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第八話「ギルド」

 フロア内はクエストを迷ったり、装備を自慢する冒険者や、傭兵の売り込みなどの活気ある声で溢れている。ここはトルネ町にある冒険者ギルド。

 カウンターにいる二人の受付嬢が、さまざまな依頼の貼り紙群を背後に笑顔で立っている様は、最早様式美といってもいい。


「ねぇ、何でギルドなのよ」ワンダが言った。


「何でって、そりゃあ我らは一文無しであるからな。金を稼がねばなるまい」


 ギルドに行こうと言い出した張本人のシニアは、腕組みしてどこか自慢げである。


「やるぞ!」


 ツキルは元気よく拳を上げた。

 

「そのお金の件なんだけど、多分政府の方に言ったら支援ぐらいしてくれると思うわよ?」


 ワンダはそう言うと、机に置かれたコップの水を一口飲んだ。


「それはなんかダメだ!」ツキルが言った。


「まぁこの旅の目的はツキルを弱くする事であるからな。クエスト先でそういったものに巡り会えるかもしれぬし、金も貰える。一石二鳥ではないか」シニアが言った。


「まぁ……それはそうね。で、どんなクエストを受けるの?」


「そりゃあ荷物の運搬とか、薬草の採取とか」


「結構地味なクエスト選ぶわね……まぁ、そういうのだったら私も手伝えるかな」


「人助けは得意だからな、荒稼ぎしようぜ」


「低級クエストで荒稼ぎってどれだけこなすのよ!」

 

「気合の続く限り!」


「永遠に続きそうなんだけど……」


「……」


 二人が会話をしている間に、シニアは視線をギルド内の人間達へ向けていた。


(さて、ここの奴らのレベルは……)


 ”十怪”のようにステータスに鍵がかかっていない為、シニアはさまざまな冒険者達のステータスを一気に覗く事ができた。


(2500、1900、4000……高い者で9000。ふん。このギルド、賑わっとるだけで大した奴がおらんわ)


(……?あの、奥に座っている女だけステータスが見えぬ。実力者か?)


 シニアが目を引かれたのは、窓際の席に一人座っている怪しい女性である。

 目元を舞踏会で使うようなマスクで隠しているが、見えている部分だけでも相当の美人である事は一目瞭然だった。

 どこか近寄り難い雰囲気のある彼女は、何かギルド内に目的があるとも思えず、ただ落ち着いた様子でそこにいる。


(……まぁ仮に強い者であったとしても、力を失った我にはどうでも良い事)


