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隠居系魔術師物語  作者: 百面相
第一章
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序章

科学の発展した現代。多種多様な機械に囲まれたこの世界で栄華を極めている科学の陰に、ひっそりと発展してきた学問がある。


魔術学。


希少な条件下でのみ発生する自然現象や、理論上起こり得ない事象を人為的に具現化するこの学問は、その特殊性と相俟って歴史の表舞台には決して出てこない。

魔術の雛型とも呼べる思想が起こったのは実に先史時代にまで遡るとされる。

古く人類は大自然等の人知の及ばない領域に於いて超自然的存在、即ち現在で言う神や精霊といった概念を見出していた。

この現象は世界中のあらゆる場所に見られ、呪術的な行為が人類の発達に大きな役割を果たしていたということは疑う余地がない。

そして神への祈りや交信の方法は地域によって様々に特色があるものの、その本質を“贄”を捧げることによって得られるとする。

例えば、動物を殺してそれを神への供物とする、祈りの言葉を捧げる、踊るなどが真っ先に思い浮かぶだろう。

そうして多様な試行が繰り返されていくうちに、人類の思考も次第に発達していき、それと共に呪術的行為が体系化されていくことになる。

魔術学は、そうして発展してきた呪術の一体系なのである。


歴史上、魔術学は他の学問との混合を経ている。

錬金術は現在の化学の源流ともいうべき学問であるが、もともとは古き信仰や宗教から派生して生まれたため、根源的に魔術的要素を含んでいた。また発展の途中で魔術と共に異端視され排斥されたかと思えば、17世紀のドイツの魔術結社に取り込まれ、魔術に結びつく。


また、数学も魔術と深い繋がりがある。それを証明するかのようにピュタゴラス然りラマヌジャン然り、歴史上の著名な数学者はしばしば“魔術師”と呼ばれる。

ピュタゴラスは『万物の本質は数である』と言ったのは誰しもが知ることだろう。

その意味するところは、あらゆる事物は数によって理解できるということだ。

彼は“調和”の概念を重視したことで知られる。

宇宙は数的調和に秩序づけられているとし、最も規則正しい立体は球体であることから、この世界も当然に球体であるはずだと考えた。

また、行動と原因、結果は数により観測され記録されることから物理的な影響力を持つとした。

数とは概念であるが、概念が物理的に力をもつ、という思想は十分に魔術的であると言えよう。


余談だが、因果律に干渉する魔術はこのピュタゴラスの思想に端を発している。

魔術には様々な種類があるが、国によって特色がある。

例えば、この因果律に干渉する魔術であるが、ピュタゴラス思想が醸成されたギリシャや、ピュタゴラス教団が本拠としたイタリアに多くみられる。

また占術は世界各国で見られるが、数学を利用した、いわゆる数秘術はギリシャでは勿論、そこから伝播したローマやエジプト、果ては中国でも有名だ。


一口に魔術とはいうが、その内容は前述の錬金術や数学、はたまた邪神信仰、アミニズム等々人類のあらゆる文化から体系化された膨大で複雑な学問分野なのである。


さて、その魔術だが、様々な種別がある中で魔術を行使するにあたり共通する事柄がある。これこそが魔術学を日陰に追いやった理由でもある。

この世界では、目に見えずとも確実に存在している物質がある。空気中には酸素をはじめとした各元素が漂い、物質は極限に拡大すると原子から構成されていることがわかる。

そしてそれと同じように目に見えず、感じられなくとも存在している“モノ”で、魔術行使にあたり必ず必要になるのが“魔素”と呼ばれる力体なのである。


この魔素は目に見えないエネルギー体で、純粋な物質というわけではない。

魔術行使に必須にもかかわらず、この魔素に関して、例えば如何なる働きで多様な現象を起こしているのか、どこから発生するのかなど、利用の仕方は分かっていてもそれ以外の詳細はいまだ学者の間で喧々諤々の議論が交わされている有様なのである。


魔術を行使する人間は、魔術師と呼ばれる。そして魔術師はとても希少な存在だ。

なぜなら、魔術学を知ることができる環境にあることを当然の大前提として、魔素を扱える素質がなければいけない。そしてこの素質を持つ人間がとても少ないのである。しかも、ただ扱えるだけでは意味がない。何らかの術を行使できる程度には扱いに長けていなければならず、訓練次第で魔素の扱いが熟達していき、行使できる術も増えるものの、魔素を扱えるが術を行使できない人間は、どれほど修練を積んでも術を扱うことはできないのである。

地球上の全人口がおよそ70億人として、魔素を扱える人間がその0.1%、術行使できる素質を持つ者は更にそのおよそ0.1%と如何に少ないかがわかるだろう。これこそ、魔術を日陰に追いやった理由なのである。


この魔素は人間の肉体の内部にも存在する。運動したときなどに使用されるエネルギーは大部分が魔素で代替され、減少分は呼吸や摂取によって補填される。

そのため、イメージに反して魔術師は一般人よりも体力的に優秀で、魔素の保有量が多ければ多いほど、よりその傾向を示す。

しかも、最近の研究に依れば、魔素がテロメアの伸長を行うテロメラーゼという酵素の活性化を促しているらしく、魔素が寿命を延ばしている原因だという。魔術師は老衰で死ぬ方が少なく、大抵は他の魔術師との争いや、魔術の行使に失敗して死んでしまうため、平均寿命の観点からは魔術師が長寿であるとは判断できないが、実際に300年ほど生きた実例もあるので間違ってはいないと思われる。


その魔術師たちだが、彼らはこの現代に於いてどのように暮らしているのだろうか。


魔術師は時に国を陰から支配し、時に迫害されてきた背景を持つ。歴史を紐解けば、爆発的に魔術師が発生し戦乱を引き起こしたという負の面もあれば、医学が匙を投げた重病人を癒したこともあるという正の面もある。そういった経緯を踏まえて、次第に魔術師は世間一般から姿を消していき、陰に身を寄せ合うようになる。

その結果必然的に魔術師の寄り合い所のようなものが作られ、相互扶助を理念とした組合に発展した。それが魔術師協会(ギルド)である。


魔術師協会(ギルド)は弁護士会のような強制加入団体ではないが、ここに所属することで様々な恩恵を享受することができる。まず、魔術師同士の情報交換の仲介をしてくれるのだが、寄せられた情報はギルドで精査されるため、信用度が高い。また、魔術師の宿命である研究の援助をしてくれる等、魔術師にとってありがたい組織なのである。無論、研究は秘匿性が求められることも多々あるので、必ずしもすべての人間が利用するわけではないのだが、公開性の高い研究などを行うにはうってつけだ。

更に、依頼制度というものもある。例えばある魔術師が研究の素材の採取を他の魔術師に委託する場合や、他の魔術師とのいざこざの調停を依頼したい場合、はたまた犯罪魔術師の討伐依頼など、内容は多種多様である。


この物語は、日本における魔術師ギルドにとある青年が依頼を受けに来たことから始まる。

彼が何を為すのか、何に巻き込まれるのかを知るものはいない。


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