諸行無常
「下賤なる者よ」
「左様なる見下す其方等が許せぬなり」
月の王の緑に光る直刀と、帝の紅く光る太刀が切り結ばるる。
「魔道に堕ちたるを恥と思うべし」
「姫の為なり。
魔道に堕ちようと、邪法を用いようと一向に構わぬなり」
「其方等下賤が撃ち放ちし、ほの蒼く光し石の爆ぜる物、あれは禍根となる物なり。
道を識らず力のみを求める者は、必ず滅ぶ。
己が力により、悔やむものなり」
「其は力有る者の傲慢なり。
力無き者な、まず力を得ねば、久遠に力有る者の下に置かれようぞ」
「我等が導いてやらんと欲す」
「其を拒む故、朕は此処に在り」
「何を語りても、無駄ならんや」
月の王は光る闘気、帝は暗黒闘気を放ち合う。
ようよう、月の王の力、勝りし。
「己が弱さを識りたりや?
なれば、道を誤りた事を悔いて、黄泉路に向かうが良い」
激しき力比べに勝りし月の王、帝に近づきて刀を突きつける。
引導を渡される時、迫りたるや?
帝、おもむろに月の王の目に唾を吹く。
意表を突かれし月の王、目を覆て固まる。
帝、月の王の肘を極めると、足を絡めて押し倒し、その喉元に己が肘を突き刺す。
「卑劣なり。
そこまでして勝ちたしや?」
月の王、苦しげに罵る。
「卑劣に非ず。
朕の祖より受け継いだ、一子相伝の業なり。
法力や剣技のみ鍛え、身体を鍛える事を疎かにした月の民の誤りにあらんや?」
「よくぞ申す……」
月の王、血を吐きつつ呪言を宣う。
「昨年放たれた凄まじき光、
竹に込められた蒼き光、
淺ましき勝ちに拘りし心、
法力や気力と申す理外の力、
いずれも其方等には過ぎた力なり。
余、全て封じんと欲す。
此の地にて汝等を見守りし民の、最後の務めなり」
月の王、事切れる。
月国の都、鳴動す。
月国の都に在りて、書物庫に辿り着きて書を紐解く真田の四郎、此の世の真理を読み解けり。
「我等が使いし法力、如来菩薩の力、暗黒闘気等、過ぎたる力と申すは真実なり。
宇宙の均衡を崩し、全てを無に帰す事あらん。
我、知らざる内に禁断の業を使いたり……」
四郎愕然とす。
其れら力は封印し、使い熟せる時を待つべし。
然れど、難しき事なり。
本朝、此の力を識る。
即ち、再び使う事必至。
「我、国に帰らざるべし。
我が知、葬るべし」
月の都にて、乱取り、火付、陵辱、鏖殺を行いし坂東武士も鳴動を聞く。
姫君を御自ら連れる帝、皆は都の外に駆ける。
然れども、見えぬ壁、再び立ちはだかる。
四郎、月の御所より、如何なるカラクリか、外周に在る者たちにも声が届く物にて語り掛ける。
「月の民滅した後、この都は自ら火を噴き滅ぶ。
我等を道連れにせんと欲す。
故に我、この場所にて見えざる壁を解くなり。
皆は壁消えし後、疾く走り、鳥船を目指し候え。
我が身の事、捨て置くべし」
四郎、此で良しと自らに言い聞かす。
四郎、見えぬ壁を消す。
此処からで無ければ消せぬ仕組みなり。
皆、着陸して待ちたる天鳥船に乗る。
鳥船、月を発す。
間一髪なり。
月の都、火を噴き滅ぶ。
然れども、その火、月の上に留まると形を成す。
炎が固まり、三つ首の龍、現れり。
其の龍、数里にも達する大きさにして、口より稲妻を吐きたる。
「愚かな事をなさいましたな」
月の姫君、知らぬ間に立ち上がり、帝に告げる。
「朕の業は、目覚めた時に初めて見る男を愛するもの。
何故、姫は掛からぬ?」
「確かに人なれば、その業、有効なり。
妾は人に非ず。
月国と共に生きる、幻影なり」
「幻影と申すか?」
「愚かな帝、我が身は既に此の世に無し。
移し身の身体も、都と共に間も無く滅ぶ。
消えゆく前に、皆に告げる。
あれは滅びの龍。
月の民、悉く死した時、炎と共に目覚めん。
目覚めた後は、星を食らいて何処かへ去る。
妾が流された青星の全てを滅ぼすであろう。
最早我々にも止められぬ。
行き過ぎた星に裁きを」
「其れ傲慢なり!
