伊吹親王妃藍子・伊吹親王妃燈子
「伊吹様にはちょーっと顔を出してもらうだけで良いんだけどねぇ。
決して腰を振ってやってくれと言ってる訳じゃないんだよ?」
「おば様、そういう問題ではありません。
伊吹が顔を出す為にどれだけの警察官の方や宮坂警備保障の人間が動くかお分かりでしょう?
伊吹は人が良いからはいはいと返事するかも知れませんが、裏では関わる全員に気を遣っているんです。
いらぬ心労を掛けたくありません」
VividColors本社ビル、治ノ塔、社長室。
応接セットで向かい合って座る藍子と福乃が言い合っている。
「じゃあ翔ノ塔のパーティー会場を貸しておくれよ。
それなら大層な事にはならないだろう?」
「来賓を藍吹伊通り一丁目へ入れるのにどれだけの警備確認が必要かご存知でしょう?
それに、これは私にあえて無理を言って、どう断るかの予行演習なのではないですか?」
「何だい、気付いてたのかい」
はぁ、と藍子がため息を吐く。
「おば様にしてはどうでも良い程度の催しを、大事な話があるだなんて。最初からおかしいと思っていましたよ。
まぁ、予行演習に付き合って頂いて、ありがたいとは思いますが」
「そうだろうそうだろう。
それにしても、きっぱり断れるようになったもんだね。
所属Vtunerに逃げられて困って泣いてた社長さんが、大きくなったもんだ。
これも伊吹様のお蔭だねぇ」
福乃が藍子を見ながら声を上げて笑う。
「それはもう、ここ半年で色んな経験をしましたからね。
……伊吹の妻としてしっかりしていないと、いつ第一夫人の席を引き摺り下ろされるか分かりませんし」
「そんな事をする奴は私が何とかしてやるさ。
まぁ、その心意気は大事だけどね」
福乃から見て、藍子は顔つきから態度から話し方まで、小さい変化ではあるが確実に変化している。
立場が人を作ると言うように、伊吹の妻としての自覚と覚悟が藍子を成長させているのだ。
第一夫人となって目標達成とするのではなく、ここからが始まりなのだという心意気で、先へ先へと進む伊吹の背中を守る。
藍子は見事に妻としての役割を果たしている。
「あー疲れた、ただいまぁ……」
「何だい全く。
そんな気の抜けた事では藍子に置いていかれちまうよ?」
「やだぁおば様、いらしてたのね。オホホ」
だらけた表情でソファーへと座り込む燈子。
大学での講義を終えると、真っ先に社長室へと向かうのが最近の習慣となっている。
「どうしたんだい?
そんな疲れた顔をして」
「えー、おば様聞いて下さる?
大学へ行くだけなのに侍女さんと皇宮警察のお巡りさんと宮坂警備保障の警備員さんと一緒でしょう?
講義を受けてると、私は座ってるだけなのに教授がビクビクするし、准教授はペコペコするし、今までの友達とは距離が開いちゃって、けど話した事もない友達が一杯増えて、もうホンット疲れるの」
燈子は美大に通っているまま、三ノ宮伊吹親王へと輿入れした。
伊吹は今まで通り大学に通い、卒業してほしいと話しているが、燈子としてはなかなかに気苦労が多い。
「なるほどねぇ、まぁ贅沢な悩みだね」
「うん、分かってるんだけどねぇ」
燈子としては、伊吹が暮らしていた前世の世界を語る際、出来るだけ伊吹の脳内イメージに近いイラストを紙に描き表わせるようにしたいと思っている。
もちろんマチルダがいるので、その役割が燈子でなくとも良いのだが、燈子は藍子の妹だから自分も娶ってもらったという風には思いたくないのだ。
燈子は燈子として、伊吹の隣に立つ理由を明確に持っていたい。
だから、大学には通い続けるし、卒業もするつもりだ。
「友達は大事だけど、今はいっくんの妻仲間がいるし、これからも増えていくだろうし。
あーちゃんを支えて、いっくんを支えて、おば様みたいに家を守れるよう頑張らないとね」
「言うのは簡単だけどね、続ける事が大事だよ。
まぁ、藍子の前くらいならだらけても問題ないか」
「別にいっくんの前でだらけても怒られないんだけどね、甘えてばっかりだとダメだから」
藍子が二人のやり取りを見て、苦笑いを浮かべている。
福乃が宮坂家中でこんな話をする事などなかったからだ。
「おば様はすっかり三ノ宮家顧問って感じになりましたね。
お父様が嫉妬するのも分かります」
「えぇ? 賢一さんがいつ嫉妬したってのさ」
藍子と燈子が結婚の儀前後の話を福乃に聞かせると、それを聞いた福乃が珍しく頬を染めて恥ずかしがっていた。




