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第1話 魔王城は俺のモノ

――――――バタバタバタ


勢い良く廊下を走る足音。


バタンと大きな音を立てて部屋の扉が開かれる。


「ダイチー!」


「お待ちくださいっ! ミレーニア様!」


 部屋の主の名前を呼びながら、赤い髪の美少女が勢い良く扉を開けて飛び込んで来た。

 ここは魔王城の一室、「ダイチ」と呼ばれた少年の自室だ。


 腰丈まである真紅の美しい髪に、赤味がかった瞳、整った顔にはどこか幼さを残している。

 少女の名前は「ミレーニア」

 後ろから慌てて追いかけてきた長身で執事服の青年は「ロイス」


 少年はジト目でミレーニアに呼びかける。


「おい、ミレ……部屋に入る時はノックくらいしろって言っただろ……」


 椅子に座って執務机に向かっている少年ダイチ。18歳、黒髪黒目、中肉中背、平凡な何処にでもいそうな全くもって特徴のない人族である。


 ある一点を除いては…………


「き、貴様っ! ミレーニア様に向かって何たる口の聞き方! 地獄の炎で炭にしてくれる!」


 ミレーニアの後ろにいたロイスが目を剥いて憤る。上に向けた掌には黒い炎が渦巻いてる。


「ちょっ!? 死ぬ!」


 恐ろしいほど魔力の篭った炎にダイチは焦る。あれに当たれば一瞬で炭になれるだろう。いやもしかしたら炭ではなく、影しか残らないかもしれない。


――その時、紅い疾風が部屋を駆け抜ける。


「ロイスゥ! あんた、魔王城を炭にする気ぃぃぃ!?」


「ウゴッ」


 ロイスの顎にミレーニアの後ろ回し蹴りが炸裂した。少女とは思えない身体能力、何を隠そう彼女は今世の魔王その人である。

 そんな魔王に蹴り飛ばされたロイスは顔面を変形させながら吹っ飛ぶ。


「あ! そのコースはまずいっ!」


 ダイチは急いで窓を開けようとするが、間に合うわけもなく……


――――ガシャーン


 そのまま窓を突き破って…………


「ミレーニアさまああああぁぁぁっ…………」


 彼方に飛んでいった。

 まぁ毎度のことだ、ロイスなら無事だろう。窓は無事ではないが。


「――ッ」


 ダイチが、遅れてきた痛みに一瞬眉間に皺を寄せた。


「あ……、ゴメン……」


 ミレーニアが申し訳なさそうに、ダイチに謝る。


「ああ、大丈夫だよ。窓が壊れたくらいなら、少し痛むだけだから」


 手を擦りながら、ミレーニアにこたえる。


 この魔王城……壊れたり、ダメージを受けたりすると、ダイチもダメージを受けるのである。一応、城は大きいので、城の一部が壊れた時に受けるダメージはダイチの体の一部程度ではある。

