表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/82

5・強盗



「動くな!」

 書斎の椅子に腰掛けていると、後ろから声が聞こえた。振り返ると、覆面をかぶった男がいた。

 窓から侵入してきたようだ。

「誰かね?」

「見て分かるだろ」

「強盗か」

 男は肯定として、銃口を突き付けた。

「おっと、これ以上動いたらあの世行きだぜ。死にたくなきゃあ金を出しな」 

「それは本物かね。モデルガンではないだろうな?」

「本物だよ。この引き金を引けば、ドカンとあんたの頭がふっとんじゃうぜ」

 私を怖がらせるよう、ニヤニヤと銃を見せびらかしている。

「そっか、それは好都合だ。キミが来てくれたことを歓迎するよ」

「なにふざけてやがる。さっさと金をだすんだ」

「金はない」

「死にたくなければ、出すしかねぇぜ」

「ああ。早く殺してくれ」

「なに?」

「これを、見なさい」

 強盗に、机の上にある小ビンを見せる。

「なんだ、そりゃ?」

「毒薬だよ。これを飲めば私は死ねるんだ」

「なんだと……」

「さっきから、飲もうとしているんだが、飲む勇気がなくてね」

 時計を見れば、深夜の2時16分だ。

「ふう、かれこれ4時間もこの状態でいたのか。情けないな。この世に未練はなくとも、死ねないでいるとは……」

 自分が情けないと、大きくため息をつく。

「あんた、自殺する気なのか?」

「そうだ。会社が潰れてしまってね。私は破算した。大事な女房、子供にも逃げられた。この屋敷だって、近々売り払われることになっている。私に残っているのは膨大な借金だけだ。そうなれば、死ぬ以外に救いの道はないだろ?」

「ちっ、厄介な家にお邪魔しちまったな」

「頼むから、その銃で私を殺してくれないか? もちろん、礼はする。金はないが、コレでどうだ?」

 引き出しにあった金の腕時計を渡した。

「父の形見だ。売ればかなりの額になるだろう。さあ、一思いに私を殺してくれ」

 強盗は、手にした時計を眺めていたが、思い直して床にたたきつけた。

「ふざけるな! 俺は強盗だ。殺し屋じゃねぇんだっ!」

「さっき殺すと、言ってたじゃないか?」

「脅しに決まってるだろ。本気で殺すわけねぇよ!」

「やれやれ、情けない強盗だな」

「勝手に言ってろ、くそっ!」

 強盗は、開いた窓から出て行った。

「殺してくれないのかっ!」

 窓から呼ぶと、「ファックユー!」と早々に逃げてしまった。

「あなた、誰といたんですか?」

 物音で目が覚めたのだろう。パジャマ姿の女房が顔を出した。

「ああ、頭の悪い強盗を追っ払ったよ」

 そういって私は、ドリンク剤を飲んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