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ある人物

ちょっと他事で執筆が遅れてしまいました。

ようやく新たな登場人物が現れます。

リコ指導の下でサトの猛特訓は連日行われた。

今日も場所は同じ公園だ。続く続く練習は周辺の全ての家にまで知れ渡っていた。

そのためか公園に隣接する道を通りぬけるものは少なくなっている。練習の邪魔をしたくないわけではない。こんな住宅街で大声を出し続ける二人に近づきたくないだけである。


「今日はそろそろ終わりにしようよ」

「まだまだ。真っ暗になるまで続けるよ」

四方の住宅の屋根によって切り取られた小さな空は、すでに橙色に染まっていた。

もう日の沈むのは時間の問題だ。それでもリコはぎりぎりまで特訓を終えるつもりはなかった。それどころか、橙色の夕日がリコの熱血にエネルギーを注いでいるかのように活気が満ちていた。


相変わらずサトに主導権はない。慣れた様子で素直にリコの指示に従う。彼自身もその行動に疑いを持っていない。

「私は

「ちょっといいかな」

突然人の声がかかり、サトの演技は中断を余儀なくされる。

もちろんリコの声ではない。男性の低い声ながら、濁りがなく聞き取りやすい声であった。


二人が振り向くと、そこには青いジャケットを身に付けた好青年が立っていた。

いつの間に公園内に侵入していたのか、音もなく近づいてきたことに二人は驚く。

髪を茶髪に染めているが、さっぱりとして落ち着いた見た目が不安を払しょくする。緊張の抜けた目元と筋の通って整った鼻筋が表情を良く見せて、気さくな印象を与える。


「そんなに警戒しなくてもいいんだよ。」

二人は警戒して後ずさる。

「取って食おうってわけじゃない。君たちと友達になりたいのさ」

「初対面で友達になんてなれません。あなたは誰なんですか」

「おっとまだ名乗っていなかったね。わたしはカミヤ。ある団体で獣人を守る活動を続けている。君たちにも仲間になってもらいたいんだ」

カミヤはリコを一瞥した。

「そういうことですか。私が獣人だから一緒に活動しようと」

「リコ、どうするの」

サトは心配そうにリコの表情を読み取る。サトは初対面の相手を前に主張もできずにいる。対応はリコに一任していた。


「お断りします」

きっぱりと断った。カミヤはその苛烈さに少々面食らう。

「これは意外だな。獣人ならば仲間を守りたいと思うのが当然だと思っていたんだが。君は自分さえよければそれでいいのかな?」

「私はすでにキュアに所属しています。他の団体に所属するつもりはありません」

キュアは獣人と人との共存を掲げた平和組織である。獣人の多数が所属する巨大な集団として世界で一定の地位を保っているほどだ。

「ははは、キュアに所属しているとは月並みだな」

「私にはそれで十分です。キュアは人と獣人との共存に力を入れていますから」

「お前はそれでいいのか?」

カミヤの雰囲気が一変した。飄々とした青年から軽さが消えうせる。

サトとリコはその豹変に一歩後ずさりする。

「世界では今でも獣人が迫害され続けている。ハンターのやつらは今でも獣人をつけ狙っていやがる。お前だっていつ殺されてもおかしくはないんだぞ?」

ハンターは世界に名をとどろかせる獣人迫害集団だ。過激な思想で獣人の殺害も厭わない。未だに先進国でも水面下での活動を続けていた。

「やり返せば迫害がひどくなるだけです」

「お前もその考えかよ。それは過去に殺された獣人を見捨てるってことだぞ。俺はそんなこと許さない」

「人それぞれ考え方はありますけど、私は賛同できません」

「ま、それなら仕方がねえな」

青年はあっさりと説得を諦めた。

「んじゃ考えが変わったらそんときはここに連絡してくれ。獣人にとってお前の力は宝だ」

そう言って差し出してきたのは一枚の名刺であった。

リコが受け取って確認するが、カミヤの名前と連絡先が書いてあるのみである。

「秘密の組織だから組織名とかは書けねえのよ。それじゃあな、劇の練習頑張ってくれ。特にそこの男は頑張れよ。女の子に頼ってばっかじゃだめだぞ」

そう言い残してカミヤは去って行った。


「あの人の言うとおり。私に頼ってばかりじゃだめだよ」

「わかってるよ」

今日のリコはカミヤの残した言葉で熱血度をあげてしまった。

サトはカミヤのことを恨みながら練習を続ける。彼の話した言葉を心の中で繰り返しながら。

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