討入
嵯峨野より放たれた、先ほの蒼く光る竹、数刻後月に至れり。
月国より、竹のようなもの、数多打ち上がる。
竹同士ぶつかり合い、眩い光を放つ。
「月国、戦に慣れず。
外れた竹を撃ち落とさぬ場所には何も無きなり。
撃ち落とした場所の下に、月の都在らん」
隠岐の中将左様語れば、武士ども頷く。
やがて、月の都の在らん場所より、車、数多く迫り来る。
「武士ども、合戦の時ぞ」
隠岐の中将の叫びに応じ、坂東武士、船外に身を乗り出す。
息が出来ぬ、凍てつく場所なれども
「四半刻(30分)ばかり息を止めれぬのは武士の名折れ」
と申し、船外にて矢を放つ。
此の矢、前の物と異なりて、月の車が貼る見えぬ壁を貫けり。
月国の兵、車ごと射抜かれて死せり。
然れども月の守りは厚し。
車の数多く、更に兎の耳を持つ二十丈(60m)ばかりと異形や、餅臼のような見かけの妖怪変化も現れたり。
本朝も、毘盧遮那仏を模した人型を天鳥船より発するが、状況芳しからず。
敵の数、我等に対し多く、勇猛な武士といえど手が回らず。
天鳥船、武士の転移可能距離に近づけず。
それどころか、月国の兵の攻めに、僅かながら傷つき始む。
月にて、迎え討つ将
「戦いは数なり」
と嘯きたり。
今のままでは、策進まじ。
月国の兵に船が削られ続ける。
隠岐の中将、帝に申し上げる。
「死中に活を見出すべく、敵中に乗り込まん」
帝、答えて曰く
「天晴れなり、中将に全てを委ねん」
「なれば、これより敵中を突破し、然る後に皆を転送せん。
月に降る者、転送竹に近づくべし」
鳥船、船外の武士を内に入れると、船脚疾く前進す。
「両弦強速、法力壁全開。
爆裂射出竹、光矢投射弩、撃ち方始め!」
突貫と共に、鳥船各所より竹や矢が放たれにけり。
その強引なる進みに、月の車、怖気付いてか退きたり。
鳥船、月の車を跳ね飛ばしつつ、月国の都を見下ろせる所まで突き進む。
「今なり。
転送を行えり」
刹那の間に、帝、坂東武士、そして四郎、月に降り立つ。
嵯峨野より放たれし竹、ほとんどは人形峠の石による攻撃兵器なれども、一部の竹は転送されし武士を受く為の出口なり。
皆の者、地に足をつけて月の都に乗り込みたる。
鳥船はそのまま月の都を掠めて飛び、帝や武士たちの潜入を悟られぬよう、向かい側で月の兵を誘き寄せるべく戦う。
月に降りた者、哀れなり。
月の都の周り、やはり見えぬ壁あり。
皆、そこに入れず。
如何に四半刻息を止める坂東武士と言えど、息が持たぬ。
少なからず倒れる。
「開き申した!」
四郎、瑠璃の震えを感じながら、遂に月の都の壁に穴を穿つ。
息が尽きそうな帝、武士、安堵して都の内に突入す。
内に入り、一息ついた後、各々狼藉に奔る。
然れども、月の都に曲者が入り込みし事、四郎が壁を穿ちたる時に既に察知されたり。
月の兵、直ちにこれを討たんと現る。
「地に足を着けて戦うならば、負ける事あらんや!」
一騎当千の坂東武士、月の兵に鏑矢を放つと、各々名乗りを挙げて組み打ちを行う。
第一陣を蹴散らすと、己が思うがままに月の都に散る。
「音に聞いていたが、真に月の女子は麗しきなり。
半年程、戦う為に女を断っておった!
最早辛抱堪らぬ!」
月の女は、相手を固まらせる光を放つ。
然れど、効くは人間に限る。
獣性を剥き出しにした坂東武士には効き目無く、哀れ女たちはその毒牙に掛かっていく。
此、極めて危うし。
事後、賢者と化した坂東武士、敢えなく月の兵に討ち取られたり。
後先考えぬ者の末路、正しく報いを受くものなり。
帝はまだ姫君を求めて都を走っている。
もし帝が、坂東武士の有様を知ったなら、改めて
「朕が此処に来るは正しき事なり。
来たらねば、姫君も危うし」
と仰せられたであろう。
然れども、帝も坂東武士と大して変わらず。
思うがままに、魔闘気を放ち、紅き光の太刀を振るい、月の兵を殺めたる。
帝、内内に
「朕、見事姫君を連れ帰るも、最早玉座に座れぬなり。
東宮に帝を譲り、院を開いてそこに籠らん」
と決意す。
帝と近衛の者、ついに月国の御所に辿り着く。
帝、姫君を見つけ賜う。
「姫君!」
声を掛けるも
「そこな無礼者、妾に声等掛ける勿れ!
妾は其方等識らぬ。
下がりゃ、下賤の者!」
と口悪しく罵られたり。
帝、ハラハラと落涙し
「姫は朕を忘れてしまわれた。
宜しい、朕もまた、月の事を忘れさせようぞ」
と仰せになり、身体より魔闘気を放たれた。
その暗闇に紛れ、姫君の背後に立った帝は、姫君の背中を指で刺す。
「姫が目を閉じた後、全ての記憶を失う。
然る後、目を開けた時に最初に見た男を愛する。
姫、朕のものになるが良い」
姫君が眠りに着いた刹那、異なる声が帝の耳に届く。
「力尽くで、女子の心を奪う等、鬼畜の所業。
情けなや。
其れでも一国の帝なりや?」
咎める者、身体より眩い光を放つ男なり。
「浅ましき限り。
余、自ら其方を成敗せん」
「汝はこの月国の王にあらんや?」
「賤しき者よ、誰が口を開いて良いと申した?
だが、問いには答えよう。
如何にも余は、この国の王なり。
汝とは身分が異なる。
控えおろう!」
帝、怒りを鎮めながら、再び仰せになる。
「左様な口振りが許し難し。
朕は姫君を取り戻す為と、その傲岸な月の民に一泡吹かせる為に、此処に在り。
王よ、其方も朕にひれ伏させようぞ」
「増上慢とは其方が事よ。
宜しい。
身の程を教えてやらん」
此処に帝と王の最終決戦が始まりし。
段々、なんちゃって古文も上手く書けなくなって来た……。
戦闘シーンなんて、擬音使いながら、使い慣れてる言葉で書きたいよぉぉぉ!
(フォーマットがなんちゃって古文だから、今更変えないけど)