~考えなしではない~
はい。前回に引き続き私です。レイカです。
現在。私たち3人は、いや、私とロイドさんは二人で
「グオオオオオオォォォォオオオオッ!」
「「アアアアアアァァァァァッ!」」
腐臭香る「死霊竜」、通称「デスドラゴン」相手に全力疾走中。
で。
「それではお二人とも、1時間ほど時間稼ぎお願いしまぁ~すぅ♪」
そんな私達を他所に、帽子の希望屋店主。意気揚々の様子でホープさんは森の奥へと消えていった。
「「アアアアアアァァァァァッ!」」
そもそもなんでこうなったのか。
それを説明するには5分前に遡る事が必要になる。
(5分程前)
「「はい?」」
二人は森の入り口に入ってすぐの場所で素材の入手方法について聞いていた。しかし、それの内容が二人を呆然とさせる事になった。
その内容とは
「えー、この森に居るモンスターはですねぇ。他の国に生息するモンスター。即ち流れ者ならぬ流れモンスターがウヨウヨ居るんですよ。しぃかぁもぉ。流れ者故に渡ってきたモンスターでしょう?強いんですよぉ~。ホホホホホ!」
「で、それと素材に何の関係が?」
「はい。問題はこの森の奥にある「妖精の泉」に素材があると言うことでして。その道中、厄介なモンスター達が居るでしょう?」
「そうですね。」
「お二人には私が妖精の泉に辿り着けるよう、"囮"になっていただこうかと!」
と、言うことである。
そして現在。
「のぉぉぉぉぉ!」
「どうしてこうなるんだぁぁぁっ!?」
「「助けてぇぇぇぇっ!」」
レイカとロイドはこうしてモンスターに追いかけられているのである。
「ええい!逃げてばっかりじゃ気に食わないっ!」
逃げてばかりは性に合わないとレイカは追い迫るデスドラゴンの方を見る。
「とうっ!」
声を出し、レイカは高く跳躍する。
そしてデスドラゴンは跳び来るレイカを見据えて牙を向けた。
「…!」
それをレイカは剣でその牙を受け止め、スルリと受け流す。
ーシュラァァァッ!ー
牙と剣が擦れていく。
回避。見事に攻撃から身を守ったレイカは牙を受け流した力とその方向をそのまま利用。回転し、デスドラゴンの両翼を斬り捌いた。
「フッ。決まりました…。」
「レイカさんスッゴ!」
レイカの素晴らしい剣技を目の当たりにしたロイドは感嘆の声を漏らす。が。
ーゴアァァアアッ!ー
「レイカさん!後ろッ!後ろォォォっ!?」
「はい?ギャンッ!?」
デスドラゴン。2匹目である。
レイカはそれに「ペチリ」とおはじきの様に弾き飛ばされる。
「ひでぶっ!?」
かつ、飛ばされた先で木にぶつけられるレイカ。
肝心のロイドは
「うわぁぁぁ!でっかいハチィィィ!?」
2匹目が連れてきたキラービーの軍勢に追っかけ回されていた。
(一方その頃。「妖精の泉」)
「ンッンー♪この死神森、モンスターこそ凶暴で数も多くめんどくさい所ですが、此処に自生する果物はとても美味しいんですよねぇ…うっふふふw」
と、二人がモンスターの軍団に追いかけ回されている。いや、自分の安全のために囮にしたのは彼なのだが。ホープはモチャモチャと森の果物を食っていた。しかもその手には既に目的の物が入っている瓶がある。
そう。つまり本当は1時間もかからないが、森の果物欲しさに敢えて1時間の時間稼ぎを頼んでいたのだ。
とんだクソヤロウである。
(そんなこんなで1時間経過。「死神森」入り口)
「ただいま帰りましたぁ~♪道中結構な量のモンスターが倒れていましたが…もしやお二人が?」
ホープが帰還する。それもかなり満足した様子で。
その一方。
「「そうですよ!クソヤロウ!」」
と、怒り気味に返答をする囮役二人。
二人の服や鎧は度重なるモンスターとの戦いで既にボロボロ。レイカの制服は所々肌が見えてしまっている。気にする程のものではないが。
「まぁまぁ、お二人のお陰で?私は安全に素材を採ってこれましたのでぇ?」
と、ホープはその手に持ってきた素材入り瓶を見せる。中には花や種等が入っている。
「それと、「妖精の泉」の水が入った瓶が一つ。」
続けて懐から小さな小瓶を出して見せた。
「はぁ…。一応時間稼ぎの囮をさせられたのは良かったって事ですか…。」
「あぁぁぁ…ドラ○エとかみたいに少しずつ敵が強くなるとかじゃなくて、いきなり化け物とやらされるとか…。一時はどうなるかと…下手死ぬとこでしたよ…。」
二人はその場にぐったりと倒れ、大きく溜め息を吐いた。しかし、状況とそれに至った経緯はあれど、二人はやりきったその事実からか、自然と満足そうな顔をしていた。
こうして、案内役の素材は揃う。
(「帽子の希望屋」その店内。)
レイカです。
かくして私とロイドさんの必死の囮活動と、ホープさんの…いや。なにもしてないかもだけど。
三人でようやく集めた素材を使って、ホープさんは帽子を作りました。その名も
「完成しました。こちら木手黄帽です。」
「木手黄帽…」
