表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/22

第一話「ステータス:æ–‡å—化ã 」

 燃え盛る炎が、街を包んでいた。


「ニンゲン共……貴様ら惰弱種族にこの地は勿体無いわ!」


 赤く染まった空からは、魔物の軍が次々と襲来し、カイサ街は壊滅の危機に瀕していた。

 この魔物軍を率いるのは、魔王サタン・アビシニア。山と見紛うほどの巨大な身体を有した化け物に、人々は恐れ、逃げ、そして殺されていった。


「おお、神よ……」


 燃え盛る建物の上で美しい女性が一人、手を合わせて何かに祈りを捧げていた。

 頭上では魔王アビシニアが恐ろしい眼差しで彼女を睨みつけている。


「ニンゲン、貴様も消してほしいか」


「私は滅びません。この胸のペンダントがある限り」


 魔王アビシニアは巨大な腕を振り上げた。するとその瞬間、女性のペンダントから眩い光が放たれた。


「これは我が家系に代々伝わる秘宝・マスカラべ。世界が窮地に陥った時、これを身につけたものを守護し、同時に災いを退ける力を与えるのです」


「それ隣に勇者いないと発動せんぞ」


「え」

「ふんっ」

「ぐひゃあ」


 しかし特に意味はなく、女性は無慈悲に潰されてしまった。


…………


「あちゃー……これはもう街は駄目だね」


 空を飛ぶ箒に跨った少女が、燃えるカイサ街の上空を旋回しながら呟いた。


「とりあえず避難できる人は全員避難させたはずだし、そろそろ退却しよーっと」


 そう言って少女は箒の向きを変えた。その時だった。彼女の犬耳がかすかな足音を聞き取り、ぴくりと反応した。


(あれ、まだ人がいる?避難し遅れたのかな?それにしては落ち着いた足音……)


 犬耳少女が音の方向へ振り返ると、彼女のかけた眼鏡に、一人の青年が映った。


「ええっ!何してんのあの子!?」


犬耳眼鏡少女は慌てて箒の舵をきり、少年の元へ飛んだ。


「おーーーい!」

「おーーーーーーい!」

「お”ぉ”ー”い!!」


 犬耳眼鏡少女が大きな声で三度呼びかけてやっと、青年は振り向いた。


「え、俺?」


「あなただよ!あなたしかいないよ!」


 青年はそう言われて血と炎だらけの周りを見渡し、今状況に気付いたといった様子で呟いた。


「あ、ほんとだ……」


(なんなのこの子)


 犬耳眼鏡少女は心底調子を狂わされていた。


「ていうか、あなた誰?」


「え、私?私の名前はワンダ・プレーリー。この街の避難誘導を任されて……って!そんな場合じゃないのよ!ほら早く乗って!」


「わ、忙しい人だ……」


「あんたがゆっくりすぎるのよ!」


 ワンダは内心、とても腹立たしく思いながらも青年を救出しようとしていた。

 いくら彼に危機感と共感性が欠けているとしても、見放して自分だけ逃げるということは、正義感の強い彼女にはできないことだった。


「あ、俺の名前はツキル。じゃあまた今度なー」


「馬鹿!そっちは危険よ!」

 

 ワンダが鬼気迫る表情で止めた。

 ツキルが今向かおうとした方向にあるのは、今まさに魔王アビシニアが破壊している街であったからだ。


「魔王と鉢合わせる気!?」


「うん」


「ほら分かったら早く……え、なんですって?」


「魔王に用があるんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ワンダは冷や汗が止まらなくなった。


「あ、あはは、冗談よね?自殺行為なんてもんじゃ」


「そろそろ行くわ!じゃあな!」


「えっ!ちょっ!」


 ワンダが手を伸ばした時には、ツキルは足跡だけを残してすでに視界から消えていた。


「うそ……」


 ワンダはあの無謀な青年の末路を想像し、己の無力を呪った。


(い、いやいや!何勝手に諦めてんのよ私は!まだ打つ手はある!)


