些細な差異
10分待ってみた。
本来なら5分で終わる用事だったけど。
戻ってこなかったから。
あと5分待ってみようと思った。
だから合計10分待ってみた。
でも、戻ってこなかった。
結局戻ってこなかった。
だから、喧嘩になった。
彼氏と。
アイス買ってくるだけって言ってたじゃん。
なんで、余計な物まで買ってきてるの?
意味が分からない。
始まりはそんな些細な喧嘩だった。
これくらいいいよな?
というラインと、
これはダメでしょというラインが合わなくなった
人からみたら些細な事だったかもしれないけれど。
私達にとって、その差異は致命的だった。
10分だけ早かった。
彼氏と待ち合わせをしていた。
私は時間ぴったりに待ち合わせ場所に行ったけど、彼氏は私より10分早くついていた。
事前に早くこないように言っていたのに。
デートが待ち遠しかったから、早めに来ちゃいました、なんて嬉しくない。
重いし、相手に悪いと思ってしまうし、気を使ってしまいそうだったから。
でも、彼氏は良かれと思って、10分だけ早く来てしまった。
私達は喧嘩になった。
人から思えばこれも些細な事だっただろう。
けれど、私達にとってその差異は大きすぎた。
この時点でもう、私達の関係は長く続かないだろうことは、なんとなく察していた。
お互いに相手と合わないなと感じていたと思う。
それでも、まだ、ほんの少しだけ、私達が恋人関係であった時間は続いた。
泣いている子供が目の前にいて「10分だけ待っていてねってママが言ってた」とぐずぐず鼻を鳴らしている。
私も彼氏も喧嘩している場合ではなかった。
その日か別れ話をする予定だったけど。
そのために、喫茶店に集まる予定だったけど。
それで、いつも通り早く来た彼氏の姿を見て喧嘩になりかけたけど、本当に喧嘩している場合ではなかった。
子供が置き去りにされていたから。
「ママは本当に10分だけ待っていてねって言ったの?」
私は確認のために、ぐずぐず鼻を鳴らしてる子供に聞いた。
「母ちゃんは、何か別の事言っていなかったか?」
彼氏も涙をボロボロこぼす子供に色々聞いていた。
けれど、子供は泣くばかりで、会話にはならなかった。
私も彼氏も困った。
子供は結局警察に保護してもらった。
母親は戻ってこなかったらしい。
けれど、子供を置き去りにしてから5分くらいは、現場をうろうろしていたらしい。
近所の住人が証言していた。
子供はもし、置き去りにされた直後に母親を探して歩きまわっていたら、何か変わったのだろうか。
他人でしかない私達には分からない事だったけれど。
10分。
たったそれだけの時間が、人の人生を狂わせる。
時間を気にする現代の人間を振り回す。
私と彼氏は結局別れた。
でも、私はほんの少し時間にルーズになって、彼氏はほんの少し時間にしっかりになった。
お互いに時間に振り回されるばかりの人生なんて、歩みたくなかったからだ。
そのためなら多少は、時間という人によって違うものとは、なんとか折り合いをつけて付き合っていくしかない。
そう結論付けたのが、10分に振り回された私と彼氏の、短い恋人期間だった。




