲み出ている。
「ミレーニア様、凄く嬉しそうな顔をしてたわ。二代目とのお出かけが余程楽しかったみたいよ」
自分の事のように嬉しそうに微笑むセシリア。
「それはなによりだ。俺も有意義だったしな」
手元の書類をパラパラとめくるダイチ。
「二代目は素直じゃないわね……」
セシリアは小さくため息をつく。
「ほっとけ……」
ダイチが窓の外に視線を移すと、夜空に月が輝いている。。
「初代から魔王城を相続して一ヶ月だけど、問題はない?」
先程までとは打って変わって真剣な表情のセシリア。
「問題ない……だいぶ馴染んできた感覚はあるな。『所有権魔法』も『魔王城』も……」
ダイチは一ヶ月前に、祖父として慕っていた男から『所有権魔法』を受け継ぐと同時に『魔王城』を相続した。
「初代は魔王城を『所有』するので許容範囲ギリギリだったみたいだけど、体に負担はない?」
大規模な魔王城の『所有』は相当負担のかかることのようだ。セシリアが初代と呼ぶ男が魔王城を所有するだけで精一杯だったくらいには。
「負担はない……し、おそらくまだまだ『所有』は増やせる感覚はあるな……条件はいろいろありそうだが……」
ダイチは右手を握ったり開いたりを繰り返す。
「さすがだわ……あー、せっかくだからミレーニア様を貰ってくれないかしら」
冗談めかして、そんなことを言うセシリア。
「おいおい……冗談でも主を差し出すようなことは言うなよ……」
呆れた物言いになるダイチ。
「冗談よ…………」
その後に続く「……半分は本気だけどね……」というセシリアの呟きはダイチには聞こえなかった。




