~つかの間の解決と迫る危機~
形勢はホープさんにより逆転した。
敵を見据えて剣を構え直し、しっかりと地に足を着けゆっくりと周りに目をやる。そして私は一つ妙なことに気が付く
レ)「そう言えば…」
これだけの騒ぎ、普通ならば野次馬が居てもおかしくはない。だが、それが居ない。
ホ)「フフフ。それは私に連絡をしてくれたセリスさんがついでに周囲の人達を避難させると言っていましたから、それが上手くいったのでしょう。」
レ)「なら周りに心配する必要は無いと言うことですよね?」
ホ)「ええ。ですが私は今回装備を持ってきていないので、サポートのみとなりますが…宜しいですか?」
十分。一人で戦うよりずっと楽だ。
後方支援があるのなら無理にでも前に出ることが出来る。
レ)「ふっ!」
風来帽を使って私はローブ男の元に飛ぶ。
?)「がぁぁぁぁっ!来やがるかソッタレがぁっ!」
レ)「当然!逃がす気はないから!」
風来帽で飛ぶ勢い剣を振るう。
?)「ぐがっ…!」
勢いが着いている分直線的だが威力はその勢いで上乗せされている。
?)「糞がっ!雑魚がチョーシ着いてンじゃねぇぞっ!」
私が素早く攻撃を繰り返すことに鬱陶しさを覚えたのか、ますますヤツの顔がどんどん赤くなる。何度もやられていればバレるような直線的な攻撃。それすら正面から向き合うしか手を打ってこない辺り、頭に血が上って思考が回っていない。
?)「らぁっ!」
男が風を放つ。
レ)「"ワルツカウンター"!」
?)「何ッ!?俺の風の回転に動きを合わせて…っがぁっ!?」
風来帽の効果も相まって無理矢理カウンターをねじ込めるようになった。ゆえに私は風を利用しグルグルと体を回転させ、力を受けながら流して斬るいつものスタイルに出る。
?)「雑魚がぁっ!ああああ!」
レ)「悪いんですけど、その雑魚に今押されてるあなたはそれ以下じゃないんですか?」
?)「けぇぇぇぇぇっ!」
ホ)「あーあ。正論突かれて何も言えなくなってますねぇ。ただ吠えるだけの獣になってますよ。」
シスター)「と言うか、相当間抜けですよね…。」
ホ)「レイカさんの攻撃は受けありき。自分自身の攻撃力は欠けるものの、相手の攻撃の力を受け流し、そっくりそのまま返すもの。格上相手であればその威力は更に上がる。それに、戦術的に「待ち」とは冷静になればすぐに見破れますが、攻撃するために使う手段によっては突っ込まざるを得ない場合もある…。」
シスター)「風来帽…でしたか。あれ、あの男に対して致命的とも言えるアイテムでしたね……。機動力もさることながら、風に耐性だなんて。」
ホ)「いやはや、適当に新しい素材を試すため作った最初の帽子がこのような形で役に立つとは思いませんでしたがねぇ。おっと。」
レ)「せいやぁぁぁぁぁっ!」
掛け声と共に振るわれた刃は敵の右肩をしっかりと捉え、斬り離す。
?)「ぎゃぁぁぁっ!」
鮮血が飛び散り、右腕が宙を舞う。
そして続けて男が苦悶の声で叫んだ。
?)「クソッ…クソクソクソクソクソ!あァァァァ!」
レ)「……」
風を封じられた以上、既に打つ手が無くなり。その上で男は今右腕をも失った。最早ヤツにはこの状況を覆すだけの手段は無い。
レ)「詰みです。」
そう判断した私は剣の切っ先を男の顔に向けながら断言する。
調子に乗っているのはどちらだったか。
と、私は心で痛みに悶えながらも此方を睨む敵を見据えながら考える。
そもそも戦いにおいて先に叩くべきは「戦力にならない者」であり、先に戦力をたたくのは後方支援を許すことになる。相手はホープさんと言う駒を放り、私を優先した。それがこの結果を招いたのだ。
レ)「舐めてかかった結果、自らの過ちに気づくこと無くひたすら私を追いかけたのがあなたのミスです。」
?)「フーッ…フーッ…」
レ)「回収していたこの街の人達の魂を返してください。であれば今此処で命を取ることはやめます。」
?)「グッガガギギギ…クソクソクソ…!」
男はわなわなと身を震わせながら左手で頭を掻きむしった。しかし、斬り飛ばした右腕から流れていく血のせいか、男は少しずつ弱り落ち着きを取り戻し、震える声で呟いた。
?)「…今回は…俺の。負けだ…。魂の欠片どもは返してやる……だが、次会う時には……てめぇらを…。」
男は手を開き、空に向けてたくさんの光の玉のようなものを放つ。
…どうやら量を見るに被害が出ていたのは人だけではないらしい。
レ)「……」
動物だ。
それも猫や犬、鳥と言ったものばかり。
ここまでして何を目的としているのか。それを聞くべきなのだろうが、口が動かなかった。
こうして。
