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第六話「”十怪”vs運極漆黒便宜会」

『戦争だ』


 あひる様の一言を皮切りに、激しい戦闘の火ぶたが切られた。


……


「グジュオォ!!」


「さようなら」


 襲いかかる怪物に対し、ルナ・ピューターは左手に持った槍で、怪物の頭から爪先までを一振りに斬りつけた。


「グオ……」


 怪物の身体が動かなくなった。いかなる原理か、身体全体が氷漬けになってしまったのである。

 ルナは右手に槍を持ち替えると、動けない怪物の身体を氷の上から一突きし、耳元で囁くように言った。


「削除」


 氷漬けになった怪物は消え失せた。


「グァア!」

「グゥエ!」


 更にルナの前に立ち塞がる怪物達。


「グァ……グォッアァ!?」


 すると突然、怪物の一匹が激しく燃え上がり、一瞬で炭と化した。

 ルナは槍を構えて警戒する。そして怯む怪物達の背後から、大きな赤い西洋騎士風のロボットが、激しく炎をたぎらせながら彼女に近付いてきた。


「……炎械王メカニズ。ここで何をしているのです」


「お嬢には関係ねぇ。”あの人”の指示だ」


「……」


「じゃあな」


 メカニズはそう言うと、ルナを通り過ぎて別の戦場へと身を投じていった。


……


「神よ……我々、迷える子羊をどうか……どうか……」


 ヤクソクは戦場の中心で、ただ手を合わせて神に祈りを捧げていた。


「ギャァオオ!!」


 そんな無防備なシスターに、怪物が襲いかかる。


「ギャッ!?」


 次の瞬間、怪物はくの字に大きく曲がり、ワイヤーアクションのようにふき飛ばされた。そしてそのまま壁に叩きつけられ、中身を撒き散らしながら絶命した。


「………テメェ。祈りを邪魔してんじゃねぇよッ!!!!ぶち殺すぞクソ野郎!!!」


 ヤクソクは蹴りを食らわせた姿勢のまま、目を血走らせ、美しい顔を酷く憎悪に歪ませて怒鳴った。頭に巻いた白い鉢巻が風で揺れる。

 周りの怪物もそのあまりの豹変ぷりに戦慄した。


「…………ふぅ。あぁ、神よ……」


 ヤクソクは邪魔者がいなくなると、再び神へ祈りを捧げるのだった。

 

……


「……」


「はァッ!」


 ショウリとかにふくろうの闘いは、一進一退の攻防の中進んでいた。

 ショウリは迫る鋏を避け、剣で薙ぎ払いを繰り出す。かにふくろうは上半身を大きく逸らしてそれを避け、そのまま鋏と左手を地面に着くと、ショウリの薙ぎ払い後の隙を突いてカポエイラの要領で蹴りを繰り出した。


「ッ!効かんッ!」


 ショウリは肩へ鋭い蹴りを喰らうが、装備した甲冑と鍛えた身体の強度によりそれを受け切り、今度は逆さ姿勢で鋏を使えないかにふくろうへ剣を振り下ろそうとした。


「グッ!?」


 だがその時、ショウリの右肩が突然銃撃された。剣は空を斬り、かにふくろうはその隙に体勢を整える。


(スナイパーか……!)


……


「カラクモ!俺たちも戦おう!」ツキルが言った。


「ツキルくんはそこで一旦ワシらの戦いを見ておきなさい。ちょっと危険そうな連中じゃし」


 若返った身体でストレッチをしながら、カラクモは言った。

 

「さて……まずはあのデカブツをなんとかするかの」


 カラクモはこの戦を見下ろす巨体を見上げ、床に大きな亀裂を作りながら跳んだ。


『来るぞ。巨大グラトニー』


 グラトニーの肩に乗ったあひるは、凄まじい跳躍力で接近してくるカラクモを見下ろし、言った。


「問題アリマセン。殺ス……!」


 グラトニーは左手に持ったホールの天井を、そのままカラクモに投げつけた。


「!」


「ヒャッハーッ!!」


 大質量が迫るカラクモの前に、バチバチと火花の音を立てる男が飛び出てきた。


「戦は!!」


 それは爆発兄弟の弟、ケンだった。彼の頭から生える導火線には火が付けられており、火花の音はそこからだった。


「爆発だァ!!!!!」


 ケンが天井に飛び付いた瞬間、頭の導火線の火は発火点に到着し、凄まじい爆発が起きた。

 爆発は天井を跡形も無く吹き飛ばし、カラクモの前を塞ぐものは何一つ無くなった。さらに不思議なことに、爆風が一切発生しなかった為、カラクモは勢いを殺される事なくグラトニーの胸元へ飛び込むことが出来た。


「貴サマ」


「デカイだけじゃいかんなぁ」


 カラクモは人差し指をピンと立て、グラトニーの右胸に突き刺した。


「ッ!」


 グラトニーは驚いた。蚊に刺された程度の衝撃であったはずなのに、刺された右胸の中心から深々と亀裂が刻み込まれたのである。

 亀裂から血が噴き出すも、グラトニーは胸に力を込めてその溝を塞ぎ、止血した。


「ヤルナ……」


 カラクモはグラトニーの巨体を縦横無尽にパルクールし、手頃な高い足場に飛び移る。

 

