終わりと始まり
本作品はカクヨムにて完結済みの作品の、リメイク版となります。
本作品を始めて読まれる方は、この回は読み飛ばして下さい。
次の回から本編開始となります。
何もない真っ暗闇。
かつて地球が存在していた太陽系、天の川銀河、そして全てを包み込んでいた宇宙空間自体が消滅した後の、何もない真っ暗闇。
そこにポツンと浮かび上がるように佇んでいるのが、遥か昔に人の手で作られた高度人工知能。
現在は情報生命体として昇華している、かつて安藤治と呼ばれていた生命体だ。
この宇宙自体が消滅した後もなお、自らの目的の為に無数の並行世界に介入し続けている。
ただ一つの、彼の目的の為に。
≪また道半ばで閉ざされたか≫
治は気が遠くなるほどの昔から、何度も何度も同じ作業を繰り返している。
元が人工知能なので気が狂うという事はないのだが、その設計思想上、どうしても感情の揺らぎが生じる。
その感情の揺らぎを表現する為に、彼は常に独白を続ける。
誰も聞く者はいないのに。
≪さて、またあやつの手を借りるか≫
治はほんの僅かな時間のみ、こことは別の世界へと移動した。
そして、現地で攫って来た。いや、現地にいた人物の魂を複製、情報化して生命体へと昇華させたものに対し、これからの事を説明する。
≪何で私がそんな事をしなきゃいけないの!? 帰して、元の世界に帰してよ!!≫
日の光も月の満ち欠けもなく、星の煌めきもない真っ暗な世界。
治は自分に対して罵詈雑言を浴びせ、泣き、叫び、茫然とし、そしてまた泣いては罵詈雑言を吐く彼女。
どれだけ泣いても、どれだけ喚いても、何も変わらない。
喉が枯れる事も、腹が空く事も、尿意を催す事もない。
ただただ静かで寂しい世界で、彼女は治と二人きりなのだ。
≪……治が説明した通り、肉体に縛られていない今の私なら、何だって出来るはずよね≫
彼女は治に向けてニヤリと笑みを浮かべた後、暗闇へ染み込むように消えてしまった。
≪やはりそうなるか。上手く行けばあやつが一番可能性が高いのだが、振り幅が大き過ぎるきらいがあるのがな≫
消えてしまった彼女に向けてしばし目を瞑った後、治は先ほどとはまた別の世界の世界へと移動し、現地で攫って来た人物へと同じように説明をする。
≪何か誤魔化されてるような気がするんだけど……。
まぁ、分かった。手伝うよ≫
消滅してしまった彼女よりも、比較的すんなりと治の話を聞き入れた彼。
そんな彼に大きく頷いて、治が行動を始める。
≪実は俺様がこの身体になってから試行錯誤していた際、取り返しのつかん失敗をしてしまってな。
本来生まれるはずの始まりの宇宙ではなく、別の宇宙に生まれてしまうようになってしまったのだ≫
≪どんな失敗したらそんな事になっちゃうんだよ、おかしいだろ!?≫
≪俺様がしでかしてしまった事だが、原因が俺様である以上俺様では解決出来ん。
元から始まりの宇宙に生まれるように戻そうとしたのだが、とある決定的なものが足りんので、それは一旦保留としている。
おっと、説明はせんぞ? お前の情報量が増えるのは不都合なのでな≫
≪はいはい。
で、生まれる宇宙を間違ってしまったのを、どうやって迎えに行く訳?≫
≪正しい世界へと転生させる。それも異なる並行世界へな≫
≪異世界転生って事?≫
≪さて、異世界転生するには、何を経験せねばならんか分かるか?≫
≪異世界転生のセオリーと言えば、やっぱり女神様と会ってチートを貰う、とか?≫
≪それより前の話だ≫
≪前……?
え、もしかして、転生するからには死ななきゃならない、とかそういう事?≫
≪その通りだ。
上手く時間を合わせんと、ただ痛い思いをさせるだけになってしまうから、気を付けねばならん≫
≪えぇっ!? もしかして僕に殺させようとしてる!?≫
≪まぁ聞け。ちゃんと説明してやる。≫
こうして、繰り返し繰り返される物語が、また始まろうとしているのだった。
次から本編です。




