安産と子授け祈願
後ほどよろしくお願い致しますと言った通り、摩耶は夕食を終えた後に伊吹が休んでいる部屋へと訪ねて来た。
そして夜を共にした訳だが、摩耶が特別扱いではなくいつも通りの夜のお勤めを希望したので、智紗世や同行していた紫乃、式部姉妹を交えた後、朝を迎えた。
「マチルダに会わせたのは時期尚早だったかな……」
摩耶に普段の伊吹の夜のお勤めについて話す人物など、マチルダ以外には考えられない。
予想以上に早く仲良くなっている事と、マチルダが何を思って摩耶にそのような助言をしているのかという事。
その他気になる点はあるが、摩耶個人として問題に思っていないのであれば、今の所は様子見で良いかと伊吹は結論を出した。
「ご主人様、朝食の前にシャワーを浴びに参りましょう」
「お供致します」
未だに目覚めぬ摩耶を置いて、伊吹が智紗世と紫乃に促されてベッドを出ようとすると、摩耶が伊吹の腕を取った。
「目が覚めた? 今からシャワーを浴びに行くけど、摩耶も来る?」
ぼんやりとしたままの表情で摩耶が頷いたので、伊吹が手を貸してやりながら浴室まで連れて行った。
「まさか朝からお勤めされるとは思っておりませんでした……」
頭が回らぬまま浴室へと着いて行き、そのまま浴室内でも励む事となった摩耶。
自らの望む事ではあるが、こうも立て続けに機会が訪れるなど思ってもみなかったので、戸惑いを隠せないでいる。
現在は朝食を終えた後のお茶の時間だ。
「辛かったら言ってね。割と体力使うから」
「いえ、我が国としては機会が多ければ多いほどありがたい事ですので」
摩耶はそう言いつつも、疲労が顔に浮かんで見える。
伊吹はそんな摩耶に苦笑を見せる。
「国の為にと思う気持ちは分かるけど、僕としてはあくまで摩耶がどうしたいと思ってるのかの方が重要だからね。
今はちょっと気分じゃないとか、身体が辛いから後が良いとか、思ってる事を言ってくれた方が僕は嬉しいよ。
行為自体が好きじゃないって人もいるだろうしね」
「……嫌いではありません」
摩耶の答えを聞いて、伊吹がニヤリとわざとらしく嫌らしい笑みを浮かべると、摩耶はまた顔を真っ赤に染めるのだった。
今日の本来の予定は東京へと帰るだけだったのだが、日本とアルティアンの協議の結果、とある神社への訪問が差し込まれた。
「わら天神?」
「はい。正式名称は敷地神社と言うそうですが、京都市内ではわら天神という呼び方の方が通っているようです」
二人を乗せた車はすでに京都御苑を出発し、わら天神へと向かっている。
「金閣寺でも北野天満宮でも三十三間堂でもなく、そのわら天神ってところに行く重要な意味があるって事?」
伊吹はもちろん、摩耶もこの神社にわざわざ訪れる意味がまだ分かっていない。
智紗世がさらに詳しい説明をする。
「はい。お二人が揃ってわら天神へお参りされるのには、非常に重要な意味がございます。
わら天神の御祭神は木花開耶姫命であり、安産と子授けの神様であらせられます」
「……つまり、僕と摩耶が揃ってお参りする事で、すでに関係を結んでいると世界へ公表する形になる、と」
両国間の友好関係を示すのに、これ以上ない形となる。
このお参りを提案したのは日本側であり、アルティアン側はすぐさまその案を受け入れた。
あまりに日本側が譲歩、と言うよりアルティアン側が得をし過ぎているような気のする伊吹であるが、さすがに摩耶の前では口にはしない。
「えっと、伊吹様は私と関係を持っていると世界に知られても、問題ないのですか?」
「僕個人としては全く問題ないよ。だから摩耶も堂々としてれば良いからね」
摩耶が心配したのは、伊吹が摩耶と関係を結んだ事を世界中に知られる事で、精神的に負担を感じるのではないかという点である。
二人はどのようにして身体を重ねたのか、などと下衆な想像をされるであろうと考える事で、伊吹が不能になる可能性があるのではという心配だ。
「あー、安産祈願の神社なら、藍子達も来れたら良かったなぁ」
「えっと、藍子様はもしかして……?」
摩耶は伊吹の第一夫人である藍子が社交の場に顔を見せていない事に気付いていたが、その理由についてはあえて触れていなかった。
「藍子は妊娠してるんだよ。僕の奥さんで妊娠中なのは四人だね。
全員に安産祈願の祈祷をしてもらえれば良かったんだけど、ここに来る方が大変だから仕方ないか」
何ともなしに言い放った伊吹の言葉に、摩耶は衝撃を受ける。
たった一人の相手を妊娠させるのも大変な世界において、妊娠中の妻が四人同時に存在する事などそうそうないのだ。
「ご主人様、安産祈願の御守りや帯などを授かって、皆様にお渡しするのはいかがでしょうか?」
「あぁ、それはいいね。
智紗世と紫乃と教子さんと司さんも子授けの祈祷受けようよ」
摩耶はさらに衝撃を受ける。
まさか執事や秘書達の妊娠祈願を、男性が勧めるなど思ってもみなかったからだ。
「ありがとうございます。
さすがに摩耶殿下とご一緒する訳には参りませんので、後ほどお時間を頂きたく」
「そうだね、じゃあ僕は二回受けるとしようか」
自分が関係を持っている女性の為に、わざわざ同じ祈祷を二回受けるという気遣いを見せた伊吹に、アルティアン王国を背負う王族の一員としてではなく、一人の女性として摩耶はどんどんと引き込まれていっている。
「これほどのお方ならば、きっと……」