何人たりとも、人の歩みを止める事、許されじ」
「嗚呼、帝よ。
おそらく千年の後の帝は、妾の申した事を理解するでしょう。
千年後が有れば、の話に御座いますが」
左様告げると、姫君は霧が去るかの如く、隠れて候。
「朕が、朕が懸命に為した事は何なのや?」
帝は呆然自失となり、膝を着いた。
全ては姫君を奪い返す為、魔道に堕ち、邪法も使いたり。
なれども、全ては水泡と帰せり。
隠岐の中将、心此処に在らざる帝を他所に、滅びの龍と戦う。
残されし先蒼き光放つ竹も、光の矢も、武士の矢も、毘盧遮那仏の模造も、まるで歯が立たず。
「如来菩薩法力爆縮放射竹しか術は無し。
あの龍が我が国を襲う前に討ち滅ぼすべし」
「法力充填。
般若心経念仏開始」
「仏法の圧、上昇。
限界に達す」
三分程の力で、月国の派遣部隊を葬り、月に新たな大穴を穿った武器なり。
限界まで法力を注ぎ込んだ僧侶は、気を失いたり。
迫り来る龍に向かい、隠岐の中将は引き金を引く。
その発射機構は、奈良の世に使われしも、今は使う者の無き、石弓の形が如し。
眩い光、龍に向かいて放たれり。
流石は御仏の力を圧して放つ禁断の光。
三つ首の滅びの龍、砕かれにけり。
その代償、極めて重し。
天鳥船、あちこちより火花舞う。
隠岐の中将、船を操り、本朝の都に戻りけるも、その後鳥船動く事無し。
斯くあり、神話の御代に作られし武具、真田の四郎が作りし物、全て失われにけり。
また、滅びの龍の破片、海に墜つ。
其れ、本朝の大事なる所に食い込み、力を奪う。
この後、法力や怪しげな力を使える者、ついに現れず。
帝、諸行無常を悟られり。
髪を下ろし、仏門に入り、己が欲の為に失われし生命を弔う日々を送りたる。
「報い有るなら、我が身に降り掛かり給え。
この上は、余人の命が失われる事に忍びず」
激しきご気性は消え、後は慈悲深き君として余生を送りたり。
なれど、報いは必ずあるものなり。
月の戦で生き帰りし坂東武士の子孫、斯く語れり。
「都、月国との戦で税を使い果たし、最早力無し。
何故、左様な都の命に唯々諾々と従わんや。
此は、我等坂東を見下す者に抗う戦なり。
膝を屈すれば、未来永劫下僕とならん。
我等が矜持の為にも戦わん!
此の期に及び、日和りたる者有らんや?
有らざるな!!」
過ぎたる力は失われ、月を滅ぼした報いは返り、世は数百年に及ぶ乱世に入りたり。
諸行無常、猛き者も遂には滅びん。
真に因果応報たるは畏るべきものなり。
〜〜〜〜 終 〜〜〜〜
活動報告でも書きましたが、作者現在入院してまして。
具合悪いから複雑な話は読みも書きも出来ない。
しかし、退屈だから創作欲は止まらない。
といった次第で書いた、ネタに走りまくりの話でした。
……竹取物語って、著作権切れてるし、二次創作じゃないですよね?
その他の古典以外のパロディの方がヤバいのは、重々承知してますが。
とりあえず、久々に気楽に読める、トチ狂った話が書けたと思います。
退院したら、次は前と同じ、史実ほぼ準拠の歴史小説書こうか、それともネタ満載を書こうか迷ってます。
何書くか決めてませんが、次作も良かったら読んで欲しいです。