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「どういう意味だ?」

「昨晩、宋道長が話していただろう。五行の話さ。木火土金水の五行には、それぞれ相性(そうしょう)相克(そうこく)がある。

 木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は気を生じる。お互いに生かし合う関係にあることを相性という。

 それとは逆に、水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つ……お互いを打ち消し合う関係が相克だ」


 孤星は木火土金水に見立てた五つの石を順番に円を描くように並べ、木の棒で矢印を描きながら説明した。隣り合うものが『相性』、二つ隣のものが『相克』になるようだ。


「それが甲の生まれとどう関係するんだ?」

十干(じっかん)は知っているだろう? (きのえ)(きのと)(ひのえ)(ひのと)(つちのえ)(つちのと)(かのえ)(かのと)(みずのえ)(みずのと)の総称だ。これを十二支と合わせて天干地支(てんかんちし)といい、時間や方位を表すものとして使われている」


 確かに、十干と十二支を合わせた六十を周期とする数は、時刻や方角、日や年数を表すのに普段から日常で使われている。耀天府でも、事件が起こった日付や年数を書き入れる報告書でよく使っていた。


「この十干を五行に順に配し、おのおの陽と陰を当てる。甲は木の陽、乙は木の陰、丙は火の陽、丁は火の陰……というようにね。そうして、人は生まれた年や日、時間によって、それぞれの五行の気の性質を有する」


 孤星は、五つの石の横にさらに二つずつ小さな石を置いた。『木』の横に置かれた小さな石の一つを「これが『甲』だ」と示し、さらに木の棒で二つ隣の『金』を示す。

 矢印の方角を見れば、『木』は『金』に弱い。つまり、『木』に属する『甲』も、『金』に弱いことが分かった。


「……だが、お前は仙人なのだろう? 五行の気とやらは調和しているんじゃないのか?」


 宋道長が食事の席で言っていた話を思い出す。五行の気を食事で取り込んで調和させることで仙人を目指すのだと言っていた。


「いい質問だね、小晨。仙人についてずいぶんと詳しくなったじゃないか。何のかんのと言いながら、私のことを仙人と信じてくれているし。偉い偉い、さすが我が師弟だ」

「……」

「冗談だ。そんな冷たい目でこちらを見ないでくれ」


 どうやら白孤星という男は、こちらが真面目に問うと茶化す癖があるようだ。さっさと答えろと目線で促せば、孤星は何事も無かったように口を開く。


「確かに、私には内丹があり、五行の気を循環させている。だが、元々生まれ持った性質までは変えられない。男が女に転じることが無理なのと同じだ。対処できないことは無いが、苦手なものは苦手なのさ」

「……何だ。案外、仙人も人間と変わらないんだな」


 仙人は、人間を超越した万能の存在だと思っていた。

 ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らす宇晨に、孤星は呆気に取られたような顔をする。そして、小さく吹き出した。


「そうだね、元は私も人間だ。……そういえば、小晨はいつの生まれかな? 火の気が強いようだから、丙か丁の年かな」

「ああ。丙午(ひのえうま)の生まれだ」

「それはまた、火の気が強いはずだ。丙も午も、どちらも陽の火の気がある」


 孤星はそこでにんまりと笑った。宇晨の方へ身体を傾けてきて、わざとらしく耳打ちしてくる。


「これは運命かな。木の性と火の性は相性がいいんだよ」

「ならば五行の話は当てにならないな。お前と相性がいいとは思えない」


 宇晨が嫌そうに立ち上がると、「アイヤー、ひどいな」と孤星は大げさに嘆いてみせた。

 彼に構わず、宇晨はぐっと腕を伸ばす。そろそろ見様見真似の座禅も飽きてきた。他の道士達の中には武芸をしている者もいるのだから、自分も少しは動いてもいいだろう。

 孤星から少し離れて、宇晨はゆっくりとした動きで白打(はくだ)の型を取る。そんな宇晨を時折見やりながら、孤星は地面に置いた石の円を何やら思案するように動かしていた。



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