お出かけのハプニング
七穂を挟み込むようにして『日食』と蘭の三人は歩く。
七穂は一週間分の買い物。主に食料。一人増えても作る手間は案外変わらなかったのだけれど、食料の消費が早いのだ。
蘭は服や小物などの日用雑貨。あと、洗剤が安いから買いだめしておきたいと言っていた。
『日食』は二人の荷物もち。
天気がよかったので、「今日は久しぶりに外に出てみるかぁ」などと半ニート的な発言をしていたところを七穂と蘭に仲良く拉致られた。
七穂の家から見て、商店街と反対方向にあるデパート。
その入り口で、七穂は一人ふと足を止めた。
「あ……お財布忘れちゃった」
「マジか。どうする? いったん戻るか?」
意外にも歩く事を面倒くさがらない『日食』が七穂と蘭を交互に見やる。
「別に帰らなくたっていいよ。少しくらいならボク、奢るよぉ」
「え、助かるけどそれじゃあ蘭ちゃんに悪いからせめて貸しにしてよ」
「そんな事ないよぉ。実は昨日ちょっとしたお仕事したら結構もらえたんだぁ」
「でも……」
「気にしないでよ。ボクもよく七穂ちゃんの家でご飯一緒してるんだからぁ」
「う~ん。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
「そのかわり、今日の夕ご飯は七穂ちゃんのコロッケ食べたいなぁ……」
「うん、いいよ。今日の夕飯のおかずはコロッケね」
「ありがと。ボク嬉しいなぁ」
満面の笑みを浮かべて蘭は七穂の空いている左腕に抱きついた。
柔らかい体が、七穂の腕を優しく圧迫する。
「あ、でも食料品は結構な荷物になっちゃうから後にしてもらってもいい?」
「そうだね。じゃあ先に蘭ちゃんの買い物見て回ろうか」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「っつーか買いすぎだろお前ら」
『日食』が愚痴を言いながら片手でもてるいっぱいまで荷物の入った袋を抱えていた。
「そーかな?」
「こんなもんだよぉ」
七穂と蘭の二人は意にも介さぬように今度は服を見て回っている。
本当のところ、『日食』は女子二人の買い物を甘く見ていた。
小物だけでこれだけの量になるのだったら、衣類や食料品まで買ったらどれだけの量になるのだろうか。
想像するだけで、背筋が凍る。
「この服どうかな」
そう言うと七穂は白いワンピースを自分の前面に合わせる。
「似合うよぉ。七穂ちゃん、着てみてよ。絶対すっごく可愛いから」
「そお? あ、この紅いブラウスひーちゃんに似合いそうじゃない?」
「ワタシはなんだっていいよ。これ以上荷物が増えるのも大変だしな」
「ちょっとボク、これ買ってくるね。七穂ちゃん達ちょっと待ってて」
ピンク色の水玉模様の入ったフードつきの白いパーカーを片手に、蘭はレジへと早足で駆けていく。
気に入ったものはその場で買う。後になって公開はしたくない。
よく蘭がそんな事を言っていたなと七穂はまた洋服を見始める。
鼻歌交じりに、一着一着と可愛い服がないか端ヶまで目を通す。
唐突に、『日食』が空いている方の片手で七穂の肩を掴んだ。
「なんか嫌な感じがする。気をつけたほうがいいかもしれない」
「嫌な感じって……また『悪のヒーロー』? 唐突にビルとか壊されちゃったらどうしようもないじゃない」
「そんな大きいものは感じないんだけど、ちょっと警戒しといたほうがいいかもな」
「大きくないってどういうこと?」
「まぁ怪人レベルの雑魚かな。でも戦闘能力は人の何十倍もあるから、七穂だって襲われたらひとたまりもないぞ」
「ひーちゃんがいるもん。大丈夫でしょ」
「どーだか」
刹那、彼女の予感は現実のものとなる。
「てめぇ昨日の! 死ねぇぇぇぇぇ!」
ひび割れたような叫び声が、フロア一帯に反響した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
七穂と『日食』は声のした方を振り向いた。
目をやったそこには蘭が、そしてその後ろに彼女を追うようにして蛸とも似つかないような怪人が走っている。
「うわぁぁぁぁん」
泣き叫ぶ蘭の声。
蛸のような怪人が触手とも取れる手を槍のようにして蘭を突こうと高速で伸びた。
金属を叩いたような鈍い音がする。
「てめぇ邪魔だ!」
蛸怪人の下卑た声。
『日食』が己の持っていた荷物を盾代わりに、蘭と蛸怪人の間に入り込んでいた。
袋には穴が開いて、中に入ってたと思われるガラスで出来た大量の小物がそこから零れ落ちて高い音を立てる。
その中のいくつかは原型が残らないほどに砕けており、蛸怪人の触手が危険性の高いものだと伺える。
「蘭ちゃん大丈夫?」
慌てて七穂が駆け寄って、息を切らした蘭をなだめる。
「大丈夫ですぅ……それより『日食』さん大丈夫ですかぁ? 相手は怪人ですよぉ」
ちっ。と蘭は舌打ちしながら憎々しげに怪人を見つめた。
昨夜取り逃がしてしまった怪人なのだ。ちゃんと追って仕留めておけばよかったと後悔する。
「大丈夫。ひーちゃんあれでもヒーローだから」
幸い七穂に舌打ちは聞こえていなかったようで、安心した表情のまま『日食』を見つめている。
「お前ら、ここが何処だか分かってんのか?」
何回目かの触手を『日食』に打ち払われたところで、苛立だしげな声をして蛸怪人が三人に話しかけた。
「このデパートはな、すでに俺らが乗っ取って資金集めの場にしてんだ。つまりどういうことか分かるか?」
「わからん。もったいぶってないで早く言えよ。酢で漬けられたいのか?」
空気を読まない『日食』が蛸怪人をにらみつけながら脅しのような文句を唱える。
「つまりだ。このデパートの従業員はすべて俺ら秘密結社(仮)の怪人たちなんだよ」
その言葉と同時にデパートのいたるところから悲鳴が上がった。
最近かなり忙しいです。
書き上げ→更新 のスタイルでいこうと思います。




