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第十二話「死」

「ふん、雑魚が粘りやがって」


 ゆうたはボロボロになったルナを、ゴミのように投げ捨てた。


「お前には聞きたい事があるんだよぉ」


「……」


 槍を手放し、身体の欠損箇所から放電し、ピクリとも動けないルナ。


「”十怪”なんだろ、お前?クソ弱いけど」


「ここに来て色々調べた。ぼきに舐めた真似をしやがった”魔女”もその十怪だってな」


 ゆうたはルナに歩み寄る。


「そいつの場所を教えろ」


「辞めてくれ!!」


 その時、ジフォノがゆうたの前に転けながらも滑り込み、ルナを庇い立ち塞がった。


「はぁ〜?」


「……!」


 敵わない事など分かっている。


 だがそんな無力なジフォノを動かしたのは、ただの蛮勇ではない。古く霞んだ夢だった筈の、家族愛であった。


(……)


 霞んでいく意識の中、ジフォノの懇願する声がルナの脳内に反響する。


「私の、娘なんだ……!頼む、お前も同じ人間なら、見逃してくれ、見逃してくれ!!」


 プライドもかなぐり捨てて、土下座で慈悲を乞うジフォノの姿を見て、ゆうたは声をあげる間も無く消された母親を思い出し、ぶつけどころの無い怒りを覚える。


 いや、ぶつけどころはあった。


「や、やめ」


 目の前の哀れな男だ。


「死ね」



_____


 

