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転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界を制覇する!  作者: なつのさんち
第三章:Vtunerデビューの準備

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逃避行の終わり

「……僕の事情を、ご存じなんですか?」


 福乃は伊吹の質問に対し、大きく頷いてみせた。


「男性様が一人で新幹線に乗って東京で観光するなんて、今日貴方とすれ違った女全員が想像もしなかったでしょうね。

 よくもまぁ無事だったもんだ。」



 祖母がなくなり、屋敷が襲撃されるという非日常の最中、伊吹は何とか己を保とうとしていたのかも知れない。

 生まれ変わりという非現実的な経験をしている伊吹にとって、まるで物語の主人公になったかのような感覚だったのだろう。


 前世では当たり前に一人で外を出歩き、一人でラーメン屋に入って食事をしていた伊吹は、今世で初めてラーメンを食べた事で前世の感覚に引っ張られてしまい、スライディング土下座をかました藍子(あいこ)に着いて行ってしまったのである。


 伊吹は今さらながら、屋敷に残して来た侍女達は無事なのかどうか心配になる。


「それで、美子(よしこ)さんと京香(きょうか)さんは無事なんでしょうか?」


「ええ。二人は今、新幹線でこちらへ向かっているそうです」


 福乃にそう言われ、伊吹はスマートフォンを確認するが、充電がなくなり電源が切れてしまっていた。


(俺は一体何をやっていたんだろう……)


 自分で自分が理解出来ない。

 自分を逃がしてくれた侍女の安否を気にもせず、ラーメン屋に入り、女性と喫茶店でお茶をして、Vtuner(ブイチューナー)としてデビューする前提で話を進めている。


 貯金が七億?

 会社の株の四十九パーセントを買いたい?


 その前にやるべき事があるだろうに。



 ある種の現実逃避状態だった伊吹。

 三ノ宮伊吹となる前の、ただの男だった頃を思い出し、自然体で過ごしていた。

 だが、福乃から美子と京香が無事だと告げられて、ようやく現実へと引き戻された。



 自分の行動を振り返り、茫然としている伊吹を眺めながら、福乃が右手でインカムを押さえて呟く。


「……どうやらお迎えが来たみたいだね」


コンコンコンガチャッ


 素早いノックの音と同時に開かれる玄関の扉。

 振り返った伊吹の目に入ったのは、紺色の侍女服に身を包む、茶色いゆるふわの髪の毛の女性と、黒髪ストレートの女性。

 見慣れた幼馴染み達の姿だ。


「……みぃねぇ? きぃねぇ?」


 ゆらりと立ち上がり、伊吹はフラフラとした足取りで二人に近付いて行く。

 そんな伊吹を二人は左右から同時に抱き締める。


「バカ!」

「心配したんだから!」


「ごめん、僕、おばあ様が……!

 それで、屋敷が、襲われて、美子さんと、京香さんが……」


 込み上げる様々な感情を抑え切れない伊吹。二人は掛けた言葉とは裏腹に、伊吹の頭と背中を優しく撫でている。


「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 心の中で行き場のなかった、祖母を亡くした悲しみや置いて行かれた寂しさ、自分を襲う理不尽に対する怒りなどが止めどなく溢れ出て、伊吹はただただ声を上げて泣く事しか出来なくなってしまう。


 そんな幼子のような伊吹を、美哉と橘香はこの世界から隠すかのように包み込んでいた。

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