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第十四話「集結」


「酷いな……これは」


 魔法陣から現れたショウリは、街の悲惨な状況に思わず眉をひそめた。至る所から火の手が上がり、悲鳴の声が街を包んでいる。

 ショウリの脳裏に、魔王の襲来によって壊滅したカイサ街の光景が浮かんだ。


「さぁ、一仕事だッ!」


 だがこのイタヤ街に、同じ末路は辿らせない。

 彼は重厚な鎧を着ているとはとても思えない軽い身のこなしで、破壊された建物の壁から壁へと縦横無尽に飛び移り、空中を移動している”元凶”へと向かっていった。


 一方、死ね死ねマンを倒したゆうたは、衝動の赴くままイタヤ街で破壊の限りを尽くしていた。

 

「壊れろぉ!!!ぼきに跪けよぉ!!!」


 手から光球を出し、あるいは光線を乱射し、または拳で粉砕し、街の歴史を瞬く間に石クズに変えていくゆうたの姿は、無力な者にはただただ恐ろしい悪夢である。


     

  だが、”彼”にとってそれは悪夢ではない



「君がこの街をッ!」


「!」


    待ち望んでいた強大な敵



「誰だてめぇはぁ!!」


「私はショウリ!君を倒しにきたッ!!!」



   乗り越えるに値する試練なのだ



「ぼきに……逆らうんじゃねぇよぉ!!!!」


 空を飛ぶゆうたに対し、建物の煙突から高い跳躍力を持って接近したショウリ。

 剣を振り下ろそうとする彼に、ゆうたは素早く手をかざす。


「ッ!?」


 その瞬間ショウリは、まるで土から這い出てきた巨人に捕まれ、渾身の力で引っ張られているような感覚を覚えた。重力魔法である。


「これしきッ……」

 

 ショウリは重力に全身を押さえつけられながらも、そのたぐい稀なる筋力で手を伸ばし、ゆうたの腕を掴む。


「てめぇッ」


「お前もこい!」


 直後、ショウリはゆうたを道連れに地面へと急速に落下した。

 舗装された石の道を瓦礫片に変えながら、二人は通りへと盛大に着陸。舞い上がる砂煙が晴れると、ゆうたとショウリは互いに剣を交えた状態で拮抗していた。


「上等だねぇ!ぼきがぶち殺してやるよぉ!!」


「やってみろッ!!」


 ゆうたは魔法で作り出した漆黒の剣で、ショウリの剣を押し返す。 

 対するショウリは、何の変哲も無い剣を気合と根性で強化し、漆黒の剣を押し返す。


「死ねよぉっ!!」


 剣と剣が遂に離れ、拮抗が解かれた。ゆうたは漆黒の剣を薙ぎ払い、ショウリの胴体を切断せんと試みる。

 ショウリは咄嗟にジャンプし、斬撃を回避する。


「逃がすかよ」


 ゆうたはほくそ笑み、空中のショウリに手をかざして重力魔法をかけた。


「!」


 ショウリは先程と同じく、身体を地面に引っ張られる。だが彼もこの状況を予測していなかった訳では無い。


「決めるッ!」


「何を……」


 地面に引っ張る強力な力を利用して、ショウリはゆうたの脳天へ会心の剣撃を繰り出したのである。

 

 ゆうたは漆黒の剣で咄嗟にショウリの剣撃を防ぐが、彼自身の魔力の高さが仇となった。

 ショウリの剣は漆黒の剣を叩き割り、そのままゆうたの額へと迫ったのだ。


「!!」


 ショウリの剣はゆうたに直撃し、それによって発生した衝撃波が、辺りを駆け巡る。

 

 数秒の沈黙の後、地面にめり込んだ姿勢のショウリは、無傷のまま自らを見下すゆうたを見て乾いた笑いをこぼした。


「はは、流石に血ぐらいは流してくれると思ったんだがな」


「雑魚が。調子に乗んなよ」


 ゆうたは動けないショウリの頭へ介錯の一撃を叩き込もうと、腰を捻って拳を引いた。






「邪魔するぜ、兄ちゃん」





「!?」


 その時ゆうたの目の前に突如として現れたのは、白髪の初老。

 鋭い目つきが特徴的な初老の男は現れるなり、攻撃の予備動作中だったゆうたの脇腹を指先で素早く一突きした。

 

