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第七話「終局・始まり」

 世界を絶望によって支配するという野望を掲げる雲黒漆黒便宜会と、世界政府の持つ最高戦力”十怪”の壮絶な闘いは、ついに佳境に突入した。

 首領のあひる様は、ツキルの一撃により死した。それをターニングポイントとして、当初五分五分に見えた戦況は徐々に傾きつつあった。


「どうしたッ!もう終わりか!」


「……」


 狙撃手による援護を受け、有利に立っていた筈のかにふくろう。だが今や彼の背は壁であり、獲物の鋏は根本から切断されてしまった。


 銃弾を肩に、足に、背に受けようと、動きに一切の迷いと支障を介入させない強靭な身体と精神が、ショウリに絶対的優位を与えている。


 彼は特殊能力や、強大な魔法を持ち合わせている訳では無い。もしこの驚異的身体能力に説明を付けるとすれば、それは一つしかない。



ただ単純に、大勇者ショウリは”強い”。



「これで、とどめだっ!」


「……!」


 ショウリは為す術の無いかにふくろうの胴体へ、容赦の無い剣を振るった。


……


「……チッ」


 ホール内を丸々と見渡せる建物の高所にて、二丁のスコープ付きの巨大拳銃を握るのは便宜会の四天王、二丁拳銃のたけだ。

 彼はかにふくろうの援護で、ショウリの動きを止め、牽制しようと狙撃していた。


 だが結果は上述の通りである。彼は舌打ちし、それでもスコープの焦点をショウリに定め続けていた。


(狙撃するなら、腕か、足か……。だがあの化け物の動きはこんなもので止まるのか?何度も、何度も撃ってやったのに、あいつは今も元気に剣を振り回してやがる)


(頭や、心臓のような急所は駄目だ。それだけはいくら狙っても回避された。奴は避けられないから弾を受けているのではない。当たっても構わないんだ)


(とりあえず、ここは腕を)


「グッ!?」


 たけは突然、背中から突き刺されるような激痛を感じ、血を吐いた。

 

「な、何が、起きて」


 たけはスコープから目を離し、己の腹部を見ると、そこから血塗れの刀が生えていた。


「ぁ……」


 たけは意識も絶え絶えの中、ゆっくりと背後を見た。誰もいない。その代わりに、虚空にぽっかりと小さい穴が開いていた。

 そしてその穴の中から、たけを貫いている刀が伸びていた。


「悪く思うな。あんたみたいな集中第一って奴にはこれが一番有効なんでな……」


 突き刺した当人は穴の奥からそう言うと、たけから刀を引き抜く。

 たけは霞む視界の中、空間に開いた穴を這いつくばりながら覗き込むと、異空間の中を去っていく男の後ろ姿が見えた。


「……タイ、トウ……」


……


「おしまいかしら」


 ソル・パーンは赤熱した杖をくるくると回し、先端にキスをして言った。

 彼女と対峙していた炎械王メカニズは、熱により無茶苦茶に変形したボディを強引に動かそうとし、倒れた。


「強い、ナ……!」


 メカニズは倒れ伏したまま、ソルの強さを称えた。


「ふ……寄リ道したノは、間違いダった。次は……」


「あっ!ルナちゃーん!そっちも終わったのかしらぁ?」


 ソルは怪物の群れを片付け終わったルナを見つけると、嬉しそうに近寄っていった。


「……」


……


「”オーダー”!」


 宇宙のような背景の不思議空間の中で、オーダーマンは額に汗をかきながら、頭のベルを鳴らし宣言する。

 すると遠くにあった物体は呼応し、すぐに彼の手の中に飛来した。


「何……!?」


「おやおや、どうされました?」


 オーダーマンはナイフを手にしたつもりだったが、手の中を見てみるとそこにはしおれた花が一本あるばかり。


「あなたはとびきりおかしな術の使い手ですな……!」


「私は”奇怪術士”ですから」


 オーダーマンとソレハ・ショウの戦いも、既に勝敗はつきかけていた。

 まずソレハ・ショウは、強力で広範囲な幻術を使い、オーダーマンと自分を幻覚空間へと隔離。

 そしてショウはそのフィールドの中で、幻と現実をごちゃ混ぜにし、時にはマジックを、時には現実を押し付け、オーダーマンを完全に撹乱した。


「それでは、そろそろフィニッシュと行きましょう!」


 ショウが高らかにそう言うと、オーダーマンの周りを無数のトランプが花吹雪のように旋回し始める。

 

