軍議
月国、本朝を恐れ度々火球を撃ち込みたり。
名をば「遊星爆弾」と称す。
然れど火球、都に落つる事無し。
「南無八幡大菩薩、宇都宮権現、豊城入彦命、此の矢、当てさせ給え」
武士左様祈りを捧げ、全て撃ち落とすものなり。
都の民、その絶技に喝采す。
御所にて、月二号作戦の軍議開かれたり。
帝、諸将を前に宣う。
「月国、度々我が国を侵す。
其の儀、許す有るまじき。
最早此はただ、女子を取り返す戦に非ず。
我等、日ノ本を見下す月国に抗う戦なり。
膝を屈すれば、未来永劫下僕とならん。
我等が矜持の為にも戦わん!
此の期に及び、日和りたる者有らんや?
有らざるな!!」
武士、武官こぞって気炎を上ぐ。
大臣、文官、頭を抱える。
軍議にて、改めて如来菩薩法力爆縮放射竹を語る。
彼の武具は余りに過ぎた力なり。
万全の力なれば、月そのものを塵と化さん。
皆、あわやという時に非ざれば、月に向いて使うを欲せず。
帝の仰せは
「月を姫君ごと消してしまいかねん」
公家たちは
「古来、月は和歌にも詠まれたものにて。
無くなれば風情無し」
武士どもは
「一撃で月を消されては、我が手柄とならぬ」
其々の言葉で拒否す。
真田の四郎、竹にて作りし他のものに「瞬間仏像移送機」なるもの有り。
竹の内側に仏像を置き、離れた所の竹の内に瞬時に移送するものなり。
四郎
「竹の中の空間同士を共鳴させ、文殊、普賢の智慧にてそれを交換す。
然れども、送る前後にて時の誤差生ぜり。
この差、扱いを誤ると時の矛盾を起こせり。
重々注意が必要と存ず」
等と申すも、一同に理解する者無し。
この移送は、精々相模国と信濃国程の道のりしか能わず。
故に、天鳥船にて月に近づき、そこより月国の御所に直に武士を送る事に決す。
「さて真田の四郎、朕が命じた毘盧遮那仏を模した像、如何相成りしか?」
帝のお尋ねに、四郎答えて曰く
「二、三十ばかり造りたり」
と。
人が乗りて操るその像、毘盧遮那仏の如く金銅にて造る事、能わず。
四郎が野山に交じりて取りし竹と、早良親王が祟りて捕らえし月の三脚乗り物の欠片と、常陸国に現れ武士が退治せし大百足の革、霊験あらたかなる神木を以って告れり。
その像は内に乗る者の力を受け、武士の気組(気合い)、法師や神人の法力に応じ、強くも弱くもなれり。
武器は太刀と弓矢なり。
気組に因り、甚だ凄まじき斬撃も放てん。
弓矢にも気組を纏わせ、敵を討てり。
月国の三脚と同じ見えぬ壁を纏い、同じ能力が近づけば、たちまち共に壁消滅せん。
依って、太刀や弓矢は月の見えぬ壁を貫けり。
「其れは有り難し。
後は互いの武技が雌雄を決せん!」
武士ども、大いに猛る。
真田の四郎、月国の兵が纏いし、見えぬ壁をば模す事、能わず。
其れなる壁或いは盾を作り出す力を再現出来ず。
代わりに、見えぬ壁を打ち消す術を作りたり。
「瑠璃には僅かな震えあり。
見えぬ壁にも僅かな震えあり。
その震えを見えぬ壁のものと共鳴させ、互いに打ち消し合うように致したものなり。
波と波は重ね合わせれば、強くもなり、消し去る事も出来、真に面白き性質のものにして……」
一同、理解能わず。
戦の支度は整いたり。
やにわに帝、皆を前に立ち上がりて宣う。
「朕も皆と共に月の宮に乗り込まん」
帝の御言葉に、武士は喜び庭駆け回るも、大臣、公家大いに慌てる。
「帝は武術に於いて、武士に如かず。
戦におわしても、足手纏いにしかならん。
お止めあらん事を」
帝の目、怪しく光る。
件の公家、首を絞められたが如く苦しむ。
「朕の祖は、日輪の力、海の力、そして黄泉の国の力を司れり。
民の為、日輪の力、恵みの力のみ使いたり。
然れど、朕にも黄泉の力、暗黒の力も有り。
戦いに臨み、黄泉側の無限の力を解き放たん」
此れ、千年に渡り簒奪者が現れぬ所以なり。
帝、一子相伝の魔拳を継承し、暗黒闘気なる業を操り、指先より武甕雷神の力たる稲妻を放ち、遠くより人の息を止める事、能う。
「朕、姫君を攫われし屈辱の日より魔道に堕ちたり。
魔の気を纏い、紅き光を放つ太刀を振るわん。
戦に勝つ為、全てを擲たん。
誰か朕の力に異を唱える者、有らんや?」
大臣、公家異を唱えず。
然る後、帝、関白殿にのみ聞こえるように
「朕が行かざれば、姫君は坂東武士の手に落ちよう。
顔を知らぬ故、乱取りされかねぬ。
朕自ら救い出さねば、意味無し」
と仰せになられた。
関白殿、溜息を吐きて
「なれば、是非も有らん」
とお答えられた。
やがて、天鳥船に隠岐の中将他、真田の四郎、武士、法師ども乗り込む。
御簾奥には帝がおわす。
時は満月の頃。
関白殿
「夏は、夜。
月のころは、さらなり。
闇もなほ。
竹の多く飛びちがひたる。
月に向かいて光りて行くも、をかし」
と発せられり。
其れなる言葉が合図なり。
早馬が走る。
嵯峨野より、真田の四郎が揃えた仙薬を詰めた竹が火を噴き、月に向かいて飛び立ちたり。
竹の先には、伯耆国、因幡国、播磨国の辺りに在る人形峠なる地の石が詰められたり。
その石、四郎が細工をし、ほの蒼き光を放つようになれり。
ある者、四郎止めるを聞かず、その石に触る。
数日後、その者死せり。
先、ほの蒼く光る竹なむ百、二百筋、月へと向かう。
同じ刻、大和の天鳥船、飛び立てり。
「月二号作戦」、これより始まる。
段々パロディネタが渋滞して来たかも……。