内閣閣僚
智枝はすぐに、伊吹達が待つ談話室へと戻って来た。
「へ……、おじい様。もうすでに皆さまお集まりとの事です」
「そうか、伊織は?」
「すぐに向かわれる、と伺っております」
うん、と伊澄が頷き、京子へ行ってくると伝え、立ち上がる。
「伊吹、付いてきなさい」
「えっと、はい」
どこに行くのか、誰に会うのか分からぬまま、伊吹はそう答えて立ち上がる。
「藍子ちゃんと燈子ちゃんは私のお話に付き合ってくれるかしら?」
「「は、はいっ!!」」
伊吹は藍子と燈子に対して小さく頷いてみせ、京子へと向き直る。
「妻達をよろしくお願いします」
「えぇ、行ってらっしゃい」
智枝が長い廊下を右へ左へと進んで行く。
伊吹は伊澄の横を歩いている。
「おじい様。それで、今から僕は誰と会うのか、教えて頂けませんか?」
「あぁ、言ってなかったね。
年始の挨拶に内閣閣僚が来ているから、顔を見せるだけだよ」
何て事のないように言う伊澄だが、伊吹は勘弁してくれよと思った。
この世界の政治家は、当然の事ながら全て女性だ。
もちろん男性にも被選挙権が与えられてはいるが、それは形だけであり、立候補する者も、立候補させようとする者もいない。
前世で政治家と関わるような生活をしていなかったので、どのような顔をして会えば良いのかと考える伊吹だが、今の今まで皇王皇后両陛下と一緒にお茶をしていたのだから、今さら政治家の一人や二人で緊張する方がおかしいだろうと思い直した。
そもそも自分は皇族なのだから、人と会うというだけの事で緊張すべきではない。むしろ向こうが緊張するべきなのだ。
(いや無理だろ吐きそう)
そう思おうとする伊吹だが、そう簡単に切り替えられる訳がない。
「何だ、そんな不安そうな顔をして。
本当に安藤治を演じている副社長なのか?」
「おじい様、それとこれとは訳が違うのですよ……。
ってか良く見てくれてるんですね」
「全部は見れんが、切り抜きというのは良いな」
などと祖父との会話を楽しみつつ、伊吹は大広間へと到着した。
すでに伊吹の父である伊織が和装の艶やかな訪問着を纏った女性達と談笑をしている。
皇王である伊澄の到着に、一同が起立して頭を下げる。
そして、代表して内閣総理大臣である女性が新年の挨拶を述べる。
「明けましておめでとう。
今年もこの国の為、国民の為に尽力願う」
皇王が目礼した後、伊織へと視線を投げる。
伊織が伊吹に手招きをし、伊吹の肩に手を置いて皆に紹介する。
「皆もすでに知っている事と思うが、私の息子の伊吹だ」
「伊吹です」
それ以上何と言えば良いか分からず、伊吹は一旦口を閉じる。
すると、内閣の閣僚達が伊吹に対し、結婚した事に対しての祝辞を述べた。
「ありがとうございます」
礼を言う伊吹の前に、跪いて発言を求める女性が二人。男性保護大臣と総務大臣だ。
伊織が二人に対して発言を許すと、先の屋敷襲撃事件に対しての謝罪であった。
男性保護大臣は前任者が引責辞任しており、総務大臣は管轄の警察庁長官が同じく引責辞任している。
今後はこのような事がないように、と省庁を代表して述べる二人に対し、伊吹はお願いします、と返すに留める。
式部姉妹に儀礼関係の教育を受け始めたばかりだが、伊吹はもっと勉強しておけば良かったと後悔している。
「伊吹が事業に携わっている事は皆も承知かと思うが、他国と衝突する可能性があるようでな。
宮坂が上手くやっておるようだが、伊吹が思うように動ける為に、皆の力を借りたい」
皇王・皇族が政治や経済に口を出してはならない、などという条約も憲法も法律も、この世界には存在しない。
皇王は国の最高主権者であり、この国のゆく末を決める事が出来る。
「説明なさい」
そんなこの国一番の権力者に促され、伊吹が口を開く。
「四日後に、アメリカからGoolGoalの責任者、そして恐らくAlphadealの責任者がVividColorsへ来社予定です。
どのような話し合いになるかはまだ分かりませんが、国内におけるYourTunesのサービス利用に制限を課す事を交渉材料として持ち出して、何かしらの要求をしてくるのではないかと予想しています」
こちらの言う事を聞かないと琵琶湖の水を止めるぞ、と滋賀県民がよく持ち出す交渉内容だ。
しかし琵琶湖の水を止めてしまうと滋賀県は琵琶湖の底に沈んでしまう。
Alphadealも日本におけるサービスを停止してしまうと、それなりに損害が出てしまうので、普通であればそんな交渉はしてこないと思われるが。
しかし、今までのやり方が稚拙なだけに、何をして来るかが読めないのだ。
「GoolGoalのサービスに対する代替サービスはある程度用意が進んでいます。
しかし、国内企業が損害を被る可能性は皆無とは言い切れません。
僕の、いや私達の決断によって、皇国全体に支障が出るかも知れません。
内閣の皆さんに、ご助力を賜る事が出来ればありがたいのですが……」
そこまで言って、伊吹は口を閉ざす。
自分の始めた争いで関係のない人が被害を受け、その後始末や保障を政治家に任せるなんて事が許されるのだろうかと伊吹は考える。
「殿下。
ただお命じ下さい。やれ、と」
内閣総理大臣がそう言って微笑む。
彼女は伊吹がVividColorsの副社長として活躍し、どれだけ国に好影響を与えているかよく知っている。
多少の被害が出ようと、国全体で考えれば十分に利益が確保出来るのであれば問題はないのだ。
何より、この国でもっとも高貴なる男性の下した命に従う事こそ、政治家の誉れ。
この場にいる女性達、皆の総意である。
「やれ、とは言わない。
共に立ち向かい、敵となるものを打ち倒すぞ。力を貸してくれ」
「お任せ下さい」
内閣総理大臣、以下閣僚全ての女性が跪き、伊澄、伊織、伊吹へと頭を垂れた。