 逆も然り、ダイチがダメージを受けると、城もダメージを受けてしまう。


 ダイチが地獄の炎で炭にされた日には、魔王城も炭になる。住んでる者達にとっては、笑えない話だ。


 つまり、そう……このダイチと魔王城は文字通り一心同体なのである。



■■■



「それで、何か俺に用があったんじゃないの?」


 ダイチが執務机を挟んで向かい合ってるミレーニアに問いかける。


「そうだった。今月分の家賃を払いに来たのよ」


「あ、もう月末か」


 ミレーニアが空間の裂け目に手を突っ込んでゴソゴソと何かを探している。


「あった、あった。はい! 今月分金貨百枚!」


 ズシリと重そうな巾着袋を執務机の上に置く。


「確認させてもらうぞ」


「うん!」


――ジャラ


 中身は全て金貨、それを机の上に広げダイチが数えだす。ミレーニアは嬉しそうにニコニコしながらその様子を眺めている。


「……八……九……十枚」


六十枚を超えたところでダイチはあることに気付く。ミレーニアはあいかわらずダイチが数えるのを見てニコニコしている。


「……七十八……七十九……八十枚。ミレ、二十枚足りないぞ」


「あれー? 確かに金貨百枚あったはずなんだけどなあ……」


 ミレーニアは指を顎にあてて、首を傾げている。その仕草は、多くの男が恋に堕ちる程に可愛い。


「今月分の家賃の金貨百枚に足りない分、二十枚は滞納扱いになるぞ」


 ダイチはミレーニアの可愛さに魅了される事無く、淡々と告げる。


 この魔王城は、一ヶ月金貨百枚でダイチから魔王ミレーニアに賃貸されているものである。

 そして、今日が支払期限の月末最終日だ。

 ちなみに金貨一枚で若い夫婦なら、贅沢しなければ一ヶ月間生活出来る。

 物件で例えるなら、王都のメインストリートで小さな屋台を開くことができる一ヶ月分の場所代が、金貨一枚である。

 一言で言えば金貨一枚は大金だ。


「今、他に余ってる金貨無いよー……うーん……二十枚は何処に消えたんだろ……」


 人差し指でおでこをグリグリしながら思い出そうとしている。その仕草は、ただただ可愛い。


「そう言えばこの前、東方の国で美味しそうなお菓子があるから、取り寄せたいとか何とか言ってなかったか?」


「そうだ! セシリアと食べたんだけど凄く美味しかったんだよ! また取り寄せるからダイチも一緒に食べようね!」


 思い出した!とミレーニアはパンと両手を合わせ笑顔になる。

 しかし、ダイチはそれに反応せず淡々と続ける。


「それの支払い……まさか異空間決済してないだろうな?」


「………………」


 ミレーニアは笑顔のままそっと目をそらした。


「お前、金貨二十枚分も食い物に使うとか……」


「あぅ……」


「それも完全な嗜好品に……」


「あぅぅ……」


 ダイチのジト目が止まらない。


「ほ、ほら、たまには自分へのご褒美?」


 ミレーニアの目は泳いでいる。


「…………」


「その分頑張って……」


ミレーニアはチラチラとダイチを見る。


「…………」


「稼げる予定だったのよ……」


 罪悪感があるからか、語尾が段々小さくなっていった。


「……ごめん」


「はぁ……で、どうしようか?」


 それを聞いたミレーニアは何かを思い出したように言う。


「分かったよ!」


ミレーニアは目を瞑り顔を真っ赤にする。


(あ、このパターンは……)


「か、体で払うから!!」


 魅惑の提案をするミレーニア。

 世の男達だったらドキドキしてしまうところだ。ロイスが居たら炭にされるであろうダイチも別に意味でドキドキだ。


「また、セシリアに変な知恵つけられたんだろ……」


 ダイチは目の前の少女に要らぬ知恵を与えたであろうサキュバスを思い浮かべる。


『こうやって迫れば、男なんてイ・チ・コ・ロよ』


(絶対面白がって入れ知恵してるだろ、セシリア……)


「ううー……そうだけど……」


 ミレーニアは顔を真っ赤にしたままモジモジしている。ちなみに握ったサイドテーブルはミシミシと音を立てている。


「……それ気に入ってるから壊すなよ?」

 

 ダイチはサイドテーブルと壊れた窓を交互に眺めてため息をつく。


「そうだな、滞納分の金貨二十枚分は、ミレの体で払ってもらうことにしようか」


「えっ!? ええ!?」


 更に真っ赤になり、あたふたしながら手をパタパタしている。


「早いほうがいいな、午後から準備するぞ」


「えっ!? ち、ちょっとまだ心の準備が……」


 頭から湯気が出そうな勢いで、あーうー言っているミレーニア。


――――パタパタパタ


 その時、廊下を走ってくる足音が聞こえる。


「失礼します! ミレーニア様、一大事です! すぐに謁見の間にいらしてください!」


 走り込んで来たのは、メイド服姿の女性。


 それを聞いたミレーニアは、先程までとは打って変わって真剣な表情に切り替わる。


(こういうところは、魔王様なんだよな)


「詳しい話は、向かいながら聞くわ! ダイチも来て!」


 ミレーニアはそれだけ告げると早足で部屋から出て行った。ダイチはゆっくり立ち上がって伸びをしてから、その後を追う。


「やっかいごとだろうなー」


 ダイチは、今日何度目かのため息をついた。




金貨1枚=約10万円(日本円)


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