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蘭ちゃんの隠し事

相変わらずサブタイまんまですね(笑)

 文武蘭には、幼馴染の七穂にも意図的に隠している秘密が一つだけあった。


 深夜の廃墟を物陰に隠れながら転々としながら、蘭はその事に小さな罪悪感を覚えていた。


 普段の小さな会社の事務要員という表の顔とは別に、もう一つ。

 ――『悪』と呼ばれる者たちの暗殺仕事。


 いつもの可愛らしい服装とはうって変わって、小柄な彼女に似合わない黒衣のぴっちりした衣装を全身に纏っている。


 七穂に言わない理由は、それが汚れ仕事であるということ。また彼女も絶対にそれを否定しない事が分かっているからだ。

 悲しげな顔をしながら、自分の仕事を肯定する。


 それを理解してしまっているから、無二の親友である七穂にも秘密にしてしまっていた。


 罪悪感。


 本当ならため息をしてしまいたいところだが、仕事中だ。それすらも命取りになりかねない。


 闇に紛れ、気配を消して歩いていると『悪の秘密結社』の残党らしき人物を見かけた。

 おそらく見回りだろう。

 銃を肩にかけて辺りを警戒するように歩いている。


 蘭は警戒しながら少しずつ、少しずつと近づいた。

 手の届く距離まで近づいたが、まだ気付かれてはいない。


 確実にしとめられる位置にまで接近すると、首元を狙って手刀を一閃。

 ぐらりと残党の体が揺らいだ。

 そのまま重力にしたがって地面に体を打ち付ける。


 うめき声一つ上げることなく相手は倒れた。


 気味の悪い静寂。

 蘭はその中にまた溶け込むように自分の影を隠す。


 見回りがいたという事は、近くに奴らの拠点がある。

 辺りを注意深く見回すと蘭の隠れている少し離れた地面に鉄の扉のようなものが不自然に置かれていた。


 足音を立てないように近づいて、扉を開けたとき自分の体が見えないようにゆっくりと扉を開ける。


「ビンゴぉ」


 思わず呟く。


 自分の探していた『悪の秘密結社』の仮拠点がそこにあった。

 中は相当広いうえに入り組んでいた。

 たった数日で廃墟の地下にこれだけのものを作り上げてしまう彼らの技術力には感嘆の意を思わず漏らしてしまうが、その事をもっと別のことに使えないものかと余計な雑念を抱えてしまう。


 しかし、それが蘭の油断だった。


 警報のアラームがうるさいほどに蘭の耳をつんざいた。


「やばぁ……」


 しかしここまで来て後戻りは出来なかった。

 覚悟を決めて一歩奥へと踏み出した。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「いたぞー! 追い詰めろー!」


 怪人たちの怒号の嵐が吹き荒れる。

 見つかってしまった。蘭は舌打ちの代わりに下唇をかんで己を嫌悪する。


 戦闘は避けられない、か。


 ただ唯一幸運だったのは、この場所が町からかなり離れている事だ。

 ちょっとやそっと爆音や銃声を立てたところで町までは聞こえないだろう。


「さぁ、追い詰めたぜ。観念しろやぁコラ!」


 後ろは壁。前は五体の怪人。


 蘭は拳を握り、型も何もなく構えを取る。


「うおぉぉおおぉお!」


 全身を鱗に覆われた魚人のような爬虫類とも見られる怪人が怒りをむき出しにして、雄たけびを上げながら持っていた鉄骨を振り下ろしてきた。


 対して蘭は、避けるでもなく、防御するわけでもなく、ただそれを頭に受けた。

 だがその鉄骨は怪人たちが想像したように彼女の頭を抉り取ることなく、がぁぁんと低い音を立ててその運動をやめた。


 眉一つ動かさない蘭。


「なんだてめぇ……ヒーローか?」


「答える義務はないよぉ」


 蘭は間延びした、けれどいつもと違って抑揚はない口調で言葉を紡ぐ。

 その足が、一歩踏み出された。


「ふぅっ」


 彼女の一呼吸とともに拳が突き出され、先ほどまで蘭の正面に立っていた怪人の腹を捉える。

 直後、ほかの怪人たちが目を見開いた。

 殴られた爬虫類のような怪人の腹がなくなり、その拳よりもふた周りほど大きい穴が背中まで貫通していたからだ。


 当然、絶命している。


「次は誰ぇ?」


 冷徹に、蘭は言った。


 その言葉に逆上したのか、残った四体の内三対が蘭に襲い掛かった。


 爪が、牙が、斧が。容赦なく蘭の体に叩きつけられる。

 けれどそのどれ一つも彼女の体を傷つける事は出来なかった。


 蘭はヒーローでこそなかったが、彼らと同じ力を持っていた。

 彼女の能力は、『硬化』と『重さ』。


 体を自由に固く、また重く出来た。

 その際限は、エネルギーに比例する。

 ただ非常にエネルギーの燃費はいいらしく、思えば思っただけ体を固くする事が出来たし、重くすることも出来た。

 暗殺の仕事以外のところではこの力の一切を使った事がなかったため、七穂もその事は知らない。


 自分の目的を、願いを。叶えるためだけにその力を惜しみなく利用する。


 蘭は全身を鋼鉄の数倍の強度にまで固めると、力いっぱい握り締めた拳の重さを徐々に上げていく。  ただの握りこぶしの大きさが鯨一頭を軽く超える質量を持ち、それを「ふぅっ」という一息とともに突き出して一撃ごとに一人の怪人をしとめていった。


 瞬く間に屍が積み重なる。

 怪人の一人を逃してしまったものの、ほか三体の怪人をすべて亡き者にしたのだ。


 そこには七穂と親しくする『日食』への八つ当たりのような感情も少なからずあった。

 けれど仕事と私情は別物だ。

 自分が倒した怪人たちのほうを向き直る。


 すでに物言わぬ姿となった彼らが守っていた背後には、訳の分からない機械やコンピューターが並んでいる。

 蘭は凶器と化した全身で闇雲にそれらをぶち壊す。


 すぐに使い物にならなくなった科学の結晶たちの瓦礫の山が築かれた。


「帰ろう……」


 えもいわれぬむなしさとともに、蘭はまた闇の中へと溶け込んだ。



 数話ぶりの戦闘シーン。

 あんまり盛り上がりません……

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