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近所の公園

劇の配役が決まってからしばらくが経った。

台本も完成し、サトとリコの二人は近所の公園で役の練習をしていた。


「私はトラだ。もう人間ではない……」

サトのか細い声が空気に吸い込まれて霧散していった。

「それじゃ聞こえないよ! 尻すぼみじゃだめ! もっと大声で、体育館の端まで届かせるの!」

リコの声はきれいに澄んではるか遠くまで響いていた。


ここは住宅街の中にあるちっぽけな公園。シーソー、滑り台、ブランコの三つの遊具だけが設置されている。四方は住宅に囲まれていて圧迫感が強い。

近所なので二人の知り合いも近くに住んでいる。大きな声を出せばそれらの家にまで届いてしまう。

サトにとってはこれ以上ない残酷な練習場所と言えた。


「せめて場所を変えようよ。さっきから知り合いにも見られてるし、さすがにここは恥ずかしいよ」

近所なのだから知り合いが通りかかってもおかしくはない。先ほど何度も練習をしている姿を見られたが、リコの真剣さを見て誰も声をかけるものはいなかった。

「ここだからいいの。本番では高校のクラスメイトや同級生の多くに見られるんだから。周りに声の響き渡るこの公園は最高の練習場所なの」

そう言われればそうかもしれなかった。

ここで声を出せなければきっと本番でも声を出すことはできないだろう。


「それじゃあもう一度!」

リコは有無を言わせずに練習を再開した。

「あなたはトラじゃい、人だ。私は人と慣れ合うつもりはない」

朗々とした声が周囲に響き渡った。サトがセリフを続ける。

「私はトラだ。もう人間ではない」

さっきよりは大きい声が出た。サトの高い声が住宅街に響き渡る。

だが、響き渡ったのは狭い範囲だ。満足できるだけの声量は出てこなかった。

「それじゃあ駄目なの。もっとお腹の底から声を出して」

「そんなこと言われても……」

サトは配役を問題視していた。彼の高い声が役の雰囲気と合わないために自信を持って声を出せずにいたのだ。

とはいえ、今さら配役を変えるわけにもいかないので、そのことを口に出さない。


劇のストーリーはシリアスに過ぎた。

人がトラとなってしまい、ライオンに恋をしてしまう。そんなとんでもストーリーながら、話にコメディ要素は一切ない。トラも真剣な役であり、その声のイメージは厳かなものが似合うと思われる。

高い声しか出せないサトにトラの役が合っているとはとても思えず、そのミスマッチがサトにとっての気がかりであった。


「考えてだめなら経験を積むこと! さあ次いくよ次!」

リコの熱血指導は日が沈むまで続くこととなった。

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