(9)
仰々しい答えと共に優雅に一礼する孤星の言葉に、宇晨は「おい、待て」と反論する。
「誰がいつ朋友になっただと?」
「同じ家で寝食を共にしているだけでなく、二度も命懸けで共に戦った仲だ。これはもう朋友といって差し支えあるまい。いや、朋友どころか百年の知己と言っても過言では……」
「何が知己だ。お前はただの居候だ」
「冷たいことを言うでない、宇晨。今朝は私の作った粥を、うまいうまいと褒めて何杯もおかわりしていたではないか」
「なっ……誇張するな! そんなに褒めてはいない」
「顔から伝わってきたのさ。そう、親友に言葉は必要ない、心で通じ合うものであり……」
「勝手な解釈をするな!」
宇晨が声を荒げると、傍らで咳払いの音がした。孟開だ。
「……さて、白殿の了承も得たことだ。白殿。明日、宇晨と共に耀天府まで来るように」
「承りました」
孤星は拱手した後、「それでは失礼」とさっさと部屋を出てしまう。残された宇晨はといえば、居た堪れなさに己も出て行きたいところだったが、居住まいを正して孟開に頭を下げる。
「その……申し訳ありません。孟伯父の前で失礼をしました」
「いや、構わん。落ち込んで静かにしているより、ああやって怒っている方がお前らしい」
孟開は目を細めて、孤星が出て行った扉の方を見る。
「久しぶりに、お前が誰かと言い合う姿を見たな」
「あれは彼がくだらないことや気に障ることをいちいち言うからであって、別に好きで言い合っているわけではありません。そもそも景引や耀天府の者達とだって、言い合いくらいはしています。孤星が特別というわけではなく……孟伯父、笑わないで下さい!」
宇晨のしどろもどろの言い訳に、孟開はくつくつと笑いを零していた。頬を赤くする宇晨に、孟開は悪かったと謝って肩を軽く叩く。
「元気が戻ったようで安心しただけだ」
「孟伯父……」
「この十年、私や林芳殿が厳しく言い過ぎたせいか、お前は自分を律することに慣れてしまったからな。近頃はあまりに大人し過ぎて、少しばかり不安に思っていたくらいだ。今ぐらいのお前が、ちょうどいいと思うぞ」
孟開は机に近づき、孤星が置いていった茶を飲み干す。そしてその足で戸口へと向かった。
「休みの日に済まなかったな。明日は夜中まで宮城にいることになるだろう。今日はしっかりと休め」
「はい」
孟開の気遣いに頷きつつ、彼を門まで見送った。大きな背が遠ざかっていく中、宇晨の心の奥底はさざ波のように揺れて小さな不安が顔を出す。
今日はゆっくり休めそうにないと宇晨は重い息を吐いた。




