表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

ハレ時々クモリ

「昨夜、御空町にて『悪の秘密結社』の残党が目撃されました。警察では付近の住民に呼びかけるとともに専門家にも協力を伺い……」


 七穂は平日の昼間からボーっとテレビを眺める。

 御空町――七穂の住んでいる町だ。それなのに、近くに『悪の秘密結社』の残党と呼ばれる奴らが現れても何処となく人事のように感じてしまう。


 『日食』と出会って、『跳馬』との戦いをくぐり抜けて、感覚が麻痺してしまっているのだろうか。

 なんともいえない奇妙な感じである。


 七穂はソファーの上をいつの間にか自分の定位置にしている『日食』に話しかけた。


「ねー、ひーちゃんどう思う?」


「ん? 何がだ」


「ニュースだよ。最近この町に『悪のヒーロー』とか『秘密結社の残党』とか色々集まってるらしいから。どうしてみんなこの町に来るんだろう」


 『日食』は己の紅色の唇に人差し指を当てながら考えるように答えた。


「そうだな……『跳馬』のバカヤロウがこの前町を半分消しとばしただろ。だから、廃墟に新しいアジトとか作りやすいんじゃないかな。あと、瓦礫の中のものとかだったら多少なくなっても分からないし」


 つまりは、多くの『悪』と呼ばれる者たちが大量にこの町に集まってくる事になる。

 そういう奴らが徒党を組んで暴れだしたら、警察組織では太刀打ちできないのは目に見えてるし、本島に町が崩壊する恐れもある。

 七穂は少なからず不安を覚え、それを『日食』に告げた。


「ん、まぁ大丈夫だろ」


 あっけからんと、『日食』は笑顔のまま言い放った。


「そんな組織力のある奴らはとっくに見つからないような所にアジトを建ててるよ。どうせ集まるのなんか雑魚ばっかりさ」


 そうは言うけれど、彼女が雑魚と呼ぶ存在でもビルくらいは軽く壊す力はあるのだ。


「ひーちゃん、楽観視しすぎじゃない?」


「いざとなったらワタシが戦うさ」


 窓から差し込む太陽の光を浴びて彼女は輝き、微笑んだ。



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「やっほぉ七穂ちゃん! 遊びに来たよぉ~」


 午後三時。

 まったりと午後のティータイムを過ごそうとしていた七穂たちのところに、間延びした声が元気いっぱいの笑顔でやってきた。


 白いワンピースを纏ってたいして距離があるわけでもない狭い廊下を駆け抜ける。


 その姿を目で追いながら七穂は尋ねた。


「これからお茶にするところだけど、蘭ちゃん紅茶好きだったよね。なにがいい?」


「七穂ちゃんの入れてくれるお茶だったらおいしいから何でも好きだよぉ」


 居間を突き抜けて七穂の部屋のベッドに飛び込みながら蘭は答えた。


「砂糖少なめで、ミルクはいらなかったよね」


「さすがぁ。七穂ちゃんボクの好み分かってくれてるからだぁい好き」


 布団をもふもふ。


 いつものごとくソファーの上でごろごろしていた『日食』はまだ会って三日も経っていないこの嵐のような少女の襲来に驚きつつも、唐突に賑やかになった事で頬を緩ませる。

 もともと騒がしいのは好きなのだ。


「ねぇひーちゃん。なに食べたい?」


「ワタシは何でもいいぜ。あ、でもどうせなら甘いのが食べたい」


「わかった。ちょっと待ってて、何があるか見てみるから」


 そう言うと七穂はがさがさと戸棚を探り始めた。

 その様子を見ながら『日食』は瞼を閉じてうつらうつらし始める。


 初夏の日差しは暑くもなく、暖かい。

 窓から吹き込む風もさわやかで気持ちよかった。


 こっくりと、一回大きく櫂をこいだあとだった。

 のしかかるように、ソファの上の彼女の背後から蘭が腕を首に回すようにして抱きついてきた。


「『日食』さん。ご機嫌いかがですかぁ?」


 いきなりの問いに戸惑いながらも『日食』は半分寝ぼけた頭で考える。


「んあ? ああ。蘭はどうだ?」


「そーですねぇ、悪い人たちがこのあたりにいっぱいいるって聞いてるからボクちょっと不安ですよぉ」


 その言葉に、『日食』はピクリと眉間に眉を寄せた。

 経験上、次に来る言葉は決まっている。


「『日食』さん。ヒーローでしょぉ。倒しに行かないんですかぁ」


 それは『日食』の予想していた通りの言葉だった。


「まぁ、別にまだ何にも起きていないしな。急ぐ事でもないだろ」


「何かあってからじゃ遅いですよぉ」


「別にあいつら誰かを傷つけたり物壊したわけじゃないんだろ? 人の倫理を外れたような事やってるわけでもないし」


「それでも『日食』さんはヒーローですかぁ。 その言葉聞いたら七穂ちゃんきっとがっくりしちゃいますよぉ」


 それを聞いた『日食』は少しだけ悲しそうな顔をして。

 

「うん……こんなワタシじゃヒーローじゃないかもしれないな」


 俯く。

 けれどすぐに顔をあげ後ろにいる蘭の目をじっと見つめた。


「ワタシは……薄汚れた事をしてぶくぶくと私腹を肥やしている奴らまで守りたいとは思えないんだ。誰にでも平等、なんてそんな善人じゃねぇんだよ……」


 『日食』と蘭は互いに目を逸らすと、七穂がお茶準備を終えるまで一言も言葉を交わす事はなかった。



 新キャラの心情とか裏設定とか何処までオープンしていいのか結構悩みましたね……

 蘭ちゃん嫌われ役回り?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