七穂
珍しく多めに書いたと思ったら一回全部消えちゃいました。
上書きしてなかったのがいけないんですけど・・・・・・
勢いでもう一回書いたので、方向が微妙に逸れた気がします・・・・・・
血に溢れたデパートの最上階にもっとも近い階の一角。
七穂は自らを抱きしめる小さな蘭の腕の中で、彼女の告白を淡々と聞いていた。
震えながら話す彼女は、その言葉から連想される一流の暗殺者とは思えないほど遠く、彼女の持っているという能力も暖かく柔らかい身体からは一片も感じられなかった。
そして、蘭しか知らなかった二人の詳しい過去。
おそらく七穂にとっては残酷で彼女の優しかった両親の思い出をぶち壊す過去。
幼いころの七穂は『悪の秘密結社』の頭である両親の愛情を一身に受けて育っていた。七穂の隣には秘密結社の幹部の娘だった蘭もいて、何一つとして不自由も不満もない楽しい毎日。
その裏で、ついさっき目の前で起きていたことよりももっと凄惨なことが行われていたかと思うと、やるせなさと切なさが肩にずっしりとのしかかる。
両親が自分のことを裏切っていたとは思わない。
ただ自身が知らなかっただけ。幼いころは知ろうとすらしなかった。
自己嫌悪。怒りすら沸いて来る。
「七穂ちゃん。ボクね・・・・・・」
すべてを話し終えて、七穂を腕の中に抱いたまま蘭は語りだした。
「ヒーローが嫌いだったんだ。『正義』も『悪』も。
だってほら、お父さんとお母さんを殺したやつらだもん。好きになれるわけないよぉ。
ホントは『日食』って人も嫌い。いきなり現れて、ボクの大好きな七穂ちゃんを取ってった」
いつもの間延びした口調がどこか刺々しく、けれども悲しげに。
「でもね、お父さんもお母さんも嫌いだったんだ。ボクのことなんて何にも気にしてくれない。
いっつも悪いことをしてばっかりで、おまけにそのことをボクに隠そうともしなかった。
そのうちに、ボクにも悪いことをさせようとし始めた。
でも、そのころの七穂ちゃんは何にも知らなくって、もちろんボク達の親が本当は悪い人だったってことも。
いつか七穂ちゃんが大きくなって、ボクが悪いことしてたって知ったら絶対悲しむと思った。
だから、だからボクは親に抗ったんだ。抗うために強くなったのに・・・・・・」
気づいたら、七穂を抱いていた蘭も泣き出し始めて。
「なのに・・・・・・なんでボクは七穂ちゃんに秘密にしないといけない様な事してたのかなぁ」
嗚咽を漏らしてよがるように泣いている蘭を、今度は七穂がぎゅうぅっと抱きしめ返した。
何も言えない。
何も言わない。
自分は無知で、非力で。親友にすら、守られて生きてきた。
なのに彼女を苦しめて、慰めてあげることすらできない。
「泣いてても、何もはじまんねぇぞ」
ここ数日で、すっかり耳になじんだ声。
七穂が顔を上げると、そこに整端な顔立ちの女性がプラチナブロンドの髪を携えて。
悠然と、仁王立ちをしていた。
「ひーちゃん・・・・・・」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「悪いけど、ほとんど全部聞いたよ」
さらりと『日食』はぶっちゃける。
「ひーちゃん、アタシのこと嫌いになった?」
その言葉を聞いて『日食』は腰を下ろして目線を下げると、ばちん! と中指で強く七穂のおでこを弾いた。
「そう思うか?」
「・・・・・・ううん。よかった」
「ん」
彼女は多くを語らずに、ただ微笑む。
そして今度は目線を少しだけ横にずらす。
「なぁ蘭」
びくり。
蘭の肩が一瞬震えた。
「別に七穂もお前も何にも悪いことしてないんだろ? だったら、過去なんて気にするな。
せっかく力があるんだ。
怪人を倒してきたことを後悔してるんだったら、倒さなければいい。
それだって大好きな幼馴染くらい、守れるだろ」
蘭は何も答えずに、ただただ『日食』の言葉に耳を貸していた。
「ワタシはこれから例の『計画』とやらをぶっ潰しにいく。
やつら、この世界を人がろくに住めないような世界にするつもりだ。
だから、何が起きても大丈夫なようにここで七穂を守ってやってくれ」
「やだ」
答えたのは蘭ではなく、七穂。
その目は睨むように『日食』をまっすぐと捕らえている。
「独りで行くとか、馬鹿じゃないの。ひーちゃん一人じゃ、すぐにエネルギー無くなってやられちゃうじゃん」
「駄目だ。危険すぎる」
「そんなところに一人で行こうとしてるのは誰よ」
口論になる二人。
そんな中、俯いて無口だった蘭がふと口を開いた。
「・・・・・・ボクが、どんなことがあっても七穂ちゃんを守るから。だから、一緒につれてってよぉ」
懇願とも違う、搾り出すような声。
七穂は驚いて蘭を見る。
が、すぐに『日食』のことを見つめた。
「・・・・・・蘭はそれでいいのか?」
「ボクは・・・・・・ボクは七穂ちゃんの、七穂ちゃんだけの『ヒーロー』になりたかったんだよ。
でも、七穂ちゃんは自分のことより、ボクのことより、『日食』さんの事を大事にしたいと思ってるもん。
『日食』さんなんてどうなったっていいけど、七穂ちゃんだけは絶対にボクが守るよぉ」
「そっちのほうが、頼もしいよ」
苦笑い。
しかし、すぐに七穂を向き直って。
「死んだら、恋人ごっこも終わりだからな」
「大丈夫でしょ。二人も、アタシを守ってくれる人がいるから」
七穂はそう言うと、ちょっとだけ拗ねたような顔をする。
「ごっこは、今日までね」
「・・・・・・ごっこは、今日までか」
どちらの意味で『日食』が受け取ったか七穂には分からない。
けれど自分も行くと決めた以上、絶対に帰ってくると、心に誓った。
次回、まじめにバトル(予定)です。