「おまッ……」


 それまで余裕の表情だったゆうたの顔が、ここで初めて曇る。突かれた脇腹から、赤い衝撃の波紋が彼の全身へと伝わっていく。

 ゆうたは素早く浮かび上がり、初老の男の動きに注意しながら、さらに上空へと飛んだ。

 

「助かりました……カラクモさん」


 ショウリはめり込んだ地面から身体を上げながら、助太刀をしてくれた男の名を呼ぶ。


「ええんじゃよ、思ったよりも早く来れてよかったわい」


 カラクモは腰に手を当てて、空へと退避したゆうたを見上げながら言った。


「彼は強い」ショウリは呟く。


「……お前さんの事だからあまり心配はしてないんじゃが、まだ戦えるよな?」


「もちろんですッ!」


 そう元気よく返事を返したショウリは、電流でも流されたかのように飛び起き、気合いを入れて闘志をまた熱く燃やすのであった。

 


_____



 その頃、一つの大きな隊列がイタヤ街へと向かっていた。

 

 これは側から見ると極めて異様な隊列だった。参加しているのは全て女性、さらに全員がシスター姿なのである。

 そんな宗教的な行軍を先頭で率いているのも、またシスター。


「皆、これは聖戦です。身を引き締めて挑むように!」


 リーダーの彼女は時折振り返り、背中を追うシスター達を鼓舞する。振り返る度に、頭に巻いた白い鉢巻が風に揺れた。 


 十怪の一人、”最強修道女”ヤクソク。


「「「「はい!」」」」


 このシスター達は皆、もとは行く宛の無かった孤児である。同じく幼少期に親を無くし一人で生きてきたヤクソクは、彼女達を引き取り、買い取った廃教会に住まわせた。


 彼女らは一般的な宗教組織ではない。明確な上位存在はおらず、あるのは漠然とした概念の”神”。それはこれまでの人生を突き進んできた己の意思自体であり、『道を切り開くのは結局自分の力』というヤクソクの考えに基づいている。


「やりましょう」


「倒す……いや、殺す」


「殺す!」


 シスター達は行進しながら、口々に戦意を声に出す。

 殺気を漂わせたヤクソクの屹然とした後ろ姿に士気が高まり、声は大きく、そして言葉はより直接的なものになっていき、やがてそれは一つの言葉の大合唱になった。

 


「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」

「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」「ぶっ殺す!」



_____



「……どういう事だ」


 空中のゆうたは、自分の身体に起こっている現象に驚いていた。

 カラクモの攻撃によって、これまでダメージなど受けることのなかった彼の身体に、初めて衝撃が伝わった。 

 しかもそれは身体を蝕む病のように、まだ身体を揺らし続けているのである。


(痛い、のか?なんだ……これは?)


 脇腹から広がる赤い衝撃の波紋。


(違う。これはダメージではない)


 ゆうたの身体は、その波紋を受け入れつつあった。


(これは……成長)


 その瞬間、ガラスが割れるように、ゆうたの身体から何かの破片が爆散していった。

 そして、ゆうたは己の肉体が進化した事を知る。赤く発光する筋骨隆々な肉体は、最早薄暗い部屋でパソコンを叩いていた田中ゆうたとは別人と化していた。


「……」


 ゆうたは地上にいるショウリとカラクモを見下し、鼻で笑うと、その場から凄まじい速度で急降下した。


「来るぞショウリくん」


 奇妙な形に指を開いた、特殊な型の拳を構えるカラクモ。


「はいッ!」


 ショウリは剣を構え、果敢に飛び上がって降りてくるゆうたを迎え撃った。

 無論何か勝算があるという訳ではない。これまでもショウリは、その圧倒的なフィジカルをもってただ敵にぶつかり、そして粉砕してきた。


「愚かだな、学習しないとは」


 だがこの日の敵は、

 あまりにも規格外だった。


「それほどでもッ!!」


 ショウリは眼前に迫ったゆうたに剣を振り下ろす。

 ゆうたは指二本で刃を掴み取り、手首を軽く捻ってそれをへし折った。


「面白くもない」

 