全ての魂が元在るべき場所に戻り、男は逃げ帰った。一件落着とは言えないかもしれないけれど。街に平穏が戻ってきたのである。
レ)「はぁ……」
私は風来帽で飛ぶのを止め地上に降り、周りの安全を確認し、それを判断し終える。
そして溜め息を吐いてその場にへたり込んだ。
先程まで全力で張っていた緊張の糸がほつれたのだろう。気が付けば心身共に小刻みに震えていた。
ホ)「お疲れ様でーす。ホヒー。私も疲れましたよ。」
へたり込んだ私に、歩いて寄って来るホープさんの声が聞こえた。いつもは憎たらしいと言うか意地悪で少しイラッとするような彼の声が、今は安心する。
レ)「あはは…お疲れ様です…。あ。そうだ。アイツの名前とか聞きそびれちゃいましたね。」
ホ)「? あー。アレですかぁ?まっ。覚えるまでもない者ですし、次に会った時で良いかと。」
レ)「何気に酷い事言いますね…。別に良いですけど………。それと、アイツ最初に何か言ってましたよね?あれって」
ホ)「逃げた魔導士がどうだ。とか言ってましたねぇ。話していた内容からして恐らくセリスさんのことでしょうが。」
レ)「ですよね。そうなるとやっぱりセリスさんがセレストから出た時にバレてたってことですよね?」
ホ)「ふむ。何はともあれ私の顔はまだ分かりませんが、確実にレイカさん。貴女は覚えられたでしょうね。怒りの元凶として。」
レ)「だぁぁ。」
確かに。地味に自分にも自信ありそうだったし。
優勢から道具一つですぐに返された挙げ句、格下に腕を持っていかれる重傷を負わされたのだ。気にしないわけがない。次は完璧な不意討ちとか仕掛けてきそうでイヤになるなぁ。
ホ)「流石にあれだけのおバカさんですから、上司に報告とかはしないかもですけどねぇ。ほほほ。」
レ)「まっさかぁ!そんなヤツが居たら普通に打ち首レベルですよ!」
(その頃、男は)
?)「イテェ…クソッ…!ボスには邪魔が入ったとだけ伝えておいたが…。あの小娘…絶対に俺がぐちゃぐちゃにしてやった後、殺してやる…!」
ホープの推測通り、ホープの事はあまり覚えていない上。報告は中途半端であった。
(そして場所は戻り、オルレニアの街。)
ホ)「それにしても風来帽の命令を何度も上書きして追いかけるとは。普通一時的に大ジャンプするくらい程度にすると思ってましたが。」
レ)「あっははは…。それについてはちょっと考えてたんですよ。」
ホ)「ほう?」
レ)「確かに渡された時はそうしようかな。とは思ってたんですよ。でも。」
ホ)「でも?」
レ)「それじゃたぶん追い付けないし。上を取られるのが確定しちゃいますから。」
ホ)「つまり。不利な位置を取らないように意識した結果、常に風来帽に命令を送ることで擬似的に飛行するという形になった…と。」
レ)「そう!そもそも風来帽の受け付けている命令が「行きたい場所」ですから。後はひたすら「アイツ」を意識するだけ。上手く行きました!」
ホ)「やはり宣伝役にはもってこいですねぇ。貴女。と。それはさておき。こうしてセリスさんが狙われている事が分かった以上。既に時間は無いと思って良いでしょう。」
レ)「と言うと?」
ホープさんは不敵な笑みを浮かべると、ピエロのメイクをタオルで拭きながら口を開いた。
ホ)「今回はあくまで偵察として雑ですがヤツをこの街に寄越した所でしょう。そして、その偵察が目的であるものの存在を知った。ならばこそ、次に送り込んでくるのは個ではなく軍が最も効率が良い。」
レ)「…………」
ホ)「レイカさん。スマホで"彼"に連絡を。私はスノウさんとセリスさんを集めます。」
レ)「分かりました。と言うことはもしかして。」
ホ)「ええ。セレストに行きます。事は既に始まっている。もう大人しく準備をしている場合ではない…。レイカさん。覚悟は出来ていますね?」
私はホープさんの言葉に大きく頷く。
そして私はスマホを制服のポケットから取り出し、ロイドさんに連絡をする。
ホープさんも同様にスマホを使いスノウさん達を呼び出す準備を始めた。
しばらくして皆が私とホープさんの元に集まってくる。
さぁ、今から始まるのはこの街を救うための冒険。
そして、セレストに住んでいた人達の弔い合戦だ。
私は空を見上げて息をゆっくりと吸う。
覚悟は決まった。覚悟と同時に私の胸は自然と熱くなる。その胸の熱と同時に、両腕に力が入る。
レ)「……フフッ」
不謹慎だけど、このメンバーで冒険に出る事になるとは思わなかったけど、少し楽しみでもあるのは皆には内緒。今は目の前に置かれた問題を片付けるんだ!
…続く
次回は1月12日~13日の予定です。
…眠い……。




