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第ニ話「なんかすごい魔法」

 燃え盛る街の中、青年と魔王の戦いはいよいよ終盤を迎えていた。


「フハハハハ!我に楯突いたこと、一生墓場で後悔するがいいわ!」


「来い!魔王!」


(力が……みなぎる)


 魔王アビシニアの身体は、ツキルからステータスを吸収したことによって、更なる力を手に入れていた。

 

(ステータス99999だと?そんな数値はありえぬ、先程の文字化けといい、魔力表示板の故障だろうな)


 アビシニアの巨体は次第に黄金のオーラに包まれる。神々しい光を放つその姿は、魔族でありながら、まるで天使。


(貴様の力を吸収できたのは思わぬ収穫だったわ)


「眩しいなおい!」


「私の力は既にこの世の全ての生命を超えた。過ぎた行いを悔い、そして地に還れ」


 魔王アビシニアが口を開けた。そこから放たれたのは、まさに絶望。圧倒的なまでの破壊力、スピード、魔力をもった魔炎が、ツキルに迫る。


……


「なに、あれ……」


 箒を全速力で飛ばし、やっとの思いで街へ着いたワンダが見たのは、絵画の一枚のような光景だった。

 神々しい光を放つ、山のような巨体の怪物。そして対峙する、あまりにもか細い青年。怪物の口から放たれる魔炎は、彼を包み込むだけにとどまらず、この世界をも焼き尽くすのではないかと思えるほど恐ろしい。


(私の力じゃ、こんなのどうしようも……ごめんなさい、ツキルくん。ごめんなさい、みんな。私はまた、何も守れなかった――)


「うわー服が燃える!?く、食らえーーー!なんかすごい魔法ーーッ!」


 ツキルは炎に襲われながらも手を合わせると、そこから星のきらめきのようなビームが発射された。


「グワハハハそんなもの効かワァグヒヘボタルジグァァアァアァア!!!!?!?!?!」


 きらめきビームは魔王アビシニアの放った炎を容易くかき消し、そして魔王の身体を貫き、空へ。


「やったぜ!」


 赤く染まった空にビームの光が投じられると、光の中心から爆発するように青空が広がった。そして空からは次第にきらめきが降り注ぎ、それは地上の炎や魔物を消し去り、浄化していった。


「え、何これ?何が起こってるの?」

 

「あ!おーーい!ワンダーーー!」


 ツキルは崩れ去る魔王の身体も、快晴になった空も気にせず、箒に乗ったまま固まっているワンダを見つけると、自慢げに声をかけて駆けつけた。


「なんか豆が鳩鉄砲食らったみたいな顔してるけど元気?」


「……元気よ。あと逆」


「なんか飯でも食べ行かない?」


「いや、今それどころじゃ……って!」


 ワンダはある事に気が付いた。そして顔を真っ赤に染め上げ、わなわなと震え始めた。


「?」


「あ、あな、あなた……!」


 ツキルは全裸であった。アビシニアの魔炎によって、肉体は無事だったものの、服は全て燃えてしまったのである。

 

「きゃーーーーーッ!!!」


「おーーーい!?」


 ワンダは目を閉じたまますごい勢いでその場を離れていってしまった。

 ツキルはここでやっと全裸の自分に気が付き、少し冷や汗をかいた後、着る物を探しに廃墟と化した街を駆けていった。


……


『一体何がありました?』


「うーん、その、ね、何ていうか……」


 ワンダは街外れにある森で、救助科へ見たことをそのまま報告した。

 ツキルという青年が、魔王を単身で倒したこと。その一撃が、あっというまに火災も魔物を打ち消してしまったこと。


『なるほど、にわかには信じがたいです』


「でしょうね……」


『ですがあなたの言う事です、信じましょう。二日後、ツキルさんには事実確認のため政府本部まで来てもらうことになると思います』


「え、でもツキルにどうやって連絡するの?多分通信できるものなんて持ってないと思うけど」


「ワンダさん、あなたには期待していますよ」


「えっ!ちょっ!……切れちゃった」


 ワンダは困り果てた。自分から離れてしまった為場所が分からないのもあるが、何よりあのあられもない彼の姿が脳裏に焼き付いて離れない。


(まだ服着てなかったらどうしよう……)


 ワンダはそんな考え事に夢中になっていた為に、音を殺して近付いてくる影に気付けなかった。


「ッ!?」

「グォオッ!」


 影の正体は異形の魔物だった。鎌のようになった腕を使った素早い一振りが、ワンダの脇腹へと決まった。


(魔物の生き残り!?こんなタイミングで!)


 ワンダは吹き飛ばされ、地面に転がった。かろうじて立ち上がると、切り込まれたバッグからずたずたになった魔導書がずり落ちた。


「グルォ……!」


(なんとか不意打ちはバッグで防げたけど……次はない。でも、吹き飛ばされた衝撃で身体がうまく動かない!魔導書も使い物にならないから魔法も使えない!つまり)


「グォオッッッ!!」


 魔物がワンダに飛びかかる。


(まずい!)