 ヤコウ街を歩く、やや疲労した顔の青年と、二人の少女。

 ツキル、シニア、ワンダの三人だ。


 街路を歩くだけで周りからツキルを呼ぶ声や、どこで売ったのかも分からない恩に感謝する声で、彼らは歓迎される。


「ツキルもすっかり人気者になったわね〜」


 ワンダは上機嫌そうに、ツキルの背中を叩いて言った。


「知名度に比例して疲労度もすごいんだけど……」


 どこへ行っても頻繁に握手を求められる為、ツキルは疲れていた。


「ツキルの強さが皆に知られてきたのだな」


 シニアはそんなツキルを見て愉快そうに笑う。


「……あれ?ねぇツキル。その宝石って買ったの?」


 ワンダがツキルが首に下げている白い石に気付いて言った。


「え、これ?なんか魔女みたいな人に貰った」


「ん、よく見たらただの宝石じゃなくて魔法が閉じ込められてる。魔力石なのね」


 石をあらためてワンダは言う。


「魔力石?」


「魔力石って言うのは石に予め魔法を閉じ込めておいて、後で”解除”っていうスキルを使って魔力を消費せずに魔法を使うためのものよ」


「へぇー!どうやっても使えないから、とりあえず身につけてたぜ」


「何の魔法が入ってるの?」


「弱体化だろう」シニアが言った。


「ご明察」ツキルは人差し指を顔の前で立てて認めた。


「あんたほんとに筋金入りね……」


「ワンダ、解除っていうのお願いしていいか?」


「え、嫌よ。魔力石を解除したら、本人と周囲にいるものに魔法が降りかかるんだから。自分で解除しなさい」


「え!そうなのか……俺、スキル何も持ってないんだよ」


「え?そうなの?」


「ステータスだけおかしくされたからな」


「まぁ”解除”のスキルぐらいなら、その辺で売ってる魔導書を読めばツキルなら身につけられるであろう」シニアが言った。


「よっしゃ!!勉強するぜ!!」


「スキル……」ワンダは呟いた。


「あ、ツキル」シニアが思い出したようにツキルを呼ぶ。


「ん?」


「ちょっと二人で話したい事があるのだが」


「ああ、いいぜ」


「ツキル……スキル……」


 神妙な顔をして何かを呟き続けているワンダを置いて、ツキルとシニアは道を曲がって路地へと入っていった。


「ツキル、スキル……ツキルスキルツキル……ふふ、あはは!ねぇみんな――ってどこ!?二人ともどこに行ったのよ!?」


_____



「自分自身に弱体化の魔法が放てればこんなに苦労することないんだけどな〜」


「……ツキル」


 ある程度進んだところで、シニアは立ち止まった。


「どうした?」


「一つ、聞きたい事があってな」


 シニアは話を切り出す。


「この前、伝説のドラゴンを採取の片手間に倒した事を覚えておるか?」


「……ああ」


 ツキルはその一言で、シニアが何を言わんとしているのかを察した。


「あの時、麓に住んでいたという村人に感謝されておったのを見て、ちと調べていてな」


「魔蛙ケロベロス。あれが現れた沼地には、ギルドに対して依頼も出せないほどの小さい規模の村が近くにあった」


「……」


「代行神サファイ。あれが現れたという古城も後の調査で、人間の兄妹が中に住んでいた事が分かった。サファイ降臨儀式の副産物により結界が貼られ、生贄として連れてこられた二人は幽閉されておったのだ」


「逆に、周りに被害が及ばない禁足地などに現れたモンスターに対しては、近くで採取クエストがあっても倒しに行かない」


「つまり、お主は”安いクエストを受けている最中の事故”という建前で、強力なモンスターの討伐に出かけている」


「バレてたか」ツキルは苦笑いで認めた。


「当たり前であろう!報酬を受け取らない為に、そこまで回りくどい事をしておるとは!」


 シニアはツキルに詰め寄る。


「教えてくれ、何故そのような事をする?何のメリットがお主にあるのだ」


「……この力が、俺のものじゃないからだ」


 ツキルの揺るぎない決心した表情で言った。


「俺のものじゃ無いものを振り回して、自慢して……人に恩を売るなんて出来ない」


「ツキル……」


 周りからは普段から何の気兼ねも無く力を振るっているように見えたツキル。だがその実、己の物ではない力を振るう罪悪感と、困った者を見過ごせないという根っからのお人好しの狭間で苦悶していた事を、シニアは知った。


「何を言うておる」


 シニアは笑って、ツキルの胸をとんと叩く。


「元魔王が教えてやろう。力というものは、使う者の考え次第で全く別の結果を生む」


「ツキルが我を倒した魔法を、そのまま人の住む国に放てば、そこは一瞬で崩壊してしまうであろう。だがお主は人々の安寧を脅かす我に対してその力を振るった。それは、他ならぬ善意が心中にあったからではないのか?」


「……俺は……」


「お主は力を持っているだけでは無い!善意や優しさというものを持ってここにいる。だから、感謝されることに罪悪感を感じることないではないか」


「……ありがとう」


 ツキルは小さく笑う。


「よし、いつか胸を張って人助けが出来るように、しっかり弱くならなくっちゃな!」


 ツキルは得意の切り替えで、しんみりとした表情からいつもの調子良い自分に戻って言った。


_____



「ふん」


 ジフォノ博士の研究所を後にしたゆうたは槍を片手に、特に明確な理由があるわけでも無いが近場の街を目指していた。


「ぼ、ぼきの旅はこれからだ。ナシャ、たんに会うまではねぇ」


 彼の当面の目的はあの謎の魔女を倒し、憧れの存在である「ナシャ」に相当する人間と出会う事。何も焦ることは無い、どのみち自分に勝てる存在などいないのだから。


 研究所内で実験体にされていた少女達は、全員が意識を失ったまま目覚めなかった為、ゆうたは放置した。

 しかしこの襲撃で得られたものは確かにある。それは彼にとっては珍しい玩具程度の価値でしかなかったが、ルナの持っていた槍「鼠」を強奪したのだ。


 本来適合者でなければ持つ事が出来ない「鼠」を、ゆうたが我が物顔で握っている理由は一つ。

 彼は「特殊能力無効【神】」そして「スキル吸収【神】」の二つのスキルを、転生時に身につけていたからだ。


 湿地を超え、短い森を抜けると、遠くにレンガ作りの建物が軒を連ねている大きな街が見えた。

 ゆうたは空に手をかざし、魔法陣を地面に描くと、一瞬で姿を消した。


_____



 赤レンガの建物が立ち並ぶ、モダンな雰囲気の街、イタヤ街。 

 ゆうたは魔法陣の中から、店の立ち並ぶ通りに姿を現した。


 そして彼は辺りを見渡す。


「あ……」


 通りを流れる人混みの中、彼は見つけてしまう。

 美しい女性。猫耳の似合う、まさに彼の憧れの女性「ナシャ」となれる素質を持った人物を。

 

