~居候を許して~
「ただいま…。」
いつもより重く感じる家の扉を開く。
扉を開けるとすぐさま家の光が出来た隙間から漏れ出してくる。寒風吹く夜の闇を少しばかり照らさんとするそれは、私も照らし出した。
「さぁ、ついに中に入るんだな!」
開けた扉の先から出た光に照らされる私の後ろにはひたすらにワクワクしているメリナさんが居る。
「はぁ。」
とにもかくにも、こうして私は心がミシミシと音を立てながら、それが現状への不満を告げているのを感じながら彼女を連れて、家に入るのだった。
「お帰りなさい。レイカ。」
帰って来て早々、真っ先に顔を合わせることになったのは母さんだった。
「う、うん。ただいま…。」
「帽子屋さんのバイトは終わったの?」
私の母さんの名は「ドリス」。
普段は私の通う士官学校の魔術師の科で教師をしている。
「勿論。こうして帰って来てるのが何よりの証明でしょ?」
私の答えに母さんは「そうね。あなたの事だもの。」と笑って返し、チラリと私の背後に視線を向けた。
「…ねぇ、レイカ。」
「なに?」
「後ろに居る人は、誰?」
来た。
覚悟していたけど思ったより早くにその時は来てしまった。
「えっと…ね。この人は…うわっ!?」
説明をしようと口を開いた途端。
ドン。と後ろから突き飛ばされた。
恐らく我慢の限界だったのだろう。突き飛ばし様メリナさんはすぐに口を開いた。
「私はメリナだ!」
「は、はぁ…。えっと。」
母さんはいきなり現れた彼女を前に、驚きを隠さず顔に出しながら私を見る。
「…ねぇ、レイカ。彼女、人の姿にこそ化けているけど。あの頭から少し出てる角とか手は…。」
そして横歩きで私に近付き耳打ちしてくる。
「うん。竜種。メリナさんは…炎竜だって。」
「え、炎竜…。」
ヒソヒソと話す私達を見て「何をしているのだ?」と呟いている。が、そんな些細なことは気にすること、気にされること無くひそひそ話は続く。
「…何で此処に竜種が?」
「本当は私も聞きたいよ…。実際、一度は会ってるとは言え、メリナさん今日初めて顔合わせしたようなものだし…。」
「一度会ってるのに今日が初顔合わせ…?何だか言葉が変な気がするけど…?」
「えっと…。この前大きな竜が街の近くに来たって言うことがあったよね。」
「ええ。あの騒動の最終的な対処は…あなたのバイト先の店主さんと他お二人の仲間がって聞いてるわ。」
「うん。で、その竜なんだけど…」
チラ。とメリナさんに視線を送る。
それを見て母さんもメリナさんに視線を送った。
「まさか…」
そう口にして目を丸くする母さん。
母さんの様子を見ながら私は溜め息共々
「悪い人じゃないから…。」
と、言葉を溢す。
「さっきから何なんだ…。待ちくたびれた…。」
二人のやり取りに退屈を覚えたのか、メリナさんは玄関で私の靴をつまみ上げたりしてぶつぶつと文句を言っている。
けどまだ動いてもらうわけにはいかない。
事を話すなら私の方が向いているし、何よりメリナさんは"直球"で今回の事を母さんに言いかねない。
私と彼女に面識があるとは言え、今回の頼み事は簡単に通るとは思っていない。
「取り敢えず、今日何があったのかなんだけど…」
ひとまず。私は…説明を始めた。
皆さんは知っているでしょうし、これはスキップ。
(5分ほどスキップ)
「と。言うわけで…。」
「大変だったのね…。で、本題は?」
理解を得られたのか、それとも普通に考えを読まれていたのか。母さんの口から「本題」の言葉が出た。
「うん。それでなんだけど…居候。させてあげてほしいな。と。」
やっと切り出した話にメリナさんが
「それだ!」
と両手を上げて手をパチパチと叩く。
一方、母さんは少し考えるようにしてから、「やれやれ」といった顔で私にこう返した。
「OKよ。部屋はあなたの部屋の隣でいい?」
「うん。ありがとう!でも彼処って物置にしてるところだよね?片付けないとダメじゃない?」
「なら、そこはあなたに頑張ってもらおうかしら。受け入れの代償ってことで。」
「わ、分かった…。何とか片付けてみる…。」
片付けの提案を飲む。
後ろではメリナさんが「やったな!やったやった!」と大喜びしている。
けど、
「でもまだお父さんがどう言うかよね。」
と、心配そうな顔で母さんが言う。
当然。先程の母さんの返事から分かるだろうけど決めるのは母さんだけでなく父も居る。
「それじゃあ、片付けよりも先に父さんを探してメリナさんの事を聞かないとだよね。母さん。父さんは?」
「今は書類整理の為、書斎に居るはずよ。」
「分かった!それじゃあ行ってくるね。」
「まだ何かあるのか?」
私は首をかしげるメリナさんを連れ、書斎へと向かった。途中、メリナさんが廊下に飾ってある甲冑とかに触ろうとするのを止めたりしたためいつもより時間がかかった。
(書斎)
書斎の扉を開く。
「お。レイカか。おかえり。」
