即時対応
ライル達はしばらく藍吹伊通り一丁目のゲート付近でわちゃわちゃと内輪揉めをしていた。
藍吹伊通りのゲートをくぐらせてもらえなかったお付き達は、VividColorsとの交渉がどうなったのか理解出来ていない。
車を用意しろだの藍吹伊通り内の施設に泊めろだのわめいているお付き達を、ライルの執事が何とか諫めようとしていた。
ライルは顔を真っ青にしたままブツブツと何か呟いているようだ、と宮坂警備保障の警備員から報告が上がっている。
報道陣に囲まれて英語や日本語で質問責めに合っている中、何とかタクシーを手配してライルの集団がどこかへ去って行った。
正月休みは明けたとはいえ、あれだけの人数の宿泊場所を手配するのは大変だろうな、と伊吹は笑った。
どれだけ大変な目に合おうが知った事ではないのだ。
なお、国内でライル達が過激な安藤子猫に襲撃を受ける可能性も否定出来ない為、伊吹は警察庁に依頼してそれとなく警備をつけてもらっている。
マスコミの多くがライル達の後を追ったので、藍吹伊通り一丁目に黒塗りの車が続々と入って行くのに気付くのに時間が掛かった。
これはまだ何か起きるぞ。
ようやく気付いた者達がそれぞれの会社へ報告し、各社からVividColorsの広報部へ問い合わせをする。
が、すでにYoungNatterの呟きが原因で世界中から事実確認の問い合わせや激励の言葉などが殺到しており、回線が繋がらない状態になっていた。
「YoungNatterの呟きに対する返信やDMで、マスコミ各社が記者会見を開いてほしいって要望が来てるよ」
遅い昼食を終えて、藍子が伊吹へスマートフォンの画面を見せる。
今までVividColorsは、マスコミに頼らずに自分達の発信力のみで発言してきた。
その為、記者会見風の生配信をした事はあっても、実際に記者を集めての本格的な記者会見は開いてこなかった。
「うーん、それについては対Alphadeal参謀本部が揃ってから確認しようか。
会見を開くにしても、事前に宮坂グループ内のマスコミと打ち合わせして協力してもらった方がいいし」
マスコミとは絶対正義ではなく、特定の誰かの声を大きく届けるお仕事である、と伊吹は考えている。
ジャーナリズムだけで飯が食える人間がどれだけいるのか分からないが、結局は収益を得なければ活動出来ない時点で、絶対正義を名乗るのは非常に難しい。
「お呼び立てしておいて待たせても申し訳ないし、そろそろ大会議室へ行こうか」
立場的には内閣総理大臣を待たせても誰も文句を言わないが、伊吹が気になってしまうので早々に向かう事になった。
「皆さん、お集り頂きましてありがとうございます」
大会議室へ着いた伊吹に対して礼をする女性達の前に立ち、伊吹が頭を下げようとして止められる。
止めたのは内閣府事務次官だ。
「殿下。どうか私達には頭を下げず、命じるのみに願います。
殿下が頭を下げられるのであれば、私達は土下座をしなければなりません」
伊吹は大勢の官僚達を目の前にして緊張していたが、この小粋なジョークによりやや気持ちが楽になった。
「ありがとう、少し気が楽になりました。
では、とりあえず現在の状況説明をさせて下さい」
伊吹は事の発端である、振込遅延騒動から説明していく。
VividColorsが開設した安藤家の四兄弟チャンネルで得た収益がGoolGoalからの入金予定日に振り込まれなかった事。
その事について生配信で話したら、GoolGoalから指示を受けたYourTunes代理人が今すぐ発言を取り下げろと強要して来た事。
その代理人にVividColorsは手続きに何の手違いもないと認めさせたところ、その代理人がGoolGoalから解任された事。
GoolGoal幹部がVividColorsの登録手続きが正しく完了されていなかった為であると確認が取れたと呟いた事。
VividColorsはGoolGoal幹部の呟きに反応し、生配信を行ってYourTunesの収益化申請の完了通知メールを受け取っている事実と、完全に落ち度がない事を当時のGoolGoal側代理人に確認させた事を公表した。
登録手続きが正しく完了されていなかった為であるとしたGoolGoal幹部の発表は不可解であると発言した事。
この生配信を受けてGoolGoal幹部がYourTunes公式アカウントから生配信を行い、VividColorsに落ち度があるとしたYoungNatterの呟きを正式に取り下げた事。
しかし収益支払いが遅延した原因などは現在調査中であるとして、その後何の連絡も発表もなかった事。
YourTunesが信頼出来ないとして、独自サービスである「なぎなみ動画」のサービス開始をしたところ、Alphadealの最高経営責任者とGoolGoalの代表取締役社長がVividColorsへ訪ねて来た事。
そして、GoolGoal社長が伊吹を口汚く罵った事と、彼女の夫であるAlphadealの最高経営責任者はそれを止めなかった事。
伊吹が淡々と事情を説明する間、大会議室の空気は徐々に熱を帯びていった。
途中まではこの場にいる皆が承知の事実であったが、ライルとサラの行いについては初耳となる。
我が国の皇族を、しかもあの今を時めくVividColors副社長を罵倒したとなれば、皇国女性はじっとしてなどいられない。
「さらに、個人的に一番許せない事が起こりました。
ライルが、Alphadealの最高経営責任者が僕の妻の一人にぶつかり、転倒させたんです。
彼女はお腹に私の子供を宿しています。
お腹をかばって床に蹲っている彼女にライルは手を差し伸べず、心配する言葉も謝罪さえも口にしなかった。
Alphadealは二の次で良い。
俺は……、私はライルを潰す。
皆さん、力を貸してほしい」
大会議室の温度が急激に上がり、皆が手を挙げて伊吹に対し、発言の許可を求める。
伊吹はまず、内閣府事務次官を指名する。
「先方は自家用機で日本へ来ております。
手始めに法務省へ出国手続きを遅らせるよう指示し、国土交通省へ飛行計画書の不備を理由に時間を稼ぐよう指示を出します。
また、飛行機に整備不良がないかを徹底的に調べさせ……」
大日本皇国の全力をもってライルを追い詰めていく計画が練られて行く。
参加者は皆、目を見開いて伊吹の命令を遂行すべく発言する。
計画の規模が大きくなっていくにつれ、大会議室の室温がガンガンと上がっていく。
それに反比例するように、伊吹の頭は冷静さを取り戻していった。
(えっと、これ何かヤバくね?)
伊吹は少しだけ後悔し始めていた。




