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月夜

 いずれの帝の御時にか、竹より出ずる麗しき姫君ありけり。

 帝、これを手放したくなる欲する。

 されど姫君が申すには

「我が身は月より来れり。

 時、満ちれば帰らねばならぬ」


 帝、大いに驚くも心強く仰せられた。

「例え月国強けれど、退かぬ!

 例え月国、唐国からくにより栄えども、媚びぬ!

 例え国滅びども、顧みぬ!」


 陪席する関白殿、頭を抱えて申す

「末尾の事、重々顧みられたし……」


 帝、右近衛大将、兵部卿、転厩殿らを召して、月の民を討ち払う事を命ず。


 右近衛大将殿曰く

「検非違使に人あり。

 摂津の太郎なる武士さぶらい、弓を以て白虹(彗星)を打ち落とす剛の者なり。

 叡山に山法師あり。

 中門の智隆なる法師、天より来たる火球を、これもまた弓にて打ち砕けり。

 他にも、宇治の竹丸、明石の入道、賀茂の九郎等、いずれも名高き弓の名人なり」


 転厩殿、次いで曰く

飯縄いづなの法なる邪法を極めし者どもあり。

 邪法にて天を駆ける事、あたう。

 富士の御山より高く、雁の群れを追うほどに疾く、燕の如く舞うものなり」


 兵部卿殿曰く

「勅を発すれば、直ちに日ノ本各地より千騎のつわもの召し出しけり。

 その兵を以て御所を護れば、如何なる者とて寄せ付けぬ」


 帝、大いに喜び、姫君を護らせたり。




 月日経ち、遂に月より出迎えの者、現れり。

 大将、兵部、転厩薦めの剛の者ども、いずれも役に立たず。

 月よりの車に矢を放つも、当たらず。

 矢、車を避けて飛ぶ。

 飯縄の者ども、車の傍に寄るも、気を失ないて墜つ。

 御所を護る兵ども、車より放たれし光を浴びると、体固まりて動けず。


 月よりの使い、静かに、然れども皆の頭に響く声で宣う。


「愚かなり。

 左様な武具で身共を傷つける事、能わず。

 さて、その者は天宮にて罪を犯し、この地に流された者。

 この地は咎人が送られる程の、野蛮な地と識れ。

 その者の罪は許されり。

 さあ、共に還らん」


 光に導かれ、姫君、御所より出ずる。

 姫君、育ての翁、おうなと名残を惜しむも、冠を被ると全てを忘れたが如き顔となる。

 姫君、そのまま車に乗ると、動けぬ地上の者を顧みる事無く、月に去りたり。




 帝、全てを見て、大いに怒りけり。

 そして

「諦めたら、そこで終わりなり」

 と仰せられる。


 帝、口ばかりの大将、兵部、転厩を解官す。

 そして大学頭に命じ、月に参る術を調べさす。

 やがて大学頭、天鳥船アメノトリフネなる物を知る。

 空を飛び、兵を運ぶ船なり。

 かつて高天原たかまがはらより武甕槌命(たけみかづちのみこと)を乗せて、葦原中国あしはらなかつくににその身を運ぶ。

 日ノ本の何処かで、その船眠る。


 帝、勅を発し、船探しを命ず。

 やがて鎮西の霧島なる山に、それらしき船あり。

 法師、陰陽師、神人の法力にて、これ動く。

 帝、天鳥船を模して、同じような船を作る事を命ず。

 果たして八艘の船、完成す。

 帝、それらの船に、御自ら「雪風」「磯風」「浜風」「初霜」「朝霜」「霞」「初月」「冬月」と名づけられり。


 船将には、新羅、刀伊等の入寇を討ち払いたる、隠岐の中将を任ず。

 中将、これ猛将なり。

 海賊どもと戦う折、自ら先陣に立てり。

「死中に活を見出すべし」

 と叫び、切り込む剛の将なり。

 帝、大いに中将に期待す。

 中将

「舟戦は幾度も行えり。

 されど空飛ぶ船は初めてなり」

 と戸惑えど、兵を鍛え、船の扱いを覚える。

 帝、その様を見て満足す。


 かくして、天鳥船とそれを模した船、月に向いて飛び立つ。

「月一号作戦」と称した大戦おおいくさ、これにて始まる。



 隠岐の中将、月に近づく。

 月国、車を数多出し、これを迎え討つ。

 中将、選ばれし武士に矢戦を命ず。


 月の使者が来たれし時、多くの者、体固まり動けず。

 然れど、童子わらしや狂いし者、光の影響受けず。

 また、

「彼の者、なつきまで筋肉で出来て候」

 と評されし武士、やはり動く。

 それを識った帝

「余計な事を考えぬ者こそ、月と戦えよう。

 よって坂東武士どもを召すべし」

 と仰せになる。

 坂東武士ども、考えるより先に矢を射る、親でも殺す、建物を見れば火を放たずにいられぬ、禽獣が如きなり。

 帝、月との戦には坂東武士こそ適すと思し召す。

「月には朕も知らぬ財貨が数多有りと聞く。

 その方ども、全て奪って良いと認む」

 帝の御言葉に、武士ども

「殺す」

「犯す」

「焼き払う」

 と大いに喜びの声を挙げたり。


 確かに坂東武士ども、月より発した車の光に臆せず。

 体固まる事無く、足柄の山を射抜いたという強弓を放つ。

 それまでなり。

 矢、相変わらず車から逸れる。

 月の車の前に、見えない壁があるが如し。

 やがて、再び皆の頭に響く声あり。

「無駄な事はやめて、蛮地に戻られよ」


 隠岐の中将、

「ウツケめ」

 と返す。


 月の車より放たれし光、此度は船を貫く。

 たちまち「磯風」、粉々に砕かれたり。

 矢が外れる本朝の船で、少しでも打撃を与えるべく、中将の艦隊は月に迫る。

 されど攻めも、守りも、疾さもどれも及ばず。

 時を置かず、元々神々が作ったとされる隠岐の中将が乗る天鳥船の他は、「雪風」を除き沈められり。


「此の船では奴等には勝てん」


 中将、恥を忍んで帰還を決断す。

「雪風」、中将を護る為に月に突入し、ついに力尽きる。




「月一号作戦」は、本朝の大敗で終われり。

 姫君を取り戻すどころか、月にもたどり着けず。

 数多の武士を失い、都に戻りし中将を帝は罰せず。


「一将功ならずして、万骨枯る、か。

 咎めてはおらぬ。

 中将らしからぬ失敗をするよりは、余程良い。

 一度の敗北は、一度の勝利で取り戻すべし」


 帝、諦めず。

 隠岐の中将も、再戦と勝利を誓う。


 そんな折、御所に報がもたらされる。

 大和国に、更に大きな天鳥船が埋まれたり、と。

なんちゃって古文なので、文法的な間違いは多々あると思います。

指摘は歓迎ですが、基本的に雰囲気で楽しんで下され。

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― 新着の感想 ―
>「一将功ならずして、万骨枯る、か。 > 咎めてはおらぬ。 > 中将らしからぬ失敗をするよりは、余程良い。 > 一度の敗北は、一度の勝利で取り戻すべし」 帝が獅子帝じゃねーか!
ネタてんこ盛りですなぁw 三光…(^_^;)
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