山積みになった資料や本が置かれた机の前に父さんは居た。
「ただいま。」
父さんの名前は「デュオン」。この国にある騎士家の現当主です。
「珍しいね。帰って来て早々僕の書斎に来るなんて。もしかして、何か急ぎのお願い事でも出来たのかな?」
「あはは…。」
父さんはおおよそ。いや、ズバリのドンピシャ。大当たりの予想をしてきた。
ならば話は早い。
私はメリナさんの手を引いて父さんの前に連れていく。
「なっ!?竜種!?」
仕事の都合、魔物などの関係には詳しい父さん。
メリナさんの姿を目にすると、目を丸くしながら2歩後退して「どえええっ!?」大声を上げた。
「メリナだ!」
メリナさんが元気良く自分の名前を叫ぶ。
父さんはしばらく視線を私とメリナさんへと交互に合わせた後、「で…なに?何かあるの?」と、恐る恐る聞いてきた。
私は母さんの時と同様。今日起きた出来事と、既に母さんからはOKが出ていると言うことを伝えた。
父さんは今日の話に若干面食らった顔をしていたが、その内落ち着いたのか「ふぅ」と一息。その後話の内容から察したのか苦笑いをしながら聞いてきた。
「…つまり、その人を家に居候させたい。みたいな?」
「う、うん…。」
「いやぁ…騎士家の中には小竜を使役したりとかそう言うのは有名だし、見たこともあるけど…。居候させると言うのは聞いたこと無いなぁ…あははは。」
「父さんはダメ?」
「いやいやいや!いいよ!全然!別段悪い魔物でもない限りはOKさ!何より手合わせしてもらって、そうしてもう仲良くしてるのなら何も心配は無いじゃないか。」
良かった。最初は気まずかったが、思ったよりあっさりとOKが出た。
「ビックリ…したなぁ…」
OKを出してくれた父さんは情けない声を出しながら仕事の続きに手を着ける。
仕事の邪魔をしてはいけない。
私達は書斎を後に、私の部屋と片付けることになった物置部屋に行くため、2階へと向かった。
(2階・廊下)
「ついに私の住処が決まったんだな!これで寒い思いはしなくていいと言うものだ!」
「感謝してくださいよ?親が優しいから何とかなりましたけど、普通はダメとか言われてもおかしくないんですから!」
「と、言いつつ先のお前の方がダメみたいなこと言ってたじゃないか。」
「うっ。確かに…。」
話をしながら私達は物置部屋の扉の前に立つ。
「お邪魔するぞ!」
メリナさんは勢い良くその扉を開いて入っていく。
勿論。私もそれに続いて中へと入る。
物置部屋の中は少しホコリが溜まっているせいか、ほんのりと古めかしい匂いがした。
「うん。ふむふむ…中々年代物…?の道具やらがあるな。まぁ、私程ではないが!」
辺りに置かれた物を摘まんだり、手に取ったりしながらメリナさんは得意気に騒ぐ。
どうやら気に入ったらしい。
特に不満などは無さそうだ。
ならば後にやることは一つ。私は口を開く。
「それじゃあ、片付けて過ごしやすくしないと。」
「だな!」
片付けミッション開始。
此処は物置部屋だけに、人が生活する分には必要の無い物等も置いてある。まずはそれらを別の物置へと運んでいく。中に重い物があったりしたが、それはメリナさんがあっという間に処理してくれた。
おかげで40分ほどで要らない物の移動が終わった。
次に使えそうな家具。
これは元々此処に置いてある物だけでは足りないと判断。要らない物を運ぶついで、別の物置で目に入った物を運んできた。これらに関しては買ってから使わないまま置いてある物もあってビックリもしたが。
こうして、運んでは配置。運んでは配置を繰り返す。
忙しく二人は動く。
が、
「あとはいい。自分でやるぞ!」
いよいよ終わりと言うところで私は部屋から放り出された。
「どうして?」
と、彼女に聞いたが
「教えてもらったりするのは良いが、最後くらいは自分で考えるのが大事。」
とのことで、楽しみに待っていてほしい。
だそうだ。
ーボーンー
気が付けば時計が夜の10時を示していた。
「レイカ~。ご飯まだよね~?」
母さんの声が聞こえる。
そう言えばまだ晩御飯を食べていない。
「はーい!行きま~す!」
私は急いで晩ご飯へと向かう。
しばらくして
ご飯を食べ終えお風呂に入って、歯を磨き。
私は部屋に戻ってベッドに入る。
…疲れが溜まっていたのか、すぐに私は寝てしまったのでした。
うっかりこの際にメリナさんがまだ作業中だと言うことも忘れて。
なーんて、それは置いておいて。
この二日後、ようやくメリナさんが出てきて部屋を見せてくれたのですが。その部屋の内装が凄いことになっている。と言う話はまた別の話。
…続く
レイカの両親。
「ドリス」と「デュオン」。
二人は今後、ちょこちょこと出てくる予定です。
今のところ一章ではあまり出てきませんが。
次回は今週の土曜日辺りにでも。
今後も趣味の範囲で書いていきます。読んでくだされば幸いです。