ワンダは一秒で立ち直ると、肩にかけたカバンから魔導書を一冊取り出して、開いた。

 するとページから、「魔王対策本部 救助科」という文字が浮かび上がった。


「もしもし!もしもし!私よ!誰かいないの!?」


 ワンダが魔導書にそう呼びかけると、「SOUND ONLY」という文字が次に浮かび上がり、声が聞こえ始めた。


『はい、こちら魔王対策本部救助科。おやワンダさん、何かありましたか?』


「大変よ!なんかよく分かんない青年が魔王に向かっていっちゃったの!」


『は、それはそれは。では、救助隊の到着をお待ち下さい』


「なんの役に立つってのよ!相手は魔王よ!”大勇者ショウリ”はいつこっちに来るの!?」


『少し落ち着いて下さい。ショウリ様は……はい。あと数十分でご到着予定です』


「それじゃ間に合わない!」


『そう申されましても……”十怪”を動かす権限は我々にはありませんので』


「っもういい!」


ワンダはそう吐き捨てると本をパンと閉じ、カバンに押し込めた。


「何が救助科よ!これだからお役所仕事は!」


 そしてワンダは空を見上げる。数時間前までは快晴の、小鳥のさえずる青空だったそこは、見るも無惨に赤く染められ、代わりに悲鳴がこだましていた。そして遠くに見える巨大な怪物は、魔王アビシニア。


(……待っててね)


 ワンダは箒を強く握り、目の前に広がる地獄絵図へ、精一杯の勇気で立ち向かうことを決意した。


……


「ふん、所詮はこの程度か……」


 魔王アビシニアは焼け野原となった街を見下ろし、高笑いを上げた。しかし同時に、その恐ろしい顔にひとつ影が差した。内心、強い者と戦えるのではないかという期待があったからだ。


(向かってくる者すらおらぬか……やはり、私は)


その時だった。


「あんたが魔王?」


「!」


 一人の平凡な見た目の青年が、魔王アビシニアの目の前にいた。


「お前は……誰だ」


「俺はツキル。一つ願いを聞いてもらいに来た」


「願いだと?」


「ちょっっと待ったーーーーー!!!!」


 アビシニアとツキルの会話を、女性の声が遮った。


「え、どこから言ってんの?」


「ここ!!ここよ!」


 ツキルがきょろきょろと周りを探すが、声は近いのに姿が見えない。

 ふと足元を見ると、先程魔王に潰されていた美しい女性が頭だけを地面から出して叫んでいた。


「何してんのお姉さん!?」


「半身浴よ」


「浸かりすぎでしょ!」


「おい、貴様らふざけるのもいい加減にしろ」


 魔王アビシニアが口から蒼炎を燻らせながら二人に顔を近づけて威圧する。

 美しい女性はその視線を受け止めると、ニヤリと笑ってツキルに言った。


「あなたが勇者ね!私先祖代々受け継がれる伝説のペンダントがあるんだけど、それの効果の発動には勇者が隣にいる必要があるの!つまり今がその状況ってこと!これの力が解放されれば絶対あの魔王を倒せるわ!良かった!私ずっと夢見てたの!花嫁修業ほったらかしてずっとファンタジー読んでた甲斐があったわ!さぁ、私と共に世界を救いましょう!」

 

「俺勇者じゃないよ」


「え」

「ふんっ」

「ぐひゃあ」


 しかし特に意味はなく、美しい女性は無慈悲に潰されてしまった。


「……助けないとはな、ニンゲン。確かに言う通り勇者ではないようだ」


「多分生きてんだろあのお姉さん」


 その時美しい女性は土の中で後悔と共に婚活を決意していた。


「さて、ニンゲンよ……次は貴様の番だぞ」


「ふっ、待てよ。その前に俺の願いを聞いてもらうぜ」


「願いだと?グフハハハ!人間を殺すな、か?無理な話だ!」


「違うな」


「ではなんだ」


「願いはただ一つ……!俺を!!」







「弱体化させてくれ!!!」






「……は?」


 予想外の一言に魔王アビシニアの手が止まった。


「俺を、弱体化させてくれ!」


「いや聞こえなかった訳ではない……何?弱体化だと?弱体化して欲しいのか?わざわざ?」


「ああそうだ。ドレインでもいいぞ」


「何を訳の分からないことを……ハッ!」


 その瞬間、魔王アビシニアはツキルの全身から放っている強者のオーラに気付く。


(なるほどな……わざと混乱させるようなこと言って、その隙を突こうという魂胆。見抜いたぞ!)