 シニアは怪しい女性への興味を捨て、楽しく会話をしているツキルに顔を向けた。


「そういえばツキル、クエストを受ける前に冒険者登録手続きをしなければならんぞ」シニアは言った。


「えっ?そうなの?」ツキルはきょとんとして言った。


「あぁ、まだあの制度あったんだ。なんか身体能力試験みたいな奴でしょ?」ワンダが言った。


「そうだ。受ける試験の難易度によっては高いランクから冒険者を始める事もできる」


「よし、じゃあまずはそれだな!受付に行ってくる!」


 ツキルは意気揚々とカウンターへ行き、一番難易度の高い試験を受けたいと大声で言った。


「……あの、正気ですか?」


 その言葉を聞いた受付嬢は、笑顔が消え真っ青になって言った。

 静まり返るギルド内。するとカウンター奥にある従業員入り口から、見るからに凶暴そうな男が姿を表した。


「おいおいおい!!最上級試験を受けてぇっていう命知らずはどこだ!?!?」


 男は受付嬢の胸ぐらを掴み、脅すようにきく。


「あ、あの、そこのお方ですっ」


「おめぇか」


 男は受付嬢が指したツキルを一睨みすると、ずかずかと威圧的に向かっていき、カウンター越しにガンを飛ばして言った。


「いい度胸だな。ついてこい」


……


 ツキルは男に、ギルドの外にある空き地に連れてこられた。最上級試験に興味のある部外者達も、野次馬をしに空き地の外に集まっている。


「なぁ、こんな所で何するの?」ツキルが言った。


「初級、中級、上級……一般的な冒険者試験ってのは、半端な実技試験だいらねぇ学科試験だのを受ける必要がある。だが最上級試験は単純だ」


 男は腰に挿した剣を抜き、構えて言った。


「俺を倒してみろ」


「なるほど、分かったぜ!」


 ツキルは拳を構える。


「オメェ、名前は?」


「知夏拉ツキルだ!」


「そうかい、俺はナウロ。昔はプラチナ級でのんびり冒険者やってた怠け者だ。さぁ、始めようぜ」


 こうして、多くのギャラリーの前で最上級試験が開始された。


「アイツ……終わったな」


 野次馬の一人が緊張した顔で呟いた。


「ナウロとか言う奴が?」


 シニアが人混みの中からひょこんと猫耳と顔を出して言った。


「馬鹿!ツキルとかいう奴に決まってるだろ!あのナウロをタイマンで倒すなんて無理だ!」


「そんなに強いのか?アイツは」


「あぁ……ナウロは冒険者職業を始めて一年でプラチナ級まで駆け上がり、その後あらゆる功績を打ち立て続けたが飽きて引退。その後は色々な分野に手を出し、新たな労働の形として今でこそ常識となった三交代制の礎を作るなどの偉業を成し遂げたあと、このギルドの責任者になった。血筋は代々数学者で、掛け算を初めて発見したのも奴の先祖だと言われている」


「いやお前よく喋るな」


「ナウロのファンなんだ。俺」


 ナウロは剣を構えたまま、ゆっくりとツキルへと歩みを進める。


「この剣を知っているか?」


 ナウロは剣を見せびらかすように、構えが崩れない程度に小さく振った。


「知らない!」

 

 ツキルはとても素直だった。


「こいつの名前は”崩威・殲滅刃”。かつてこの剣を持った男が率いた軍が、16倍の戦力差をひっくり返したという伝説から付いた名だ」


「すげぇ」


「さぁ、いくぜ!」


 キンキンキンキン!キンキンキンキン!カンカンカンカン!ドォドォドォドォ!!


 激しい戦いが繰り広げられた。


「喰らえ!雷魔法!」


 ツキルが人差し指を指すと、その先から激しい放電と共に電気の束が発射される。


「ふん」


 だが、ナウロはその魔法を目前にして避けない。


「何故だナウロ!」


 野次馬が叫んだ。

 だが、雷魔法は直前でナウロをまるで避けるように明後日の方向へと飛んでいき、空へと消えた。


「何……?!」


 ツキルは驚く。


「ふん、残念だな。俺に雷攻撃は通じん。何故なら俺の身体は、生まれつき避雷針の性質を帯びているからな!!」


「”避雷針”ってそういう意味だったのか……!」ツキルは唸った。


「さぁ、かかってこい!」


 ドンドンドンドン!!

 おおっ!!


 カンカンカンカン!!

 なんてすごい戦いだ!


 ゲンゲンゲンゲン!!

 うおおおっ!


「この戦い、知夏拉ツキルの勝利なり!」


「ぐはっ……」


 こうして、ツキルは最上級試験に合格したのだった。


……


「おめでとう。これはゴールド冒険者の証だ」


 ギルドの裏方で、ツキルはナウロから金色のバッジを受け取った。


「ありがとう!」


「ギルドに貢献してくれよ」


「いいぜ!」


 ツキルは早速フロアへ出て、バッジを手にシニアとワンダの元へ戻ろうと歩き出した。


「ねぇ、今暇かしら」

 

