トレド 後編
「ほんと、何アレ…」
トレドのメインストリート沿いの旅籠屋の一室で呟いた。
鏡の中の自分は蝋燭のちらつく灯りで、怯えているように見えた。
掻き揚げる髪も濡れてくたっとしていた。
いくら隣にカイトとウィンドが寝ていても、怖いと思うのは止められない。
だからといって隣に転がり込むのも癪だ。
かと言って何もすることが無いので蝋燭を吹き消し、月明かりの差す窓際のベッドに横になった。
夢をみた
夢ではわたしに誰かが囁きかけていた
禍々しくて、どすぐろいものがあちこちに溢れていた
「ぅ……ん」
小鳥がチュンチュン鳴く中で目を覚ました。
息苦しいと思ったら、誰も居ないはずの隣に寝ている人がいた。
しかも目の前で、抱き枕にされているのだから。
「ぅわああぁぁ!!!顔近い!」
べっちぃぃん!!
これではビンタされても文句は言えまい。
カ「いってぇな!何すんだよ!!」
「あんたこそ何であたしの方のベッドに寝てんのよ!変態!!」
カ「………はぁ?何であんたがオレのベッドに居るワケ?」
……バカ。
ウ「それでこんなに頬が腫れとるわけか、まぁ殴られてもしょうがないわな」
「でしょー」
2人してジトーと、睨みつけてやった。
ざまぁみろ。
カ「んなコト言ったって…癖なんだからしょうがねぇだろ」
「イイ男が言い訳してー。かっこわるー」
ウ「もういいじゃろ、カイトも反省しとるじゃろうし」
カイト&アンナ「………………」
ウ(お互い年頃の異性同士…意識するのはしょうがない事だ。しかしあのアンナという小娘、少し注意する必要がありそうじゃな。
いくらカイトが寝ボケていたからと言って、あのカイトの気配に気付いてすぐに起きれるとは…わしでも出来ん芸当じゃぞ。
……怪しい。
こりゃ本当に地球から来たのか確かめる必要があるな…)
ウ「こりゃアンナ、お前は本当に地球から来たのか?どうじゃ?」
カ「なッ…何言ってんだよ!本人がそう言ってんだからそうだろ!何も疑うことなんか…」
ウ「少し黙れカイト、わしはこやつに聞いておるんじゃ」
「当たり前じゃない!他からどうやって来るのよ!ココがどこかも知らないタダの小娘に本当に地球から来たのかなんて、それぐらい聞かなくても分かるでしょ!!」
ウ「確かに。わしもそう思ったが…あらゆる可能性を疑うのが指輪の持ち主の心構え!そういうわけで……アンナ、わしと戦え」
「だーかーらー!私は何をすればいーの!?」
よく分からないまま、連れて来られた広い荒野はあちこちに枯れ果てた木や動物の骨が転がっていた。
ズガッ
そんな中、唐突に足元の地面が黄色の閃光によって抉れた。
「きゃっ」
ウ「ボサっとしてると本当に殺すぞ」
カ「おいジジィ!何もそこまで…」
スッとカイトに杖を向けて唸るように言った。
ウ「お前は黙っとれ。これはわしが望んだものじゃ」
「何でそこまでして確かめなきゃいけない物なの?」
ウ「そうだ。わしの命に係わる重要なコトだ」
……へーそうなんだ。
やけにドライになりながら、淡々とこの状況を見ていた。
ガッ…ザシュッ
抉れていく地面を見ながら平然としている自分に、少し、驚きながら。
ザッ
今まで自分が立っていた所にあの黄色い閃光が来そうになったから、かわした。
目を疑った。
あの昨日まで何も出来なそうだったあいつが、ウィンドの魔法を見切ってかわしたなんて。
オレでもできねー芸当。
すげぇな、あいつ。
何故…わしの攻撃をかわせる……。
それにあの顔、こうも冷静で居られるものか…。
おかしい……。
「……我、汝の動きを止める者なり」
不意に口から零れ出たのは訳の分からない言葉だった。
それは意識して言ったものではないが、確かにウィンドの動きは止まった。
ウ「…!貴様…この呪文を知っておるのか…?」
ウ(この呪文は……まさか!)
カ「お前…闇の指輪を持ったことがあるのか!?」
「……さぁ、私にも分からない」
自分が何を言っているのかなんて、まるで他の人が言っているように聞こえた。
ただ、自分の精神ではとても言わないような事を言っているようだった。
クラッ
そう思った瞬間、眩暈がしてその場に倒れそうになった。
それで意識が離れたのか、再び動けるようになったウィンドがその場にくずおれた。
倒れそうになった私をカイトが支えて、ウィンドも一緒に担ぎ上げた。
カ「まったく2人とも魔力の使いすぎだっつーの、後始末するオレの事も少しは考えてくれよな」
ウ「ふん、ワシらなんぞお前の体重よりは軽いだろうが」
……そこまで聞いたとき、意識が闇に堕ちていった。
夢をみた
夢ではわたしに誰かが囁きかけていた
〔ハヤクココカラダシテクレ……〕
禍々しくて、どすぐろいものがあちこちに溢れていた
設定の所に『恋愛』と書かれていますが、前半はほぼないです。
たまに色ボケだけがあったり…無かったり…。