「く……!」


「年寄りもおるぞ、若造」


 ゆうたの背後に回り込んでいたカラクモは、拳を繰り出しながら言った。


「……お前達では、私には勝てぬ」


 ゆうたは確認する事もなく、背後に赤く発光した腕で素早く肘打ちを繰り出し、カラクモの胸を打った。


「ぐっ!?」


 カラクモは一直線に吹き飛ばされる。


「ッ!!」


 直後にショウリも腹に蹴りを受け、建物の壁に向かって吹き飛ばされた。


「ふん……」


 二つの場所から上がる砂煙を見下ろし、ゆうたは無感情に笑う。


「……どうなる?この世界で最強とされている”十怪”を、赤子の手を捻るように倒せる私は、一体どうなる?」


 ゆうたは赤く光る己の身体に力を込め、みなぎる力から、この世の全ての頂点に立った確証を得ていく。


「つまり私こそが純粋な最強として」


「そうはいかねぇのさ」


 突然、低い声がゆうたの背後から聞こえたかと思うと、彼の身体が少し揺れた。


「……?」


 ゆうたが目線を下ろすと、自分の心臓部から血濡れた刀が飛び出ていた。

 振り向いたゆうたは、何もない空間にくり抜かれたような穴がいつの間にか開いている事と、その穴の中で刀を突き立てている男の姿を見る。

 

「誰だ、お前は」


「天国で聞きな」


 着物姿の男はさらに刀を押し込む。

 ゆうたは刀を掴み取ろうと手を伸ばしたが、刃に触れようとした指が消え去った。


「何だ、貴様は?」


「俺はタイトウ。”葬慈刀番”って言った方が伝わるか?」


 タイトウは不敵な笑みをもって答える。


(おいおいおいおいこいつ死なねぇのかよ……!やべぇ)


 そして内心焦っていた。



_____



「ツキル!シニア!大変なの!」


「分かったから落ち着いてくれワンダ!」


 一方ヤコウ街では、ワンダが遂にツキルとシニアを見つけて合流した所だった。

 ワンダはツキルとシニアの肩を交互にこれでもかと揺らしながら、イタヤ街で起こっている事の重大さを熱弁した。


「……なるほどな。あと肩を揺らすのをそろそろ辞めてくれぬか、気分が悪い」顔を青くしたシニアが言った。


「あ、ごめんなさい」


 ワンダは我に帰って手を離し、バッグからワープ用の魔導書を取り出す。


「こうしてはいられないわ!今からイタヤ街へ飛ぶわよ!」


「わ、忙しい人だ……」ツキルは言った。


「あんたがゆっくりすぎるの!」


「我は腹が空いた」シニアも言った。


「ご飯なんて後よ!このパンで我慢して!」ワンダはパン屋の袋をシニアに押し付ける。


「む、満腹度が100になるぐらい美味い……」


「まぁ俺はもう準備満タンだけどな!」


「目標イタヤ街。ワープ準備!」


 ワンダは魔導書を開き、三人の足元に魔法陣を展開した。

 瞬く間に光が三人を包んでいく。


「……」


 シニアはパンを頬張りながら、イタヤ街を破壊している人間の事を考えた。


(十怪が既に複数人やられている?にわかには信じ難い。しかも今になって……そのような力を持っていて、今まで潜伏していたというのも妙な話)


 シニアはツキルをチラリと見る。


(……もしも、もしもそ奴が、ツキルと同じような経緯で力を手に入れた人物だとしたら)


「なんか燃えてきたぜ!」


(ツキルは、勝てるのか?)


「さぁ、飛ぶわよ!」 


 ワンダがそう言うと、三人はヤコウ街から完全に姿を消し、戦場と化したイタヤ街へとワープしたのだった。


 




続く


 


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