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【百万PV感謝!】転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第二十四章:伊吹教

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新人職員研修前半戦

 (しょう)ノ塔、パーティー会場にて、新人職員研修が行われている。

 会場内に畳が敷かれ、新たに採用された女性達が思い思いの格好で座布団の座っている。

 全体で百名ほど。三割が外国人であり、椅子ではなく畳に座るという姿勢に難儀しているのが分かる。


「姿勢は悪くても問題ありません。背筋が伸びているから評価が高くなる、などという事はありません。

 どうか、楽な姿勢で研修を受けて下さい」


 宮坂家出身の先輩職員が、檀上で新人研修生達へ呼び掛けている。

 これから行う研修は、立ったままや椅子に座った状態では危険なのである。


「今から皆さんに心拍計を取り付けさせて頂きます。

 これはあくまで基準であり、規定の数値を上回ろうが下回ろうが、それ自体は問題ではありません。

 気を付ける事は、絶えず深呼吸を続ける事。

 叫び声を上げない事。

 取り乱さない事。

 そして、意識を保ち続ける事。

 良いですか?」


 この場に集められた人材は、様々な分野の専門家だ。

 プログラマーであったり、事務職員であったり、営業職員であったり、言語学者であったり、演劇作家であったり、様々の分野から幅広い人材が、VividColorsヴィヴィッドカラーズという巨大企業群への入社を希望して幾度も面接を受け、VividColorsグループ内のいずれかの会社へと入社を果たした。

 そして現在、入社後初の全体新人研修を受けている。


 先輩職員が研修生達の手首に心拍計を巻き付けていく。全ての端末が無線で監視されており、全員の心拍数が把握されている。


「事前にお手洗いを済ませるよう連絡しておきましたが、皆さん大丈夫ですか?

 今であればまだ行ってもらって構いません。

 これも評価対象になりませんので、今のうちに済ませておく事を強くお勧めします」


 先輩職員達の中から何名かが率先してトイレへと駆けて行った。

 これは研修生達が行きやすいようにという気遣いではなく、これから行われる事を知っているからこその行動だ。

 研修生達はそれにつられ、先輩職員が行くならば、と後に続いてトイレへと向かった。



「さて、では研修を始めます。

 まず最初に私から研修講師として皆さんに一つ、課題を出します。


 決して声を出してはならない。


 良いですか? 理解出来たら頷いて下さい。質問はなしです。

 この研修を辞退するのならば今のうちに申し出て下さい」


 研修生達の表情に動揺が走る。が、誰も口にはしない。

 今ある情報で、研修を辞退するかどうかを判断し得るほどの何かがあっただろうか?

 畳の上に腰を下ろして受ける研修。手首には心拍計。

 そして、決して声を出してはならないという課題。

 勘付いた何人かの研修生が、頬を紅潮させて所在なさげに身体をクネクネと動かす。

 それを見た研修生達が、一体何が行われるのだとさらに動揺し、会場全体に緊張が広がる。


「それでは研修を始めます。

 副社長、お願い致します!!」


 パーティー会場、研修生達の背中側の扉が開かれ、生配信時の和装姿、ドット絵のお面を着けた副社長が入ってきた。


 声を出すなと言われている研修生達は目を見開き、口も大きく開けてしまうが手で覆い、副社長を見つめている。

 日本人の研修生の中には、座ったままでは失礼にあたると感じ、立ち上がろうとするが、先輩職員達に座るよう促されて腰を下ろしている。

 そうこうしているうちに、副社長は研修生達が座っている畳のそばまでやって来て、気さくに話し掛ける。


「やぁ、皆さんご苦労様。

 新人研修だって? 大変だね、私が入社した時にはなかったんですけどねぇ」

 

 左手薬指には結婚指輪が嵌められており、声は副社長そのもの。話し声は間違いなくドット絵のお面の向こう側から聞こえてくる。

 ご本人に間違いない、と確信した研修生は言葉をぐっと飲み込み、口を閉じたまま副社長を見つめる。


「喋っちゃいけないんでしたか。何か寂しいですねぇ、相槌くらいしてくれても良くないですか?

 例えばさ、私が『良い天気ですね』って言ったら、皆で一斉に『そうですね』って返してくれるとか、どうですか?」


 新人研修生だけでなく、先輩職員達も含めて誰も副社長へ返事をしない。


「うわぁ、傷付くなぁ。

 もしかして皆、私の事ってあんまり好きじゃなかったりします?」


 副社長の背中が丸められ、自信なさ気な声色で独白する。

 新人研修生達がぶるぶると首を横へ振り、そんな事はないと態度で示す。


「私の事が好きな人を手を挙げて!」


 会場内にいる全ての女性が一斉に手を挙げる。


「私の事が好きな人は手を叩いて!」


 会場内にいる全ての女性が一斉に拍手する。


「いいですねぇ、良い感じです。

 さて、手を叩く拍子を教えますので、真似して下さいね」


 副社長が頭の上でパン・パパン・パパン・パン・パンのリズムで手を叩く。


「はい!」


 会場内の女性達が言われた通りに同じリズムで手を叩く。


「おー、全員で揃うととても気持ち良いですね。

 この調子で続けてみましょうか。

 せぇのっ!」


 パン・パパン・パパン・パン・パン!!


「俺の事が好きな奴は手ぇ叩け!」


 パン・パパン・パパン・パン・パン!!


「生配信好きな奴は手ぇ叩け!」


 パン・パパン・パパン・パン・パン!!


「月明かりの使者好きな奴は手ぇ叩け!」


 パン・パパン・パパン・パン・パン!!


「『僕の全て』好きな奴は手ぇ叩け!」


 パン・パパン・パパン・パン・パン!!


「よし皆で歌おう! せぇーの!」


「「「「この目ぇ この口ぃ♪」」」」


「はい、今歌った七人。思い出して下さい、声を出してはならないと言いましたよね?」


 百人ほどいる中で、副社長の誘いに乗って歌い出してしまった新人研修生は七人。

 その七人に対して、先輩職員が研修内容を改めて述べる。


「この研修は、副社長を前にしても冷静な精神状態でいられるよう鍛える事。そして、慣れる事が目的です。

 副社長はあの手この手で皆さんを喋らせよう、歌わせよう、興奮させようとして来られます。

 その全てに対して冷静に、心穏やかにしていて下さい。

 例え、副社長に手を握られて愛を囁かれても、それは研修の為の嘘に他なりません。


 良いですか? 決して声を出してはなりません!!」


 新人研修生達はようやくこの天国でいて地獄のような研修内容に気付いたのだった。


「七人か、少ないなぁ。ちょっと自信なくなっちゃったよ……」


 落ち込んだ振りをする副社長を見つめて、歯を食いしばる研修生達。研修はまだまだ始まったばかり……。

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