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【百万PV感謝!】転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第二十六章:大喜利合宿と大会開催準備

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落語の収集

 伊吹とマチルダとメアリーが手を合わせて頂きますをする。他のボックス席にも続々と伊吹の妻や関係者達が座り、それぞれが食事を始める。

 妊娠中の美哉(みや)橘香(きっか)智枝(ともえ)、そして妊娠の可能性がある藍子(あいこ)は生ものは避け、レーンに流れている皿の中から火の通ったものだけ取るようにしている。


「そんなところに立ってないで、ここに座りなよ」


「お館様、しかし……」


 回転寿司の企画進行を任されていた(みどり)がメモ帳を開きながら、回転寿司で食事した経験のある伊吹とマチルダの様子を窺っていたのだが、伊吹に声を掛けられて同じボックス席へと座った。


「さすがにサーモンやら軍艦のハンバーグは出て来んよな」


 そう言いながら、レーンに流れるハマチを手にするマチルダ。

 翠がすかさずメモ帳を開くが、後で反省会をするから今は食べる事を楽しもうと伊吹に止められた。


「マチルダもあんまり大きな声で言わないで。板前さん達が戸惑うから」


 伊吹がマチルダを諫める。

 伊吹から指示を受けた翠から板前達に、食べるネタの順番などはバラバラで、とにかくレーンを埋めるよう握ってほしいと事前に依頼しているので、マグロやイカや鯛、鰻や穴子や玉子などが六皿ずつ流れている。

 ちゃんと一皿につき二貫ずつ乗せられているのも大事な点だ。


「ほひひぃ~~~」


「本当に恥ずかしいから止めて……」


 メアリーもマチルダの言動に気が気でないようだ。

 日本での生活も長くなり、周りが転生者を含めて日本人だらけなので、メアリーも恥じらいや察しや思いやりなど、日本独特の習慣が身についてきている。


「ずずずっ」


 伊吹が熱いお茶を音を立てて飲んでも、メアリーは気にならなくなっていた。


「何と言ったか、あの青い粉があれば始められる。

 おい定吉、ちょっと行って青い粉を買ってこい」


「何だ? 突然」


 お茶を飲んでいた伊吹に対し、マチルダが小芝居を始めたのだが、伊吹は何がしたいのか分からず素直にマチルダへ聞いた。


「何や、イブイブは落語知らんのか」


「落語? 知らないな、寿限無なら知ってるけど。

 寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン」


「……あくまで寿限無を口にしているだけやからセーフなはず」


 ノリノリな伊吹を今度はマチルダが諫める。


「殿下……、ではなく副社長は、お若いのに寿限無をご存じなんですなぁ」


 伊吹のボックス席担当として付いている、一番年季の入った板前が話し掛けて来た。

 この場では殿下と呼ばない方が喜ばれると秘書達から聞いていたので、副社長呼びだ。


「えぇ、江戸時代に流行した落語の一つですよね?

 今でも落語を受け継いでおられるお方とかご存知ないでしょうか?」


 伊吹自身が落語に詳しい訳ではないので、あまり積極的に情報収集をしていなかった。

 寿司の板前という特殊な職業ならば、落語家や噺家として活動を続ける人物に心当たりがあるかと思い聞いてみた伊吹だが、どうやら不発だったようだ。


「いいえ、昔はそんな見世物があった、と聞いた事がある程度です。

 今言いなすった寿限無に関しては、小さい頃の寝物語に母や祖母から聞かされた程度でしてねぇ。

 お役に立てず、すまねぇです」


 世界人口激減の余波で、当時流行していた娯楽などの文化を継承する人物が亡くなり、文化に触れていた人々も娯楽を楽しむ余裕などない状況であった為、落語を生業として続いている一門は現存していないようだ。


「いえいえ、とんでもない」


 謝る年季の入った板前に頭を上げるよう言って、伊吹はレーンからいくらの軍艦巻きを取る。


「寝物語で聞いた人がこうしてここにおるって事は、他の落語も民間伝承的な感じで受け継がれてるんとちゃう?

 それを集めて芸に昇華させたら落語を復活させられるかもよ?」


「……、なるほど」


 軍艦を飲み込んでから、伊吹が答える。

 しかし問題点にすぐ思い至り、マチルダへ問い質す。


「でもその寝物語が本当に落語かどうか、僕には判断のしようがないよ。落語をフルで最後まで聞いた事なんてないもの。

 タイトルを思い出せるのだって芝浜とか死神とか、あと富くじ? 当たった当たったって叫ぶ以外中身ほとんど覚えてないよ」


「いや、うちかてはっきり覚えてる訳やないけど、他にも色々やるで。

 饅頭怖いも落語やし、目黒のさんまもあるやん。あと赤めだか」


 マチルダが落語の演目を挙げていくと、伊吹もあぁそんな話あったなぁと思い出していくのだが、やはり肝心の中身を思い出せない。

 ちなみに赤めだかは落語の演目ではなく、有名な落語家のエッセイ本のタイトルだ。


「そうそう、番町皿屋敷っていう怪談を落語にしたバージョンもあったはずやで。

 確かなぁ、お岩さんが井戸から出て来てお皿を十枚数えるのを見えると呪われるんやけど、八枚目くらいで逃げれば大丈夫やて言うて街中の娯楽になんねん。

 で、ある日お岩さんを見物する人だかりが出来たせいで逃げ遅れる人がいたんやけど、その日はお岩さんが十一枚、十二枚て数え続けんねん。

 気になった見物客が何で皿がそない多いねんて聞いたら、ちょっと風邪気味やし休みたいから明日の分も今数えてるねんっていうオチやったはず」


「嬢ちゃん、詳しいねぇ。

 ちなみにお岩さんじゃなくてお菊さんだよ。お岩さんは四谷怪談さね」


 年季の入った板前がマチルダへ指摘する。


「あー、お菊さんやったっけ。おおきにおおきに」


 板前にお礼を言いながら、マチルダはレーンから中トロのお皿を取る。


「別に前世の落語通りにせなアカン訳ちゃうやん。

 漫才かて、ただ二人が話してておもろかったらええやんて言うてたとこやで?

 話の最後がオチたらそれでええんとちゃうやろか」


 伊吹が落語と聞いて頭に浮かんでいたのはあくまで古典落語であり、マチルダが言うように最後にオチがあれば落語であると言えなくもない。

 衣装や小道具を極力使わず、身振り手振りで一人何役を演じ分けてお話を進め、話しての上手さと聞き手の想像力で世界が広がっていけば、それは落語なのである。


「知らんけど」


「知らんのかーい」


 伊吹とマチルダのやり取りを見て、メアリーは結局漫才なんじゃないかと心の中でツッコミを入れた。

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