対ヒーロー
久々の連日更新です。
今度は少し開くかも。
戦況はどちらにおいても芳しくなかった。
「ちょっと『悟空』! 何をやっていますの。早くその雑魚どもを片付けなさい!」
「(・・・・・・・・・・・・んぅ)」
『龍姫』の言葉通り『悟空』は攻めきれずにいた。
手持ちの伸縮自在な如意棒で中近距離を問わず打撃を与えているのだが、そのすべては蘭の重い拳に阻まれて有効打にならない。
七穂を狙っても結果は同じ。
如意棒をはじかれた事による手の痺れに『悟空』は歯噛みする。
当初の予定であれば『悟空』が蘭と七穂の二人をすぐに始末し、三人がかりで『日食』を袋叩きにする予定だった。
一般人であるはずの蘭がヒーローの力を持っていたことが唯一の誤算。
本来ヒーローは先天的にその能力を持っている。
蘭のような後天的ヒーローの存在はバグのようなものだ。
蘭にしても七穂がいるため守りに集中せざるを得ない。
一般人の七穂からしてみれば、ヒーローの攻撃はかすっただけで致命傷になる。
故に七穂から離れられず攻めに転じることができなかった。
「ねーもう魔法撃つのあきた~」
愚痴をこぼす『魔女』。
現在彼女は『龍姫』と二人がかりで『日食』に遠距離攻撃を与えている。
『龍姫』は振ると衝撃波を発する扇子を掲げて乱舞している。
その少し後ろで『魔女』は手数の多い小魔法を連発している。
そのすべてを『日食』はいなしていた。
自分の後ろにいる蘭と七穂に飛んでいきそうな攻撃を選び自身の能力で打ち消している。
最強の名を冠したこともあるその動きには無駄ところなどひとつもなかった。
ただ、あまりにも手数が多すぎた。
後ろの二人のことを考えると、『龍姫』と『魔女』との接近戦を選ぶわけにも行かない。
その意味では、『魔女』の選択は正解だった。
下手に威力の高い中魔法を使用すれば、『日食』はすぐにでも接近戦に持ち込んでいただろう。
千日手。
ふと『日食』はそんな言葉を思い出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
七穂は不安を抱えながら戦いの行方を見守っていた。
今、『日食』が『龍姫』と『魔女』の二人を抑えていてくれている。
蘭は自分を守ることに専念してくれている。
二人とも、自分がいなければとっくに勝てているはずなのだ。
つまり自分はただの足手まといなのだ。
唐突に、鉄の棒でコンクリを殴りつけたような鈍い音が響く。
「くぅっ・・・・・・」
七穂の目に、蘭が体勢を崩したのが見えた。
「蘭ちゃん!」
七穂は叫ぶ。
「大丈夫だよぉ。ちょっと転びそうになっただけだから」
口調には少しの焦りこそ合ったものの、表情は何一つ変わっていなかった。
どうやら七穂に向けられた攻撃を変わりに受けて少しだけ体勢を崩しただけのようだ。
「(・・・・・・・・・・・・むぅ)」
だが『悟空』はここが好機といったばかりに攻め続ける。
如意棒による突きの連打が蘭を襲った。
けれども蘭は揺るがない。
いつの間にか『悟空』と向かい合うようにしてすべての連打を受けきっている。
ただ鈍い音だけが響く。
ふと攻撃の手が止まった。
「(・・・・・・・・・・・・ふぅ)」
連打を続けていた『悟空』のほうが息を切らして呼吸を整えている。
「きかないよぉ。ボクの能力は君なんかの攻撃じゃダメージないんだから」
蘭は高らかに宣言する。
「街なんてどうなったっていい。けど、七穂ちゃんだけは傷ひとつつけさせないよぉ。
ボクは、七穂ちゃんのヒーローだもん!」
いつもの間延びした口調が嘘のように、はっきりと聞こえる。
蘭がその小さな拳を胸に構えた。
『悟空』もまたそれに答えるように如意棒の先を蘭へと向けて構えを取る。
「(・・・・・・・・・・・・はぁ)」
先に動いたのは『悟空』だった。
如意棒が七穂の目には捉えきれない速度で伸びる。
蘭の下腹部への一直線の突き。
ミサイルよりも強力であろうその突きを、蘭は決してよけようとはしない。
全身に力をこめ、能力を最大限に使用して硬くなった身体で受ける。
がぁ・・・・・・ん。
自身の身体で受け止めた如意棒を蘭は左手で思いっきりつかんだ。
しかし『悟空』の攻撃はそこで終わらなかった。
掴まれた如意棒を利用。握ったままもてる最高速で縮める。
蘭との距離は一瞬でなくなった。
蘭の脳天へとその勢いを全身に乗せたかかと落としが直撃する。
「(・・・・・・・・・・・・!)」
ごきゅり。
耳を塞ぎたくなるような嫌な音。
そして静寂が場を包む。
「(・・・・・・・・・・・・!!!)」
『悟空』がその可愛らしい顔を苦痛にゆがめて、己の足を両手で押さえている。
全力の足技は、蘭の能力を突破できなかったのだ。
「いったいなにをやっていますの『悟空』!」
苛立ちを含んだ『龍姫』の金切り声が聞こえる。
「あはは。『悟空』バカぢゃないの」
仲間に対して嘲るように笑う『魔女』。
そしてふぅとため息をつくと。
「あ~あ、飽きたなぁ・・・・・・。もともとこの城を後から奪っちゃえばいいやと思ってこの作戦に参加したけど、鈍いしかわいくないから、もういらないや」
めんどくさくなってきた。
そう呟くと。
「もう、終わっちゃえ」
彼女の周りに何か黒いものが渦巻き始めた。
それは『嫌な感じ』としか言い表しようのないもので、七穂の背筋が凍り、膝もがくがくと震え始める。
『日食』のほうへと目を向けると、冷や汗が頬を伝っている。
「ちょっと『魔女』! いったいそれは何なんですの!?」
焦燥に駆られる『龍姫』の声。
「あはは。裏の黒魔法の第十二番。『名無しの終末』だよ。
みーんな無くなっちゃえ」
直後、『魔女』を止めようと腕の届く距離まで接近した『龍姫』が文字通りに。
消滅した。
一つ前の話でタイトルを
『あなたはだあれ?』にしようとしたら
『あなた肌荒れ?』に変換されたのでやめました。




