浮舟
右大臣、左大臣、帝を諌めて曰く
「女を求めて戦をする等、愚の骨頂。
負けて国を失う前に、疾くやめられたし」
帝、これに従わず。
「姫君、既にこの地を忘れたり。
帝の御心、届く見込み無し。
姫君、既に月の男に娶られたやもしれず」
帝、諫言を無視す。
「誰を愛そうが、如何に汚れようが、構わぬ。
最後に朕の横に居れば良い」
かくして「月二号作戦」は止まず。
相模国平塚に真田なる地在り。
そこに住まう四郎なる者、野山に交じりて竹を取りつつ、万の事に使いけり。
籠を編んだり、水筒としたり、弓を作ったり、中に仙薬を詰めて空に飛ばして鳥を撃ち落としたり、中にカラクリを仕込んで仏像を瞬間移送したり、誠に誠に万の事に使いけり。
帝を諌められず、腹を括りし関白殿、此の者を召し出して、月国との戦に加える。
真田の四郎、戦を渋るも
「左程に優れた国の知を得られるなら、是非に」
と参加を了承す。
真田の四郎、大和国で掘り起こされし、天鳥船を見る。
天鳥船、三艘有り。
一つは、十一町(1,200m)程もある巨船なり。
四郎、中を調べて申すには
「此は危うし。
直ちに埋め戻すべし。
勝手に動き、敵に一撃を加えて戦に巻き込むもので、天鳥船に非ざるなり」
二つ目の船も調べたり。
「近くに大きな朱き車が三つ程有りけり。
それは重なり合い、極めて大きな人型と成る。
それは宇宙を滅ぼしかねない力を持ちたり。
第六文明とか記されたり。
此も疾う埋め戻すべし」
四郎、三つ目の船を調べる。
「此は某でも理解出来申す。
此は天鳥船にて候」
この船を四郎、造り直す事になりけり。
さて、坂東武士また現る。
彼の者ども、臆病風に吹かれず。
あたかも次は勝つと決まっておるが如し。
「先に出陣した者が死ぬるは暁光なり。
その者の所領を併せて来た故、甚だめでたし」
聞くに、死者の土地を奪ってから、更なる恩賞を求めて都に上りたり。
実に厚かましきものなり。
隠岐の中将、皆を見据えて曰く
「月国を侮るなかれ。
我等の弓矢は当たらじ。
船の内は、法力により息する事能う。
されど船の外は息出来ず。
この地の者、皆死するものなり」
坂東武士、呵呵と笑う。
「死んだと思わねば、存外死なぬものなり」
「死なぬ限り、戦うだけと心得る」
「当たらぬのは舟戦ゆえ」
「息を四半刻(30分)も止められず、坂東武士を名乗るは烏滸がましき限りなり」
「矢を当てられぬのは、八幡大菩薩への信心が足りぬゆえ」
隠岐の中将、言っても無駄と思す。
なれど、駆けつけた坂東の源氏、平氏、藤原、橘の衆、士気は甚だ高く、異能者ばかりなり。
中将、舟戦ではなく、異なる合戦にすべく策を講ず。
坂東武士に謁した帝、
「頼もしき限りなり」
と仰せになると
「朕も共に戦わんと欲す」
として、修練を始む。
帝は、一子相伝の業の使い手なり。
其れを見た者居らず。
見た者は皆、黄泉の国に住まう故なり。
帝が申されるには
「一人の美女の為に禁を破るも良きもの。
一人の美女の為に国が滅ぶも一興」
坂東武士ども、箙を叩いて、帝の御心を褒めそやす。
関白殿、頭を抱えて
「其は改められたし。
其は改められたし」
と諫言す。
大事な事ゆえ、二度繰り返すも、帝の心には響かず。
大戦は最早止めよう無し。
されど国滅びて山河在り等と言わぬよう、己が骨を折らねばと、心中思す関白殿、誠においたわしや……。
さて、月国も本朝の戦支度を見逃さず。
月国、先んじて大和国を襲う。
天鳥船無くば、本朝月に攻める事、能わず。
されど、大和国には既に真田の四郎在り。
四郎、竹にて造りし恐るべき武器を鳥船に備え終えたり。
「この竹の内側には、大日如来の力と、弥勒如来の司る宇宙の始まりと終わりに至る力と、如来・菩薩の浄土を開く力を圧縮し、文殊菩薩と普賢菩薩の知恵にて其を制御し……」
四郎の言う事を理解出来る者、居らず。
只々強そうというのが分かるのみ。
やがて月国より、鳥船を壊すべく車が襲い来る。
東大寺、興福寺、薬師寺の僧侶、法力を込めて鳥船を宙に浮かべる。
然る後、船主を月に向けて、月国の車を迎え撃つ。
如来菩薩法力爆縮放射竹と名づけられし、極めて大なる穴から放たれた光は眩く、遠く都からも光の柱が立つを見る。
奈良の民は、その光にて目が開けられず。
月国の車たちは、消滅す。
更に光は月にも当たり、一部が砕けるのが天文博士によって知らされた。
「今だ、三分の力。
全力は使っておらず」
四郎、左様申す。
皆、その力を頼もしく思うと共に、恐れを抱けり。
帝、ある事に気付けり。
「彼の恐るべき光の剣を使い、月国を滅ぼすに、朕の心は痛痒を感じず。
されど、あの光が当たれば、姫君とて生きてはおられず。
朕の願いは、姫君を取り戻す事なり。
余りに強すぎる力は、其を叶えさせず。
あれは使ってはならぬ力なり……」
時を同じくして、月国の王も恐れを抱けり。
「千年、否、二千年も遅れた、青星にあのような力は尚早なり。
侮るべからず。
あの力を産む者どもを討ち滅ぼし、過ぎたる力を封じ、青星は我等の制御下に置くべきなり」
月国もまた、本朝との大戦を決めたり。
宇宙ってのは、仏教用語なので、平安時代でも使えます。
なんせ、中国には大和時代に相当する時期、宇宙大将軍がいましたから。