思い出せないモノは……
ガッタン、ゴトッ、ゴチッ
「痛ぇ!!」
ここは汽車の中。
事の発端は一週間前に遡る……
天気は曇り。
フィラデルフィアに移って来て丁度10日目。
「なぁ、じじぃ……そろそろ次の街に移らないとヤバイぜ」
「そうだな、あの子が居るが……まあ、慣れてもらおう。危険な事もあるが」
杏南の顔に踊る火を見詰めて、カイトは呟いた。
「コイツはオレが責任持って守ってやるよ」
焚き火の隣ですやすやと眠っているアンナはそれを知らない。
「で、何ですぐに街を移動しなきゃなんないワケ?」
早朝に寝入りばなを起こされたアンナは、機嫌がものすっっごく悪かった。
「ねぇ、何で何で何で何でぇ〜〜」
「zzzzzzz……」
カイトとウィンドは無視を決め込んだようだ。
「馬鹿馬鹿馬鹿カバ!起きろ!!」
「zzzzzzzzz……」
「…もういいよ!フンッ」
2人を起こすのを諦めたアンナは窓の外を流れていく景色を見つめた。
一面の草原は見るところが何も無く、自然アンナはカイトから聞いた生い立ちの話を思い出していた。
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「オレ、生まれた所と本当の名前、知らねぇんだ」
目の前の青年は屈託無く笑った。
曇りひとつ無い、明るい笑いではなく、諦めて吹っ切れた様な笑いだった。
「ここに来たのだって物心つく前だったし、自分から来たのかさえわからねーからさ」
私と同じにおいがするのは、あながち間違いでもなさそうだ。
「ウィンドに拾われてなかったらオレも、あんたも死んでたと思うよ。だからそこんトコだけ、あのジジィに感謝してるな。そうじゃなかったらこんな危険極まりない旅になんか付いて行く訳ないからさ」
「何で危険なの?すごく安全そうに見えるし、こんなに経済も発展してるのに?」
「は?経済?何かムズい事知ってんな、お前。ま、それは置いといて、何で危険かってのはあっちの世界では神話とか、伝説に出てくるドラゴンとか魔法とか、そういうヤツがあるんだよ、異世界には」
「それに対抗できるの〜?私何も出来ないからね」
「んなこた見た目で分かるって。でもウィンドは魔法が使えるし、オレは剣術とかその辺の格闘技は一応出来るぜ」
「自慢?」
「そうですが何か文句でも〜」
「あっそうですかー、よかったですね〜」
「あんたさぁ、ちょっとした『気』があるからちょっとぐらいは魔法使えんじゃねぇの?」
「ホントにぃ?嘘くさいなー」
「でも多少は弓とかやってた方が有利かもな」
「ふーん」
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何故この世界に居るのか……
私の名前はコレで正しいのか……
全てが謎、謎、謎……
人には思い出せないコトがある
それが彼の場合、名前という事だろう
あたしは何を忘れたんだろう……
分からない……
思い出せない……