 数歩進んだ所で突然、ツキルは女性の声に呼び止められる。

 ツキルは振り返った。彼女はやや長身で、目元を舞踏会で使うようなマスクで隠していた。

 シニアが見ていた、怪しい女性。


「ちょっとお話があるのだけれど」


……


 招かれた部屋は、冒険パーティの話し合いなどで使われているやや狭いワンフロア。

 ツキルは女性の対面に腰掛けて言った。


「あなた誰?」


「ふふ、驚かしてごめんなさい。私よ」


 女性はマスクを外し、油断の無い瞳をした美しい目を見せた。

 こうして顔の全貌が分かれば、彼女が誰かは途端に明白になる。十怪が一人、”侵犯魔女”ソル・パーンだと。


「ああ、あの政府にいた女の人!」


「一つ、聞きたい事があるの」


「聞きたいこと?」


 ツキルは首を傾げた。


「あなたのさっきの戦い、見てたわ。とてもいい動きだった……あの弱体化魔法を受けたとは思えないほど、ね」


「ありがとう!」


「私は一応魔導を極めた身だから分かるのだけど、あのあひるが置き土産に放った弱体化魔法、あれは強力なものよ。一身に受ければ恐らく十怪でも戦闘に支障が出るはずなの」


「それなのに、あなたはこうしてここに立っている。そのゴールド級の冒険者バッジを持ってね」


「……」


 ツキルは手の中のバッジを確かめるように握る。そして、ソルにどのような意図があるのかを確かめる為、黙って耳を傾けた。


「これには二つ理由が考えられるわ。一つはあなたが、魔法に対するとびきり強力な耐性を持っていて、弱体化が効かなかった可能性」


「そしてもう一つ。私としては、こっちが本命」


 その瞬間、ツキルの目を射抜くソルの視線が、全てを見通しているかのように鋭くなった。


「……高すぎる能力。下げても下げきれない程の、強大なステータスをあなたは持っていた」


「合ってる」ツキルは認めた。


「やっぱりねぇ」


 ソルは机に身を乗り出し、ツキルに顔を近づけて言う。


「よければ教えて欲しいの。その力を手に入れた経緯を」


 今のソルは、いつもの余裕な態度からは少し感情的になっているように見えた。

 ツキルはいつになく真剣な表情で、ゆっくりと口を開く。


「……俺は、こことは違う世界で車にはねられて死んだ」


 ツキルは自らに起こった出来事を、可能な限り詳細に話し始めた。

 




【一週間前】





「ツキルくんなんてもう知らないっ!」


「お、おい!」


 少女は目の前のツキルを置き去りにして、外へ飛び出す。

 しかし前も見ず、衝動のまま走っていた彼女は、横から来るトラックに気付けなかった――


(私だけのツキルくんだと思ってた。でも、違った!彼はみんなに優しくて、私はその内の一人でしか無かったんだ。そう分かった瞬間、身体が勝手に動いた)


(クラクションの音がして、目を開けたら目の前にトラックが来てた。その瞬間、もう駄目だって悟った)


(みんな、ごめんなさい)


「サギ!!」


「えっ」


 サギは後ろから、どんと誰かに突き飛ばされた。急ブレーキ音と痛ましい衝突音が、彼女の耳をつんざく。


「あ、あ……!」


 目を開けたサギが見た光景は、あまりにも悲惨なものだった。


(私のせいで、私のせいで、ツキルくんが)


 サギは己の鼓膜さえ破りそうなほどに泣き叫び、自分の愚かさを呪った。


……


「あのー……」


「ハイハイ次の方どうぞ〜」


 視界全体にどこまでも青空が広がる不思議世界で、ツキルは白い紙を片手にドアを開ける。

 中はちゃぶ台や古いテレビのある、壁や床が青空な点以外はごく普通の和室だった。


 書類の山や、使い古したペンが散乱した部屋の中心に陣取っている老いた人物が、ちゃぶ台に置かれたパソコンのキーボードを叩きながら、書類の一つに目を通している。


「なんか整理券渡されたんだけど、ここ天国で合ってる?」


「ん?」


 老人はツキルの存在に気付くと、タイピングを切り上げて言った。


「何を言っとる。それを今から決めるんじゃ」




         続く


【ツキルの残り戦闘ステータス:91000】



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