「四天王をそう簡単に倒せるとお思いか!」


 オーダーマンは抵抗し、トランプに命令しようと頭のベルに手を伸ばそうとした。

 だが、その瞬間にオーダーマンの身体の自由は奪われる。身体が突然紫色に発光し始め、彼は指先をピクリとすら動かせない。


「おぎゃあ、おぎゃあ」


 オーダーマンはトランプの嵐の中、宙に浮き嘲る鬼の赤ん坊を垣間見た。


「く……!!オ、オ、オ」


「さようなら」


 ショウが指を鳴らすと、渦を巻いていたトランプは蜘蛛の子を散らすように去っていき、もうそこにオーダーマンの姿は無かった。


……


「グ、ガ、ガ、ガ!」


 巨大グラトニーは崩壊寸前の身体で、尚もカラクモに攻撃を続ける。


「もう諦めんか、デカブツ」


 とどめを刺そうと、カラクモは高く跳躍しグラトニーの眼前に迫った。


「ココ、ダァァァアァア!!」


 そこがグラトニーにとっての最後のチャンスだった。彼は最後の力を振り絞り、巨大な両手のひらでカラクモを捕らえようとした。


「グッ!?」


 カラクモがどんなに達人であろうと、滞空中に回避は困難である。そこを突いたグラトニーの試みは成功し、見事カラクモを捕まえる事が出来た。


「グハ、ハハハ!!捕マエタゾ!捕マエタ!モウ、オ前は終ワリダ!コノママ、シメコロス!」


「あらよっと」


「ナニ?」


 グラトニーの思考が停止した。たしかに手の中にいたはずのカラクモが、目の前で忽然と消えたのである。


「残念じゃったのう」


「!?」


 グラトニーは己の握り込んだ両拳の下から、老いた声を聞いた。

 そしてグラトニーが恐る恐る両手を解くと、先程まで戦っていた筋骨隆々な若者の姿は何処にもなく、ただ細身の老人が一人立っているばかりであった。


「キ、貴様!ナゼチイサクナッテイル!?」


「ほれ」


 老いたカラクモはグラトニーの脇腹をゆっくりと突く。

 それだけで、グラトニーの身体が崩壊するには十分な攻撃だった。


「グァ……オァアアアアアアアアアアアア!!!!」


 グラトニーはビルの解体現場のように身体を派手に崩壊させ、岩の残骸と化したのであった。


「さて……これで全部、片付いたかのう?」


 カラクモは曲げた腰をとんとんと叩きながら、すっかり荒れ果てたホール内を見下ろしながら言った。

 ホール内にはもう四天王も、怪物もどこにも見当たらない。その光景が、十怪達の勝利であることを何よりも示していた。


 かくして、雲黒漆黒便宜会四天王、巨大グラトニー、かにふくろう、オーダーマン、二丁拳銃のたけは十怪に敗れた。


 親玉あひる様も亡き便宜会は、すぐに崩壊し、残党を各地へと散らすだけだろう。

 

