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 その後、天門観は閉鎖された。

 修行していた道士達はそれぞれ元の門派の道観に帰ったり、諦めずに新たな洞天を探すために都を離れたりする中、一人の青年が路頭に迷っていた。


「さて、これからどこへ行けばいいのか……。ねえ、私はどうすればいいかな、小晨」

「その名で呼ぶな。もう師弟ごっこは終わりだ」


 事後処理がひと段落したのを見計らったように耀天府へ押しかけてきた孤星を前に、宇晨は苦虫を嚙み潰したように顔を顰めた。


 ――今朝方、耀天府の中庭に突然現れた彼のせいで、ひと騒動起きるところだったのだ。

 最初に見つけたのが宇晨の班の者でよかった。『白い服を着た、とんでもなく綺麗な顔の貴公子が空から降りてきた』と報告を受けて誰だか分かってしまうのが、自分でも嫌になる。

 宇晨はすぐに駆け付け、笑顔で手を振ってくる孤星の首根っこを掴んで、己の書斎へ放り込んで何とか事なきを得た。

 部屋の外では景引や部下達が興味津々といった態でうろついている。「先日の事件の関係者だ」と説明はしたものの、孤星のことが気になって仕方ないようだ。頼んでもいないのに茶や菓子を持ってきたり、回廊の掃除を始めて覗いてきたりする彼らを、睨んで追い返した。

 それでもなお、聞き耳を立てている気配が伝わってくる。妙なことを孤星が言い出す前に追い返そうと、宇晨は素っ気なく手を振った。


「どこにでも行けばいいだろう。他の道観に行くなり、仙人の棲む山に帰るなり、妖魔の気配を追うなり、お前の好きにすればいい。早く出て行け」

「アイヨー、共に命懸けで大蛇と戦ったのに何とも冷たいことだ。君の命を何度も救ってやったというのにこの仕打ち。君がそんなに情義に欠ける男だったとは……」


 よよよ、と袖で目元を押さえて泣くふりをする彼に、宇晨は頭を押さえた。孤星が事件の解決に尽力してくれたのは確かで、それを持ち出されると弱い。


「……俺にどうしろと?」

「一宿一飯の恩義と言うではないか。命の恩人である私に、ちょっとした世話を焼いてくれてもいいだろう?」

「一宿一飯を押しかける恩人がどこにいる」


 大きく溜息をつきながらも、宇晨は考えた。

 ここで無理やり追い出そうとすれば、得意の弁舌で散々ごねるに違いない。それに、白孤星という男を野放しにしていても、今回のような奇妙な事件が起こればまた遭遇する可能性は高い。ならばいっそ、目の届く所にいた方がまだましだろうか。

 事件後の処理で忙殺されて疲労の溜まった頭は、それ以上考えることを拒否したがっていた。彼とのやり取りも億劫になってきて、宇晨は投げやり気味に答える。


「……黎家に、空き部屋が幾つかある。掃除も行き届いていないし、世話をする使用人もいないし、食事も出せないが、それでもいいと言うなら……」

「それはありがたい! 困っている者を捨て置けない君ならば、そう言ってくれると思っていたよ。いやあ、さすがは耀天府一の名捕吏! ああ、そこの君達。君達はとても素晴らしい上司を持ったね。羨ましい限りだよ」


 孤星は泣き真似をやめ、立て板に水を流すようにさらさらと口を動かし、ついには廊下で聞き耳を立てていた部下達にも話しかける始末だ。


「……」


 しまった、と選択を誤ったと後悔しても遅い。藪蛇もいいところだ。もう蛇はこりごりだと言うのに。

 宇晨の二度目の溜息は、上機嫌な孤星の声に搔き消されて誰にも聞こえることは無かった。




   第二話 洞天 完


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