「ねぇ、きみっ」

 

 ゆうたは考えるよりも先に、その美しい女性の腕を掴んで話しかけていた。

 彼女は凛とした目つきで、突然腕を掴んできた見知らぬ男を睨み付ける。


「誰ですか?あなたは」


「ナ、ナシャ、ナシャたんだねぇ!会いたかったよぉ!」


「は……?」


 美しい女性はゆうたの腕を振り払い、冷たい口調で言った。


「誰かと間違えていると思います。私、これからお見合いがあるので失礼します」


「ま、待ってよぉ!!おい、待てぇ!」


 ゆうたは背を向けて去っていく女性の後を追いかけ、肩を掴んだ。

 

「ッ!」


 女性はあまりの痛みに目を見開いた。ゆうたは自分の身体能力が常人を凌駕している事を忘れて、強く肩を掴んでしまったのである。


「ぁぐ……!痛い!痛い痛い痛い!!!誰か助けてぇ!!」


「なんだなんだ?」


「修羅場か?」


 女性の悲鳴につられて、何かあったのかと二人の周りを取り囲むように人集りが出来始める。


「ちょっと失礼するぜ」


 その時、ざわつく人集りを押し退けて、鎧を着た男がゆうたの前にずかずかと歩いてきた。この街にたまたま駐屯していた騎士団の隊長だ。


「少しオイタがすぎねぇか?」


 背の高い騎士団長はゆうたを見下ろし、威圧的に言い放つ。


「黙れ」


 ゆうたは細い腕で屈強な騎士団長の頬をはたいた。


「おッ」


 騎士団長の身体から頭が消え失せた。

 一瞬遅れて、窓ガラスの割れる音と女性の悲鳴が、ゆうたのすぐ左手にある喫茶店からこだまする。

 悲鳴を上げた女性店員の指差すカウンターには、白目を向いた団長の首だけが突き刺さっていた。


「きゃあああああっ!!!」


「何だ!?」


「とんでもねぇ奴が暴れてる!!」


「逃げろぉ!!!」


 恐怖はすぐに街中に伝播していき、ゆうたの周囲から蜘蛛の子を散らすように無力な人々は逃げていった。

 あの美しい女性も。


「ふざ、ふざけんなよぉ……!なんでみんな僕を慕わない!!!?!僕に優しくしないんだよぉ!!!!!」




「そこまでだ!」




「は?」

 

 高所から降ってくる自信に満ちた声。ゆうたは顔を上げて声の主を見た。

 煙突の上でマントをはためかせ、「死」という一文字だけが大きく書かれている仮面を付けた、どこかおかしい男。


「ふはははは!!悪党め!ここで悪事を働くなんて不運な奴だ。何故なら今この街には私、「死ね死ねマン」がいるのだからな!!」


 ゆうたを指差し、芝居がかった大声をあげる死ね死ねマン。彼は自己陶酔した様子で、煙突の上でなんと歌い始めた。


   戦え死ね死ねマン!〜悪を打ち砕くその時まで〜


 歌:死ね死ねマン

作詞:死ね死ねマン

作曲:死ね死ねマン


(イントロ)


さぁ 死の刻印を 拳に宿した


無敵の パンチ ここに見参(死ね死ねパンチ!)


暗い過去を引きずって 泣いているのなら

 

その記憶ごと 倒してしまおう


(死ね! 死ね! 死ね! 死ね!)


悪を許さぬその心は 凍てつく孤独の闘志と共に


さぁ 死ね死ねマン 悪をぶち殺せ!



「とうっ!」


 一番を歌い終え、高笑いをあげて満足した死ね死ねマンは煙突から飛び降り、ゆうたの前に着地した。


「……」


 ゆうたは酷く不快な顔をしながら、死ね死ねマンに向かっていく。

 対して死ね死ねマンは、拳を構えて彼を迎え撃つ。



「さぁ!かかってきたまえ!」



         続く



【ツキルの残り戦闘ステータス:90020】


 

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