 こうして悪は一つ潰えた。だが彼らの闘いに終わりは無い。世界のどこかに、闇がある限り……。



……


……


……




「いや、続くわよ」


 ワンダが避難所の壁に向かって言った。


「誰に話しとるんだお前は」


 シニアはテーブルに頬杖を突きながら言った。


「何か言わずにはいられなくて……」


「おーい!ここを開けてくれ!」


 避難所の外から、はきはきとした男性の声がノックと共にドアを叩いた。

 職員が解錠しドアを開けると、ツキルに肩を貸しているショウリの姿があった。その背後にはカラクモもいる。


「ツキル!」


「どうしたのだ!?まさか……」


 ワンダはツキルの姿を認めると、犬耳をピンと立ててすぐさま駆け寄り、彼の肩に手を置いた。


「ツキル!心配したのよ!怪我は無い?」


「……」


「ツキル?」


 シニアは驚いた。ツキルは身体に傷一つ無いものの、項垂れた様子で口一つ聞かない。何かあったのだ。


「ツキル君は……」


 ショウリが言いにくそうに口を開く。


「ツキル君は、みんなの身代わりに超威力の弱体化魔法を受けてしもうてのう……」


 カラクモが代わりに言葉を繋げた。

 

「何ですって!?」


「まさか己から受けにいったのか……」


「とりあえず、ツキルくんは君たちに預ける。そして、彼はもう……以前のような力を振るう事は出来ないと思う」


 ショウリが申し訳なさそうに言う。


「そんな……」


 ワンダは犬耳を力なく垂れ下げ、涙目で膝をついた。


「その場にいたのにも関わらず、部外者を守れなかったのは僕たちの責任だ。本当にすまない……」


……


 三人はその後、転移魔法によって宿屋まで戻った。

 ツキルは意識こそ健在だが、以前口を聞かず、顔を下に向けたままだ。


「ねぇツキル……その、落ち込まないで」


「そうであるぞ。弱くなるはお主の願望であった事だろう」


「……皆」


 そのとき、帰ってきてから初めてツキルが口を開いた。


「俺は……俺は……また、弱くなれなかった!!」


 ツキルはそう叫んでうなだれる。

 シニアとワンダはその言葉を聞いて、ぽかんとしてしまった。


「……ステータス今いくつ?」シニアがきいた。


「ステータスオープン……」



【ステータスオープン】


___________


名前:知夏拉 ツキル


レベル: 92


戦闘ステータス: 91000


スキル:無し


___________


「何これ!?!?」


 ワンダはその桁違いのステータスを見て絶叫する。強いとは知っていたものの、ここまでとは思っていなかったのである。


(そ、それで弱くなろうと……)


数値を見て初めて、ワンダはツキルの心境を少し理解していた。


「ま、まぁ!落ち込むなツキル。よく考えてみろ、その弱体化魔法を後10回ぐらい受ければお前も立派な最弱になれるのだぞ!」


(流石にその説得は無理あるでしょ……)ワンダは思った。


 しかしその言葉を聞いて、頭を上げたツキルの顔は意外にも希望に満ちた表情だった。


「た、たしかに……」


「えぇ〜」


 ワンダは呆れた。


「よしツキル!今すぐにでも旅に!旅に出ようぞ!」


「よっしゃ!荷物全部燃えたから四秒ぐらいで支度できるぜ!!」


 こうして、三人は旅に出ることになったのであった。


……


 三人は宿から出て、田舎道を歩きながらこれからの事を決めていた。

 旅に出るのだ、計画はよく練らなければならない。


「え、私も?」


 こうして、三人は旅に出ることになったのであった。


「いや私も?」


「なんだ、いかんのならツキルは我のものだぞ」


 不服そうなワンダに、シニアが意地悪そうに言った。


「なっ!!……でも私一応公務員なんだけど……」


「辞めれば良かろうが」


「簡単にいいますけどね!」


「ワンダは来れないのか……俺、嫌われてるんだな」


 ツキルはそう言って大袈裟に肩を落とす。


「そんな事!……もう分かったわよ、なんとか理由を付けてみる」


「ほんとか!?ありがとう!!」


「ワンダお主ほんとにチョロいな」


「うるさいわね!」


……



「……フフフ」


 歩くツキル達を、後方の木影から覗く謎の影が一人。

 

「面白くなってきたわねぇ」


 その人物、”侵犯魔女”ソル・パーンは、背後にゆらめく人魂のような炎を弄びながら怪しげに笑い、消えた。



         続く


【ツキルの残り戦闘ステータス:91000】



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