伊吹の思春期
(【朗報】美少女二人とずっと一緒!【勝ち確】)
前世では二十九歳で死亡し、この世界へと転生した伊吹。
現在の年齢十二歳に前世の年齢を加算すると、現在四十一歳となる。
美哉と橘香は十四歳。身体付きは女性としての完成一歩手前を迎えようとしている。
食事を共にするのは何ら不思議ではないが、入浴と就寝についても変わらず一緒だとは思ってもみなかった伊吹。
そして生活に支障が出始めた。
そう、十二歳の身体にもなると、色々と処理が必要になるのである。
「今日は一人でお風呂に入ろうかなぁ」
「何で?」
「どうして?」
「私の事嫌いになった?」
「何か怒ってるの?」
「しんどいの?」
「ベッドで膝枕する?」
「なでなでしてあげようか?」
「おっぱい揉む?」
伊吹が一人になろうとすると、すかさず美哉と橘香に責め立てられ、こっそり自己処理する時間すら与えられない。
(【悲報】寝ても醒めても一人になれない【生殺し】)
精神年齢から考えると、伊吹は美哉と橘香くらいの娘がいてもおかしくない。しかも二人は二歳の頃からずっと一緒に暮らしている家族だ。
性的な目で見る事に後ろめたさを感じると共に、その背徳感がさらに伊吹の衝動を掻き立てる。
前世の姉達とは違い、美哉と橘香とは血の繋がりはない。二人の様子を窺うに、手を出しても受け入れられる可能性は高い。
しかし、万が一拒否されたとしたらと考えると、伊吹は今後どんな顔をして暮らしていけば良いのかと考え、悩んでしまう。
考えれば考えるほど青い衝動に駆られる。そしてその衝動を発散する場所はない。
(寝てる時にちょっと触るくらいならバレない説)
夜、寝室にて。
思い悩んだ伊吹は、二人の身体に触れてみる事から始めようと思い立った。
たったのは思いだけではないが。
伊吹は二人の寝息が聞こえてくると、寝返りを打ってみて、二人の反応を見る。
「う~~~ん」
わざとらしく寝言らしき声を発する伊吹。
キングサイズの広いベッドだが、伊吹を中心として身体を密着させて寝るのが三人の普段の寝方だ。
(本当に寝たのか? 眠りは浅くないか? 勘付かれていないか!?)
伊吹が急がず、慎重に様子を見ていると、寝室の扉が音もなく開いていくのに気付き、咄嗟に目を閉じる。
屋敷の警備体制からして泥棒とは考えにくい。となると、伊吹が思い当たるのは三人だけだ。
薄目を開けてみると、わずかに開いた扉の向こうに自分の祖母(心乃春)と美哉の母親(美子)と橘香の母親(京香)の顔が見えた。
(怖い怖い怖い!! 何をしてるんだ!?
まさか毎晩様子を見られていた?
エッチな事をしていたら止める為に?
いやそれなら何で未だに寝室が一緒なのか理解出来ない。
逆か?
手を出しているかどうか確認する為か?)
覗かれているのに気付いている事だけは知られたくないと思い、伊吹は扉に背を向けて寝返りを打つ。
ふぅ……、と小さくため息を吐いて再び目を開けると、橘香と目が合った。
(……!?)