「グ、フフハハハ!!!グハハハ!!」


「……あのー、OK?」


(こいつ、私の力をみくびっているな!私は魔族の王!弱体化やドレインのような基本魔法、極めて極めて高め尽くしたわ!ここは素直に話に乗ってやるフリをして、あいつの魂を吸い取ってくれる!)


「いいだろう。ところでニンゲンよ、貴様のステータスはいくつだ」


「あ、えとねー!あれだ、なんだっけ?そうだ!ステータスオープン!」


 ツキルがそう宣言すると、彼の頭上に大きい半透明な枠が現れ、文字が表示された。


【ステータスオープン】


___________


名前:知夏拉 ツキル


レベル: 譁 �ュ怜喧縺�


戦闘ステータス: æ–‡å—化ã


スキル:無し


___________



「……何だこれは」


 魔王アビシニアは見慣れない文字列に首を傾げた。


「俺が聞きたいわ!なんか転生したと思ったらステータスこんなだし!何と闘っても戦闘にならないし!」


「まぁいい。ではお望み通り、弱体化ドレイン最上級魔法の”ムノイザナイ”をお見舞いしてやる……!」


「え!弱体化とドレインどっちも使えんのかよ!すげぇ!」


「後悔するでないぞ……!ハァァ!!」


 魔王アビシニアは巨大な右手をツキルにかざした。すると右手の中心から広がるように毒々しい光が溢れ、やがてツキルを覆った。


「うお!?うおお!!これすげ!すげぇぞ!なんか力が抜けていく感じある!」


「ウッ!ウォッ!ォオオォオ!!?」


 魔王アビシニアはかつてない力の奔流を感じた。それと同時に、激しい頭痛が彼女を襲う。


(な、なんというエネルギー量だ!?こいつ本当にニンゲンか……!?だが、負けられん!)


「頑張れ!魔王!頑張れ!もう少しでなんかいい感じになる気がする!頑張れ!」


「ウゥゥオ!!オォォォ!!!グォオォッ!!!」


「行けーーーーーっ!!!魔王ーーーーーーッ!!!!!!!」


「グッ!?」


 パシン、と鋭い破裂音。

 魔王アビシニアは頭を押さえながら後退り、指の隙間から未だ仁王立ちしているツキルを見た。


(こいつ、まだ立っているだと……!?我が魔物生の全てを捧げたというのに……!)

 

「え、もう終わり?」


「貴様……!」


「まぁいいか!なんか手応えあったし!よし、ステータスオープン!」



【ステータスオープン】


___________


名前:知夏拉 ツキル


レベル: 999


戦闘ステータス: 99999


スキル:無し


___________


「……」


「……」


「文字化けが治った……」


「であるな……」


「……」


「……」


「これ以上はできない?」


「もう限界だ」


「そっか」


「……」


「……」


「よし!今からお前を退治してやるぜ!」


「その精神の切り替えは賞賛に値するぞ」



         続く


【ツキルの残り戦闘ステータス:99999】



Xやってます→@dendendanger7

更新情報などこちらで上げてますのでよかったらフォローお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
めっちゃ笑った!ツキルのぶっ飛びすぎる言動と魔王とのズレたやり取りが最高。弱体化で強化される展開も斬新すぎてツボった!テンポもノリもよくて、この先どうなるのか気になりすぎる!
思わず吹いてしまったwww
この度はフォローいただきまして本当にありがとうございます。 拝読に参りました~! 宜しくお願い致します♪ ノリが良いですね〜♪ ツキルもワンダも魔王も婚活を決めたお姉さんも(笑 楽しいです♪ 文字…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