と言う変な名前の黄色いハンチング帽。
本人曰く、名前は目的から「もく」を取って。
かつ素材は森の素材で一部樹木の樹皮を使っているから「木」。とかなんとか。後はその場のノリだそう。
「小さい手みたいな形の木製バッジが付いてますけど、これって?」
帽子を受け取ったロイドさんは帽子についている手のバッジを指差した。
「見たところ普通の手形のバッジですけど。」
「ああ、そちらは"貴方がこれから目指そうと思った所"を指差す仕組みになっています。」
「おお!だから木手黄!これで案内は得たようなものですね!ありがとうございます!」
「.......」
(名前だっさ。と言うか分かりにくいですよ)
(午後6時)
気がつけば夕陽に街が照らされ始める。
「お代の1300G。確かに頂戴しました。」
店の外で、ホープさんはロイドさんからお代を受け取る。お代を渡したロイドさんは後頭部を掻く。
「いやぁ、意外と高くてビックリしましたけど、まさか死神森のモンスターで結構稼げてて良かったぁ…」
そう。駆け出し冒険者ながら1300Gと言う地味に大層な金額を払った訳で。それでもロイドさんの財布の中にはまだ余裕が残っている。
(そして、地味にその財布の中身を見てニタニタするロイドさんの顔は、ちょっと気持ち悪かった。)
「それじゃあ、俺行きます!本当、ありがとうございました!いつかまた来ます!」
「はぁい。ではまたのお越しを。我ら帽子の希望屋。いつでもお待ちしております。」
こうして、見事案内を手に入れた駆け出し冒険者。もとい転生者のロイドさんは。満足したように店を去っていった。
さて、と。
「あの」
「はい?」
「今日の素材採りって、もしかしてわざとですか?」
「ええ。本当は「木手黄帽」の素材なんて街でも買えますし。」
「…うわ」
今何気にヒドイ事実突き付けたホープさんに私は声を漏らす。
「けど、わざわざ他の店とかで買って揃えるよりぃ。タダで素材を手に入れられる手段を取った方が経済的に楽じゃないですかぁ~♪あはははぁ♪」
「……」
(酷い。酷すぎる)
最低な理由で私達を振り回した訳か。
ここは一度、思い切り殴りたいところなのだが、正直、今回の疲労で体が重くて殴るだけの気力はない。
無念である
しかし、そんな私の無念なぞ知るよしもなく。
ホープさんは言葉を続ける。
「ですが、"転生者"の人は余程真面目でない限り、調子に乗って世の中を不安定にしがちですからねぇ。」
「え?」
「彼、そこそこに成長早かったでしょう?」
確かにそうだ。
今回行く事になった死霊森で、ロイドさんは最初こそ逃げ回っていたものの、私の援護をすると言い出し、必死に着いてきてくれていた。その中でも地味に倒せるモンスターの質を上げているのも確認した。
「なのでまず、この世界の厳しさを教えました。まぁ、半分は楽がしたいだけでしたが。と、それはさておき。転生者は自らの力を過信しやすく。それ故に此方の世界などを支配しようとしたりしてくることもあるんですよ。」
「…それじゃあ、あの人は」
「ですが、」
「?」
「それは"最初から一人"だった者の場合です。今回のように私やレイカさんに頼り、解決をした。そうして"誰かと共にある"と言うものを知った転生者は、その道には走らない。」
なるほど。要するに「人の存在」の「ありがたみ」を教えたかったわけか。
でも、それがあったとしても後に心変わりを起こして来たりはしないのだろうか。私はそれを聞いてみる。
「そうですね。それも無いとは言えません。」
案の定の答えが返ってきた。
が。
「ですが、一度縁は結ばれた以上、何かの役に立つ。その大切さにさえ気付いてもらえば。と。それ以外はあまり。スミマセンねぇ。」
「いえ。話してもらって参考になりました。ありがとうございました。」
「いえいえ。」
この話の後、ホープさんは続けてこの世界の事について。この世界の住人である私が知らない事を少し口にした。
まず一つ。
この世界は今回のロイドさんのような転生者から伝わった知識や技術が使われていたりしていること。主に一週間の曜日とか、航空とか。
二つ。
私が居るこの国は、最も転生者が集まりやすい土地であること。
以上の二つだ。これ以外はまた今度教えてくれるそうだが、これだけ知れたのでも今は満足だ。
「ふぅ~!」
今日はメチャクチャ疲れたけれど。
ホープさんは地味にクズだったけど。
けど、ちゃんと人の事も考えてたことに少しホッともしたし感心もした。悪い人ではないことにも安心した。
取り敢えず、今日は私も帰るとしよう。
「それじゃあ、今日は帰ります!」
「ええ、また明日お願いしますねぇ?ホホホ。」
店の裏に置いた荷物をまとめ、私は走って帰る。
空には少しずつ、星がきらめき始めていた。
続く
後編。
ロイドさんはこれから先も度々出ます。
そして私も適当に物語を書いていきます。
趣味なので。