橘香は伊吹に対して優しく微笑むと、伊吹の頭を抱えて自らの胸元へ誘い、そしてゆっくりと背中を撫でた。
(おっ……、柔らかけぇ……)
橘香は寝ぼけているのか、はっきりと覚醒しているのか。伊吹には判断出来ないままじっとしていると、気付けば眠ってしまっていた。
次の朝、伊吹はとっても懐かしい不快感と共に目を覚ます。夢精したのだ。
その日の夕食は赤飯が出た。
夢精した日以降も一緒に寝てくれるならイケるんじゃないの。
一緒に風呂に入ってるならイケるんじゃないの。
そう思う伊吹だが、それで行動に移せるのなら前世で童貞のまま死ぬ事はなかっただろう。
自分が性に目覚めている事は気付かれている。その上で美哉も橘香も見せてくる。
さぁ見ろと、さぁ触れろと近付いて来るのだ。
そこまでされたら童貞は委縮してしまう。童貞とはとても繊細な生き物なのだ。
伊吹の日常に再び変化が訪れた。今回はとても大きな変化であり、伊吹に途轍もない影響を与えた。
美哉と橘香が中学を卒業し、屋敷を出て行ったのである。
「立派な侍女になって帰って来るから」
「いっちゃんの為に頑張ってくるね」
もちろん家出した訳ではない。東京にある国立侍女育成専門学校へ進学したのだ。通常であれば六年で卒業予定と伊吹は聞いている。
それ以来、二人とは年末年始の帰省時期でしか顔を合わせる事が出来なくなってしまった。
いつまでもそばにいると思っていた二人。
いつでも卒業出来ると思っていた童貞。
しかし、内心ほっとしているのも事実だ。
自分が手を出してしまうと、今までの関係にヒビが入るかも知れない。
万が一にもあり得ない、三人の絆はそんなに脆くない。
そう思うものの、じゃあキスをするのはどちらが先か。ベッドインはどちらが先か。童貞はどっちで捨てる?
普通であれば考える必要のない様々な事情に縛られて身動きが出来なかった、と伊吹は自分を納得させる。
美哉と橘香が家を出た後、さも当然であるかのように心乃春と美子と京香が入浴の世話をしようとして来たので、伊吹は全力で断った。
「男の子を一人で入浴なんてさせられないんだよ?」
(男の子だからこそ一人で入らせてくれ!)
何とか説得しようと試みる三人だったが、伊吹が拒否して一週間風呂に入らなかった為に泣く泣く折れた。
それと引き換えであるかのように、伊吹の寝室へ心乃春のベッドが運び込まれた。
美哉と橘香がいなくても、伊吹は変わらず武術の稽古と続けた。
空手であれ柔道であれ、極めようとするとどうしても体格が筋肉質になっていく。
伊吹個人としては男らし身体つきになると達成感やある種の憧れを満たす事が出来て嬉しいのだが、男らしい身体になればなるほど厄介事が増えてしまう。
遠目でも男だと分かってしまうと、何があるか分からない。危険は出来るだけ避けたいと言われたので、ある程度の稽古に留める事となった。
伊吹としては、前世の知識がある為に、この世界の娯楽では満足が出来ない。その分稽古に打ち込んでいたところもあるので、少し鬱憤が溜まってしまう。
「少し稽古内容を変えようか」
そこで、心乃春は外見に影響する筋肉ではなく、体幹やインナーマッスルを中心に鍛えるよう指導内容を変更した。いわゆる細マッチョを目指す形である。
しかし、やり過ぎれば服の上からでも身体つきが分かってしまう。その対策として、伊吹は全身マッサージを受ける事が日課となった。
筋肉がつき過ぎないように、との理由で行われる毎晩のマッサージだが、伊吹には結構な精神的負担が伴う。
理由は、マッサージの施術をしてくれるのが美子と京香だからだ。
屋敷内のマッサージ用の薄暗い部屋で、癒し効果があるお香を焚いて、肌に良く馴染む美容液で全身隈なく揉みほぐされる。
美哉と橘香の母親とはいえ、二人ともまだ三十代半ば。前世享年二十九歳である伊吹からすれば全然アリ、アリアリのアリなのだ。
全然アリの美女が、二人掛かりでオイルマッサージをしてくれる。ご存じの通り、もうこれはヤバいのである。
最初は素数を数えたり宇宙の神秘について考えたり、何とか気を逸らそうと頑張っていた伊吹であるが、若い身体は敏感なのでものすごい反応を示してしまう。
そして何故か二人はそれに一切触れない。(触らないと言及しない、のダブルミーニング)
伊吹は我慢する事を諦め、マッサージを受ける前には必ずお風呂場でゆっくり過ごし、二回から三回の入念な事前マッサージを行うようになった。