「年寄りの知恵じゃよ」


 グラトニーとカラクモの視線が交差した。


……


「死ねぇえい!!」


「グギュバッ!!!」


 死ね死ねマンのパンチが怪物に炸裂し、怪物は木っ端微塵に爆発した。


「皆さん!見てますかぁーー!!今、皆のヒーロー!死ね死ねマンが、悪と闘っています!」


 死ね死ねマンは、【全国配信中】という文字が浮かび上がった携帯魔導書を片手に敵と闘っていた。


……



「うふふふ、どんどんかかってきなさぁい」


 ソル・パーンは赤熱した杖を振るい、大小の火球を次々を打ち出す。

 火球に撃たれた怪物は激しく燃え上がり、もがき苦しむ。


「ギャアァ!」


 ソルの死角外から怪物が飛びかかった。彼女は火球で応戦はせず、杖で怪物の攻撃を受けた。


「ギャッ」


 怪物が攻撃に使った両腕は、杖に触れた瞬間、バターのようにどろどろに溶けた。

 赤熱した杖は鉄をも溶かすほどの高温であり、ソルはその杖で怪物の頭を打ち据えた。

 怪物は原型の止めない頭部を無い腕で抑え、倒れた。


「歯応えがないわねぇ」


 ソルは更に火球を怪物の群れへ放り投げた。


「温い」


 その怪物の群れの中に、一際大きな体躯の赤いロボットがいた。炎械王メカ二ズである。

 メカニズは、放り投げられた火球をキャッチボールのように掴んでいた。


「あらぁ」


 ソルはニヤリと笑った。


「もっと熱く出来ねぇのか?」


 メカニズは拳の中で燃える火球を握りつぶし、手の甲から伸びる炎の剣をソルへ向けた。


……


「皆さんよく闘っていますね。さて、そろそろ我々も」


 オーダーマンは微笑を貼り付けた顔面で、対峙する男に言った。


「ええ、始めましょうか。良いショーにしましょう」


 その男は奇怪術師ソレハ・ショウ。


「ハッ!」


 ショウは懐からトランプを一枚取り出し、オーダーマンに向けて投擲した。

 オーダーマンは向かってくるトランプに対し、頭に乗せたベルを鳴らして言った。


「”オーダー”」


 その言葉を聞いたトランプは、くるりと方向を変え、主であるショウに襲いかかった。 

 

「!」


 トランプがショウの目の前で突然止まった。


「……手出しは無用です。”鬼赤子”キベンさん」


 空中で静止したカードの輪郭が、紫色に光っているのを見たショウは、後方にある揺籃に向けて言った。


「おんぎゃ」


 揺籠の中にいた角の生えた赤ん坊は、一声鳴いた。


……


 

「見てろって言われたけど……流石になんかしないとだよな」


 ツキルは周りの戦場を見渡し、どこか助けにいける状況は無いかと探した。


『おい、貴様』


「おわっ!?」


 そんなツキルの目の前に、何の前触れも無くあひる様が現れた。


『魔王を殺したというのはお前だな』


「いや殺しては無いけど……。その、何?」


『貴様を殺』


(あ、そうだ倒そう)


 ツキルはあひる様の脳天にチョップした。


『す』


 あひる様は身体を真っ二つに切断された。


『……あれ?再生できん』


『……』


 あひる様は冷や汗を流した。


『……』


『……』


『……』



『お”の”れ”に”ん”げん”ども”ぉ”お”ぉ”ぉ”お”ぉ”ぉ”お”ぉ”ぉ”お”ぉ”!!!!!』


 あひる様の身体は崩壊した。


「……よし」


 ツキルは誰に向けるでも無くガッツポーズをとり、はにかんで言った。


「やったぜ!」

 

『貴様……ただではすまぬぞ!!』


「え、どこから言ってんの!?」


 身体は崩壊したはずだが、あひる様の声が天から降り注ぐように聞こえてきた。


「空!?」


 一瞬にして空は暗雲に覆われる。そして雲の奥から、魔法陣で覆われた巨大な砲台が姿を現した。


「なんじゃあれはっ!?」


 グラトニーと交戦していたカラクモはその異様な光景に驚いた。


『我も終わりだが貴様らも終わりだ……!喰らえッ!!超!弱体化砲ッ!!!!』


 巨大な砲頭に、毒毒しい光が溢れ出す。

 そして発射された弱体化魔法砲は、”十怪”やツキルだけではなく、便宜会までも巻き込むほどの範囲を対象にしていた。


「弱体化だって!?」ツキルが言った。


「む、これは少々……。ツキル君!?」


 カラクモは目を疑った。打ち出された弱体化砲を、ツキルはその場から飛んで一身に受けたのである。


「何をッ!?無茶じゃ!!」


「うおぉおおぉおお!!!」


 光線がツキルの身を包み、急速にステータスを奪っていく。


(こ、これは……)


 ツキルは光線を全て受け切ると、ゆっくりと着地し、うなだれるように地面に手をついた。


「大丈夫か!?」


「オ前ノ相手ハ私ダ」


 心配するカラクモに、グラトニーが巨大な拳で攻撃を繰り出す。


「くっ!ツキルくん!そのままじっとしておくんじゃ!」


 カラクモはグラトニーとの戦闘へと戻らざるおえない。彼は拳を避け、グラトニーを倒すことを優先した。


        続く


【ツキルの残り戦闘ステータス:?????】


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