 ワンダは死を覚悟した。






「邪魔するぜ嬢ちゃん」






「グルォッ!?」 


 ワンダが目の前へ突然現れた男に気付いた時には、既に勝負はついていた。

 首を失った魔物は、身体が砂のように崩れ、倒れ伏した。


「誰……?もしかして、ツキル?」


「誰じゃそれ。ワシは……まぁええか」


 振り返った男は白髪が特徴的な、鋭い眼光の若者だった。

 彼は手についた砂を払いながら、驚いてしりもちをついてしまったワンダへ手を差し伸べた。


「ほとんど消滅したとはいえ、この辺もまだまだ危険なようじゃのう。お前さんも早く逃げたほうがええ」


「あ、ありがとう……ございます。あなたは一体」


 ワンダは手を取って立ち上がった。若い男は腰に手を当てて空を見上げた。


「はぁ、しかしとんだくたびれ儲けじゃったわ、あの青年がぜーんぶ一人で片付けおって」


「あ、あのー……」


「じゃあな子娘。すぐにまた会うじゃろうて」


 そう言い残して若い男は、森の奥へと消えていってしまった。


「あのー……」


 一人残されたワンダは、とりあえず落ちた箒を手に取った。


(もしかして私って存在感薄いのかな……)


(まぁでも、命助かったし、ちょっと話し聞いてもらえないぐらいわけないか、ないよね、うん)


(ていうかなんであの人老人口調なんだろ)


「…………フーッ……」


 くよくよ考え込んでも仕方ないので、ワンダは一秒で心を入れ替えると、ツキルの捜索へ出向くのだった。


「さぁ、行くかな!」


……


 数時間後、ワンダは被害のあった街から最も近い繁華街の上空を飛んでいた。

 すっかり夜も更けたが、店の灯のおかけで道は明瞭である。

 ここには被害が及んでいないが、流石に近くで魔王が暴れたとあっては繁華街の夜と言えど人通りは少なかった。


(破壊された街にはいなかったし、この周辺をしらみ潰しするしかないかしら)


「ねぇお兄さん、安くしといてあげるから寄っていってよ〜」

「いや、その、おれは別に」


 一方その頃同じ街で、拾ったボロ布を身に纏ったツキルは怪しいお店の客引きに捕まっていた。


「もう、ほらほら遠慮しないで〜?」

「ほんとにお金ないしごめんなさいごめんなさい」


 客引きはさらりとした赤髪に猫耳を付けた、やや露出の多い格好をしており、躊躇なくツキルの腕に抱きついて店の中へと誘おうとしている。

 結局店へと強引に引きづられながら、ツキルは思った。


(やばい、こっちにきて最大のピンチかも)


「……あっ!あのボロ布の人、もしかしてツキル!?」


 ワンダは上空から、店に引っ張られていくツキルを見つけた。


「!………」


 ワンダはすかさず声をかけようとしたが、引っ張っている売り子の格好と、店の怪しい雰囲気に気付き、今はもしかして話しかけない方がいいのではないかと直感的に思ってしまった。


(でも、ここでまた逃したら探すのに手間が……二日後までには連れてこなきゃだし)


「……どうしたもんかな」


……


「さぁさぁお兄さん入って入って、今日は特別に私が相手しちゃうんだから」


「ちょっとちょっとほんとに勘弁して」


「そう照れるでない!」


 売り子はツキルの手を引き、店の奥の個室へと半ば強引に連れ込んだ。

 そこには大きなベッドが一つ。電球は点いておらず、光源といえばベッド脇に立てられたろうそくの火が二、三本灯っているだけである。


「さぁこっちに座って♡」


「あの僕ほんとにお金持ってなくて」


 ツキルは売り子に腕を組んだままベッドに座らせられ、売り子自身もその隣に座った。


「それは残念〜♡それじゃあ……」


 売り子はさらに身体をツキルに密着させ、後ろ手で机の引き出しから何かを取り出した。


「三途の川の渡賃が払えぬなぁっ!!!」

 

 取り出したそれは、ぎらりと光るナイフであった。


「!?」


……


「結局店の前まで来ちゃったけど……」


 ワンダは店内へ入るかとても悩んでいた。

 そして彼女が店の前で犬耳をぴんと立てたりしょげたりさせながら、もじもじと苦悩し続ける様は周りの視線を集めていた。


(これじゃ変な誤解されちゃうわ)


 そしてワンダは結局、道の反対側の壁にもたれて座りこんだ。


「よし、待とう」


 彼女に勇気は無かった。


……


「死ねい!知夏拉ツキル!死ねい!」


「ウワーッ!」


 その頃、ツキルと売り子のいる薄暗い部屋は修羅場と化していた。

 ツキルは売り子が振るった刃の届く前にベッドから飛び上がり、彼女との距離をとった。


「何すんだいきなり!」


「ふん、貴様。まだ私の正体に気付かぬか?」


「誰だ!お前みたいな猫耳生やした美少女知らんわ!」


「何を失礼な事を!!私は、魔王サタン・アビシニア!貴様の宿敵であるぞ!」


 沈黙が流れた。

 ツキルは今日戦った魔王の姿を思い出してから、目の前の猫耳少女を見つめた。


「ちょっと、なんで黙るのだ?」


「……」


 少女の身体を、下から上へと舐めるように見るツキル。

 黒ヒールを履いた足から、傷一つ無い綺麗な脚が伸び、下着は見た目の幼さには少々合わないほど派手で、白いしっぽが付いている。へそ出しのぴっちりとした露出の多い服。手には黒の革手袋をはめており、さらりとしたショートの赤髪の上には猫耳が鎮座している。


「……辞めんか!そんなに、乙女の身体をまじまじと見るとは……!なんと度し難いっ!」


「……」


「……その、照れるでないか……うぅ、何のつもりだ!ニンゲンっ」


 そしてツキルは、結論を出した。


「よしっ!!!!!!お前は誰ですか?」


「っ貴様っっ!!!人の身体を見るだけ見ておいて何だそれはぁーー!!!」



         続く












「へっくち!外、結構冷えるな……」




 


 【ツキルの残り戦闘ステータス:99999】








Xやってます→@dendendanger7

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― 新着の感想 ―
ありがとうございます。十分ニヤニヤさせていただきました♪ 星をお送りしますが引き続き拝読します。 そしてワンダちゃん、大丈夫ですよ。あなた存在感はバッチリです。単に周囲にバケモノみたいな存在感がいる…
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